第5話 初恋-5
テーブルに地図を広げてミキは順番に学校を探していった。そして、指で名前を確認すると、あるものには丸印を付け、あるものにはバツ印を付けていった。その様子を由理子はじっと見つめていた。そして、ミキは今いる緑川家の所に大きく印を付けると顔を上げて由理子の顔を見た。あどけない顔に由理子は虚を突かれた思いをした。
「ね、このあたりってこのくらいなの?」
「ん、中学校はね。高校は、清明と旭くらい。でも、清明は女子校だから関係ないわ」
「あたし、たぶん、彼は、中学生だと思うの」
「そう」
「何となく雰囲気が、そうだった…」
「じゃあ、そのくらいね」
由理子が覗くと、南山電鉄沿線にはほとんどバツが付いている。代わりにJR沿線にはあまり印が付いていない。ミキの家は南山沿線沿いのどこかだなと推測しながら、由理子はミキの指さした所を覗いた。
「ね、この上岡ってどんなとこ?」
「そこは校区が広いから、生徒数が多いの。マンモス校で、結構遠いところからも通ってる子もいるっていうことよ」
「でも、市立だから、そんなに校区は広くはないわね。ね、こっちの、城西は?」
「そこは、普通くらいの規模だってことよ。ただ、ガラの悪い学校だって」
「ふーん。こっちの城南は?」
「そこも市立。このあたりで、私立は清明女学院と、緑ヶ丘だけ」
「どんな学校?」
「城南?あんまり詳しく知らないけど、結構進学に熱心だって聞いたわ」
「ひばりが丘は?」
「そこもあんまり知らない。ごめんね。こっちの三国中学は、市立だけど進学校よ」
「あと、金城と久野…、小磯、くらいね、ここから見に行きやすいのは」
「そんなとこまで行くの?結構遠いわよ。自転車貸してあげようか」
「やっりぃ!じゃあ、もう少し遠くまで行ってみようかな」
「でも、ひとつの学校を見るのに何日かかるの?」
「登校時と下校時に校門の所に立って見てて、…んー、最低二日くらいね」
「うちの学校でも二つ門があるわよ」
「だから、最低二日。ね、由理子さんの行ってる学校は、私立なのよね」
「そうよ」
「じゃあ、遠くから通ってる人もいるわね」
「うん。一時間以上かかってる人もいるわ」
「じゃあ、決めた。とりあえず、由理子さんの学校を攻めてみる」
「まぁ、いい線ね。確かに、ミキちゃんの家の近くから通ってる可能性はあるわ。でも、もし通ってるとしたら、どのくらいかかる?」
「そうね……、んー、ん?それは言えません。言ったら、あたしの家がバレちゃうかもしれないから」
「そんなことしないわよ。ただ、いくら遠くても二時間もかけて通ってることはないでしょ。せいぜい、一時間くらいかなって思ったから。ミキちゃんの家から一時間くらいで来れる?」
「自転車なら、そのくらいかな」
「うちは自転車通学は禁止なの」
「じゃあ……、んー、どうだろ。駅からなら、そんなもんかな?こっちのバスとかよくわかんないから、はっきり言えないけど」
由理子は南山沿線沿いに時間を計算してみた。大体、泉中央駅か、田園新町駅くらいだろうか、と思い巡らしながらミキを見た。ミキは真剣に地図を睨んでいる。と、顔を上げて由理子に訊ねた。
「ね、あたし、入り込んでも大丈夫かな?」
「あ、あぁ、由美子の制服があるから、それ着て行ってもいいわよ。サイズが合わなかったら、あたしのお古でも」
「ユミコ…?」
「妹。小柄だから、ちょっとミキちゃんには合わないかも」
「じゃあ、由理子さんのお古でいいよ。なんでもいいの。うまくもぐり込めれば」
「朝から行くの?」
「うん。早くに行って校門でみんな通るのを待ってる」
「そうね、北門の方がいいかな。バス停が近いから。南山鉄道沿線だったら、その方がいいわ、きっと」
「あ、そんなとこチェックしてたの?ズルイなぁ」
「自分で印付けたじゃない」
「だけど…、由理子さんってもしかして、すっごく、頭いいでしょ」
「そんなことないけど。でも、誰でもわかるわよ。ね、あたしにだけ教えてくれない。警察にも、お母さんにも言わないから」
「イヤ!」
「信じてくれないの?」
「それだけは、ダメ!」
「ふふ、駄々っ子みたいね」
「お姉さんみたいよ、由理子さんは」
「姉妹はいるの?」
「んー……、お兄ちゃんがひとりだけ」
「高校生?」
「んん、イッコ上。中三」
「名前は?」
「あ……、じゃないじゃない。
「勝手にミキちゃんが話してるんでしょ」
「もう口チャック。喋らない。それより、明日が楽しみね。どんな学校なの?」
ミキは目を輝かせながら由理子に問い掛けてきた。そんなミキが可愛くて、由理子は少しずつミキの問い掛けに答えた。
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