第2話 初恋-2

 庭に設えられたイスに腰掛け、テーブルに置かれたジュースをストローで啜りながら、ミキは、広い庭に目を遣っていた。植木の少ない芝生の敷きつめられた庭は、アメリカのホームドラマに出てくるような風景だった。ミキは、由理子が注視しているのに気づかないまま、ジュースを飲み干した。と、目線を由理子に戻し、はにかみながら微笑んだ。由理子はそんな子供じみた仕草に親近感を覚え、ゆっくりと問い掛けた。

「ね、ミキちゃん」

ミキは輝く瞳を由理子に向けながらじっと聞いていた。

「さっき、普通の、家出じゃないって言ったわね」

「ん、そうだよ」

「それ、あたしに、詳しく教えてくれない?」

「ん、…いいけど……、…笑わない?」

由理子はきょとんとしてミキを見つめた。ミキはじっと由理子の様子を見ていた。由理子は、静かに頷いた。ミキは、それを見て、ためらいながら、ゆっくりと口を開いた。


                 * * *


 しとしとと雨の降り続く中でひとりの少女が空を見上げながら雨宿りしていた。薄暗い風景の中でやむあてのない空を見つめていた。

 駅でバスに乗るまでは陽が射していた空は、いつの間にか重い雲に覆われて雨が降り出した。少女がバス停に降り立ったときには、風景は完全に一変していた。出掛けに母に傘を持っていくように言われたのを、軽く笑い飛ばして家を出て来てしまった。いまさら、迎えに来て欲しいと電話して言うのもためらわれた。それ以前に、スマホを忘れてきた。おめかしした服装には何となく合わないような気がして、バッグに入れるのをためらっていたら時間に遅れそうになって慌てて家を出てしまった。

 バス停の周りには電話する場所もない。おめかしして出て来たので雨に濡れたくはなかった。雨に濡れて母に咎められることも想像すると、とても電話ボックスを探しに駆け廻ることはできなかった。

 雨は降り続けている。

 遠くからバスがやって来るのが見えた。誰か知り合いはいないだろうかと期待して、少女は到着を待った。静かにバスが止まり、数人の乗客が降り立った。その中に、少女の顔見知りはいなかった。落胆してバスを見送ると、また空を見上げた。

 ふと、少女が気づくと、ひとりの少年が雨の中で傘をさして少女を見ていた。いま降りた乗客のひとりだと気づいたとき、少年は少女の方に近づいて来た。そして、手に持っていた傘を差し出した。無言で突き出された傘に少女は戸惑い、少年の顔と傘を交互に見た。少年は、ぐっと傘を突き出し、

「傘、ないんだろ」と言った。

少女はこくりと頷くと、少年は、ほら、と言って少女に手渡し、そのまま雨の中に駆け出して行った。少女は戸惑ってしまい呼び止めることもできずに、少年を見送ってしまった。


                 * * *


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