第3話 初恋-3

 由理子は少女の話を聞きながら想像していた。雨の光景と、少年の駆けて行く姿を。ミキは、そこまで話すと由理子の様子を伺った。そして由理子がじっと聞き入ってくれているのを確認すると、ゆっくりと続けた。

「それで、あたし、その子を探してるの」

由理子はこくりと頷いた。

「傘、返したいの。変だと思う?」

由理子は首を振った、が、間髪入れずに訊ねた。

「でも、家出までしなくちゃいけないの?」

ミキは大きく頷いた。

「見つからないの」

「どうして?その子、そのバス停の近くに住んでるんじゃないの?」

「んん。いないの、近くの学校、あちこち探したんだけど、見つからないの」

「でも……」

「たまたま、あそこに来てただけかもしれない。なにか用事があって、あたしみたいに。わからないの……見つからないの……」

 ミキの表情は深く沈んでいた。由理子は、同情しながら、それでも母の言いつけを思い出して警戒されないようにゆっくりと訊ねた。

「この近くなの?」

「んん。全然。ずっと、あちこち探したの。沿線沿いにずっと、学校さぼって、あちこちの学校覗いたんだけど、見つからないの。それで、家出したんだけど、それでも見つからなくて、警察に見つかって連れ戻されたんだけど」

「え、ちょっと待って。何回目の家出なの?」

「三回目」

由理子は言葉を失ってただミキを見つめた。ミキは悪戯っ子のように舌を出して照れ笑いを浮かべている。

「え、でも…」

「二回連れ戻されたの」

「あ、……でも、危なくないの」

「なにが?」

「だって、女の子がひとりで」

「あたし、脚速いから」

「え?」

「なにかあったら、すぐ逃げちゃう。今まで、五回、警官振り切ったのよ」

「あ…そう……」

「ま、二回捕まったけどね。五勝二敗。まぁまぁでしょ」

「……ん。でも、強盗とか」

「あ、それも大丈夫。ヒミツだけどね、心配ないの」

「あ、そう……。

 スマホは?最近は防犯アプリもあるみたいだけど?」

「スマホなんて持ってないわ。だって、どこにいるかバレちゃうじゃない!」

それとなく手掛かりを持ってないかと探りをいれた由理子のあては外れた。心配そうな由理子の顔を見てミキは応えた。

「あたしの方が強いから心配ないの。でも、寝るときは用心してるのよ。昨日もこの家の前で寝かせてもらったし」

「どうして?」

「こんな大きな家だったら、警備会社と契約してるでしょ。なにかあったら、ザックを塀の内側に放り込んだらすぐにガードマンがやってくるわ。でしょ?」

「あ、でも、それまでに殺されたりするかも……」

「そのくらいの覚悟がなくて、野宿ができますかって。でも、絶対、大丈夫。なにがあっても、この傘を返すまでは、絶対に…きっと」

ミキはザックに縛りつけてあった傘を抱きしめた。由理子はそんなミキにほだされて笑みがこぼれた。

「そんなに…会いたいの?」

「うん、絶対」


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