第7話 初恋-7

 大きな欠伸をした途端に入ってきたミキを前にして早野校医は、照れながらメモを取っていた。ミキはクスクス笑いながら早野先生の様子を伺っている。そんな気配を誤魔化しながら、早野先生は質問をした。

「えぇっと、名前は?」

「ミキです」

「みきちゃん…苗字は?」

「えーっと、そうね、緑川ミキです」

「緑川……って、緑川さん?直樹君とか、直人君とか、由理子さんと親戚?」

「あ、そうですそうです。よく知ってますね」

「まぁ有名だからね、あそこは。じゃあ、由起子先生とも?」

「はいそうです。ーっん?」

「なに?」

「いえいえ」

「何組?」

「はい二年です」

「二年何組?」

「えー、……二組」

「はい?」

「いえ、いえ、ちょっと忘れちゃいました。気分が悪くて……」

「は?」

「非常階段上がって、二つ目だったと思うんだけど」

「向こうの?」

「そうです」

「じゃあ、B組かな?由美子ちゃんの代わりに転校してきたの?」

「そうです。いま由美子さんの部屋に居候してるんです」

「あぁ、そうなの。じゃあ、山元先生に言っておくわ、後で」

「いえ、あの、大丈夫です。もう、言ってありますから」

「そう?でも、あの先生うるさいから」

「大丈夫です」

「…そう?じゃあ、そこに横になってて」

「はい、すいません。でも、先生よく知ってますね」

「何が?」

「だって、緑川って言っただけで、そんなによく知ってるなんて」

「まぁね、この学校小さいし、緑川家って言えば、イコール直樹君、イコールヒーロー、みたいなもんだから…。……あたしも年甲斐もなくファンだったりするの」

「へえぇー、知らなかった?」

「知らないの?直樹君って、もう将来の甲子園のヒーローって噂でさ、カッコいいのよ」

「知らなかった。確かにカッコいいけど」

「それにね、ミキちゃん」真剣な顔で早野先生はミキの顔を覗き込むように言った。「転校生なら知らないかもしれないけど、この学校にはね、すっごい新聞部があって、何でも報道してるのよ。あたしファンでね、全部買ってるの。それにね、知りたい情報はお金出せば調べてくれるの」

「はぁ?探偵みたいですね」

「すっごいのよ」

「はぁ…」あまりの熱弁にミキは圧倒されてまともに返事もできなかった。

「まぁいいわ。そのうちイヤでも知ることになるから」

「はい…」

「じゃあ、そこに横になってて。気分が悪くなったら呼んでね」

「はい」

 カーテンに仕切られたベッドに腰掛けてミキは少し考えた。そして意を決して、カーテンから顔を覗かせて、早野先生を呼んだ。

「先生」

机に向かっていた早野先生は、振り返ると優しく微笑みながら答えてくれた。

「なに?」

「あのね、ちょっと、お話があるんですけど…」

「いいわよ」

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