第4話 初恋-4
「でもね、ミキちゃん、そうやって探しても堂々と会える?」
「え?」
「家出して、学校さぼって、追っかけられて逃げ回って、それで会えて、堂々と会える?」
「……ぅん」
「彼は、そんなことしてるミキちゃんのこと、どう思うかしら?」
「いいの」
「え?」
「いいの。あたしだけが、会いたいだけだから。この傘、返したい、だけ、だから。いいの」
「でもね…」
「……わかってる。由理子さんの言いたいことわかる。変、だよね。悪いこと……してるんだもんね。でも、……会いたいの……。……正直に言うとね、ひどい目にも会ったの。入り込んだ学校の先生に、騙されて、ヘンなことされそうになったりしたの。ヤンキーみたいな連中にもからまれたりしたよ。だけどね、いい人もいたよ。ホント。こういう先生のクラスになりたかったな、なんて思うような先生もいたよ。そんなもの、なんだって…、思う。プラスマイナスゼロなんだって思う。いい人もいれば、悪い人もいる。だから、辛い思いすれば、きっと会えるんだって思ってる。そうでも、思わなきゃ、こんだけ探してるのに見つからないなんて、おかしいよ。あの時、どうして、彼と出会えたのかも不思議だよ。それっきりなんて、もっとおかしいよ。絶対会える。会ってみせる」
「ミキちゃん……、あなた、何年生?」
「あたし、……中二」
「そう。あたし、三年。直人が二年だから同じね」
「…由理子さん、…警察に言う?」
「んー、どうしようかなぁって思ってる。だって、このままだと本当に事件に巻き込まれたりしたら大変だもん」
「大丈夫、絶対」
むきになって叫んだミキに由理子は微笑みを投げ掛けて続けた。
「でも、ここにいれば、安全かなってね」
「え、それって?」
「お母さんに相談してみるわ。しばらくここにいてもいいかって」
「ホント?」
「うん。いまね、妹が手術で外国行ってていないから、その部屋を使えばいいわ。このまま野宿させるのは嫌だし、かと言って追い返せばまた家出するでしょ。じゃあ、とりあえずこの近くを探す間は、うちにいればいいんじゃないかなって、あたしは思うの」
「サイッコー!」
「でもねミキちゃん、ひとつだけ約束して」
「……なに?」
「この近くの学校を捜し回ったら、一度家に帰りなさい。んん、家に連絡するだけでもいいわ、ここにいますって。それがあたしの提示する条件。どう?」
「……ん、でも」
「親に心配かけて、危険を覚悟で徘徊して、それで彼に顔を見せることができるの?」
「ん」
「ミキちゃんの気持ちはわかる、なんて言うのもおこがましいけどね、でも、きっと色々とあって、それでそこまで思い詰めてるんだと思うの。だから、あたしの方からお母さんに頼んでみるわ。どう?」
「はい。よろしくお願いします」
ミキは小さく身を竦めて頭を下げた。おそるおそる顔を上げたミキが見たのは、慈しむように微笑む由理子の姿だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます