第20話 赤い竜のカルビを手に入れろ!
勇者パーティーがドラゴンのロース肉を納品した日の夜。
ユピテルは仕事の斡旋をした監督の男性から報告を受けた。
「ユピテル。あのオグスの所属する勇者パーティーの事だが、彼らはなかなか筋がいいぞ」
「筋がいい?」
「初日にしてドラゴンのロース肉を3個も納品した。こちらとしてはかなり無茶な要求をしたつもりだったのだが」
「ただの勇者という訳でも無さそうね。所で例のカルビはまだ納品されないの?」
「滞っているね。さすがに無茶だったんじゃないかな。レッドドラゴンのカルビを手に入れろ、は」
「変な物を食べるゲテモノ食いの美食家の横暴に応えるよりはマシよ。こちらは領主様の依頼なのだから」
「そりゃあそうだけどさ」
思わず反論しそうになったマネージャーだが止めた。
闇ギルド【ダークソウル】は世間一般的に出回る事のない食材を一部の狩人から買い取る業務もしている。
そして大口の客が入るとかなりの儲けとなるので優先的に仕事を受ける。
のだが、たまに無茶振りをする美食家がいるので困ることもある。
この間は何処で情報を手に入れたのか、とある異国では蛙を煮込む文化があるから食してみたいと宣うゲテモノ食いが依頼をしたが、狩人からは総スカンをされた。
蛙を食べるなどと気持ち悪いとの理由だ。
この辺りにに棲息する蛙はポイズントードという毒の蛙。そいつを食べるなど無茶にも程がある。
なのでこの依頼は蹴られた。
そしてレッドドラゴンのカルビを晩餐会まで納品をして貰いたい、という依頼は領主からの依頼だ。レッドドラゴンの肉はかなり美味であるという評判で特にカルビは舌の上でとろける程の美味しさだとか。
しかしながら、レッドドラゴンを狩る狩人の数はあまりいない。そもそも強敵なので狩るにしてもかなりの時間を要する。
カルビの納品の期日は迫りつつある。
納品する時間にせよ、それを届ける時間にせよ、まる1日はかかる。その納期まで後3日足らず。
ユピテルは酒瓶の蓋を開けると口に含み飲み始める。
明日。勇者パーティーが仕事を求めてきたら、試しにレッドドラゴンを狩る仕事を斡旋してみようかと考えた。
5000ギルダの給料を得た勇者パーティーは更に手持ち金として2000ギルダを得ていたので、聖騎士シリーズの一つ『聖騎士の斧』を購入してハザードの装備を調えた。
これで後は勇者クレアと魔法使いエリオットだけで一段落だ。
彼らは宿屋に向かい朝を迎えると集会所にもなっている例の筋の者が足を運ぶ酒場へ朝食を摂る為に酒場【ブラックローズ】の中へ入る。
「いらっしゃいませ」
「マスター、モーニングセットを」
「はいよ」
卵が何個か割られボウルに入れられると少しの塩とハーブを投入されて空気を入れるようにかき混ぜる。
それをしながらマスターは彼らに仕事の話をした。
「後で奥の隠し通路に向かってみるといい。ユピテルから新しい仕事の依頼が入っているから」
「どういう依頼かしら?」
「聞いてみればわかるよ」
モーニングセットは焼き立てパンとスクランブルエッグと玉ねぎとピーマンとパプリカの炒め物に、スープはオニオングラタンスープが出てきた。
それを食べた彼らは奥の隠し通路に通じるドアへと消える。
闇ギルド【ダークソウル】の首領ユピテルがそこで彼らを待っていた。
「ユピテル。俺達に仕事の依頼かな」
「ええ。今度はこんな依頼なのよ」
1つの紙を受け取るオグス。
そこには領主がレッドドラゴンのカルビを晩餐会に用意したい。褒美として15000ギルダを用意する、と書かれている。
つまりはレッドドラゴンを狩り、カルビ肉を納品しろという依頼なのだ。
「レッドドラゴンを狩ってこいなんて随分と無茶な話だね」
「オグスがこの間、独りで倒しに向かったダークドラゴンよりも強い種だ。確か」
「褒美の金額も魅力的だけどね」
「レッドドラゴンってこの辺にいるの? その前に」
「居ないな。レッドドラゴンはドラゴン種ではかなりの力を持つ。まずこの辺にはいないぞ」
ユピテルはそこで闇ギルドのつてを使ってそのレッドドラゴンがどこならいるかを調べたらしい。
「オグスの事だからそういうと思ってレッドドラゴンの根城を何個か探して貰ったわ。とりあえず3箇所という所ね」
「バルサリオンから近いのは……竜の尻尾と呼ばれる半島か」
「陸つたいには行けそうね」
「でも厄介この上ない依頼だね」
「何なら勇者クレアに使えそうな剣も報酬として渡してもいいわよ」
「叛逆の剣という剣だけど」
「やってみない? みんな」
「クレアがやると言ったら引かないしね。やってみようか?」
バルサリオンの街から出ると、彼らは竜の尻尾と呼ばれる岩山が囲う地帯へと向かう。
この辺りに旅人はあまりいない。
竜の尻尾という地方は、不毛な大地でかなりの強敵が徘徊する地域なのだ。
彼らの脚でも、そこまで行くのにその日の夜までかかった。
武器の新調のお陰で普通に倒せるようになった彼らは、またハザードのツテを使い、野営できる旅の宿屋を呼びながら、そこを目指した。
2日目の昼頃に竜の尻尾に到着した。
周りを徘徊するのはドラゴンばかり。
彼らはまともにやり合うと身が持たないので素早くレッドドラゴンの洞窟へと入っていった。
とてもシンプルな洞窟で、宝箱とか無さそうだ。レッドドラゴンは奥の洞窟で眠りにつく。
それを目にした勇者パーティーは簡単な打ち合わせをする。
「どうする? 真正面から闘おうとするには少し手に余る相手かもしれないぞ」
「不意打ちをしようか?」
「エリオット。どうするつもりだ」
「眠っているなら一気に攻撃する。この魔法でな。
エリオットは詠唱をすると竜殺しの魔法で有名な攻撃魔法。
レッドドラゴンが目覚める。そして火炎を口から吐いた。
ハザードとクレア、エリオットはそれぞれ強い呪文や武器の攻撃を仕掛ける。
しかし、レッドドラゴンは強敵だ。レッドドラゴンの重い爪の攻撃がハザードの腕を傷つける、クレアの腹をなぎ払う。エリオットは後方から
オグスはハザードやクレアの傷を癒やしながら段々と追い詰められているのを察した。
そして、とうとうレッドドラゴンの痛恨の一撃がクレアに直撃した!
「クレアーーっ!!」
その時だった。
魔法使いエリオットの姿が変身した。
銀髪のショートカット、耳はウサギのそれ、瞳は大きく真っ赤な瞳。連れに犬のトリスを連れた、人の姿から離れた神獣の姿がそこにあった。
「
皇種メギストスに変身した彼女は、その呪文を唱えたら、気絶したクレアを覚醒させて、絶対的な魔力の奔流でレッドドラゴンを一撃で仕留めた。
俺の他にも皇種と呼ばれる神獣が人間に化けて存在していたのか。
しかも彼女は錬金術師の始祖とよばれる神人、トリスメギストスかも知れない。
レッドドラゴンは倒れて息を引き取る。
変身を解除する魔法使いエリオットは、驚くパーティーのメンバーに、黙っていて申し訳ないと、レッドドラゴンの体を解体してカルビに加工した。
茫然としていたパーティーは兎にも角にもレッドドラゴンのカルビ肉を手に入ったのでそれをユピテルに届けに向かった。
帰りはキマイラの翼というアイテムでバルサリオンまで戻ったのだ。
「ユピテルさん。勇者パーティーが例のカルビ肉の納品にきましたよ!」
「間に合ったようね」
酒場【ブラックローズ】の奥の部屋にてレッドドラゴンのカルビ肉を納品する勇者パーティー。
約束の報酬、お金15000ギルダと勇者クレアなら使いこなせるのではと、両手持ちの剣の叛逆の剣も貰えた。
これで戦力がやっと整うね。
そんな事を話す勇者パーティー。
しかし、その騒ぎの中で
不思議に想う彼らに魔法使いエリオットも隠せないと思い至ったのか、その夜。
皆にその話をしようと考えていた……。
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