第6話 初恋-6

 朝日が登るころにはもうミキは身支度を済ませていた。由理子と一緒に朝食の用意を手伝い、あたかも家族の一員であるかのように振る舞う姿に、直人も直樹も呆気にとられていた。大きく、いただきます、と叫ぶ姿も、いつもの風景のようにその場に溶け込んでいた。

 直人が朝練に出掛けるのに合わせてミキは家を出た。由理子もそれに付き合って登校した。道順も知らずに前を歩き、早く早くと急かすミキにつられるように直人と由理子は早足で歩いた。緑道沿い北へ進み、やがて東に曲がり通学路へ出た。まだ人影の少ない通学路を先立って歩くミキは、時々振り返って早く早くと呼んだ。由理子と直人はそんなミキに呆れながらも、歩みを進めた。

 ほら、そこよ、と由理子が言うとミキは駆け出して学校を見つけた。そして校門へと飛び込んだ。由理子と直人が追いつくと、ミキは校門に立って校内を眺めていた。

「どうしたの?」

ミキはじっと校舎を見つめていた。

「どうしたの?」

ミキは応えず、じっとしていた。

「じゃあ、姉さん。僕、クラブ行ってくるよ」

「あ、いってらっしゃい」

由理子が直人を見送って振り返ると、ミキは目を瞑っていた、インスピレーションを働かせるかのように。

「さぁ、ミキちゃん。こっちは南門なの。北門へ行こうか?」

「んん、いい」

「どうして?」

「今日はこっちにいるわ。明日はもっと早く来て、北門に立つ」

「そう。じゃあ、あたし一度教室に行って荷物置いてくるわ」

 由理子を見送ると、ミキは校門にもたれ掛かって登校してくる生徒を待った。


 予鈴が鳴るのを聞いてもミキはその場を動こうとしなかった。学生の数がすっかり減ってしまった道をじっと見ていた。由理子は困ってしまった。そんな気配を察して、ミキは言った。

「いいよ。教室に戻っても」

「でも、ミキちゃんはどうするの?」

「あたし、もう少しここにいる。遅刻してくるかもしれないから」

「でも、そのあとは?」

「…保健室でも行ってる」

「ずっと?」

「うん。あたしね、お芝居も上手なのよ」

そう明るく言ってみせるミキが空元気のように見えた。

「放課後は?」

「早い目に、ここに来て、座ってる」

「……でも」

「いいよ。由理子さん。教室行って。遅れたら大変よ」

「ん、じゃあ、そうするわ」

「ありがとね」

ミキは小さく手を振りながら微笑んだ。生活指導の先生が妙な顔をしながらその光景を見ていた。

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