第19話 ダークソウルでの初仕事

 闇ギルド【ダークソウル】の正式な歓迎を受けた勇者パーティーは、その夜はかなり更けていたので信頼を取り戻した後、宿屋に戻った。

 しばらくはバルサリオンで過ごす事にした彼らは、朝日が昇る頃に起床して朝飯を食べる。

 ソーセージとレタスとトマトが挟まれたホットドッグとオニオンスープとサラダを食べた彼らはバルサリオンの街の裏通りに向かう。

 そこには闇ギルド【ダークソウル】が昼間の受付として開いている集会所がある。

 その集会所に入る為の証となるアイテムを昨夜、ユピテルから貰った彼ら。

 集会所の外には見張りが当然のようにいた。ガラの悪い裏の筋の人間っぽい。 


「若い女の子連れのパーティーが何の用だ? ここは闇ギルドの集会所と知ってるだろうな!?」


 オグスはそこでユピテルから貰った証を門番に見せた。ダークドラゴンの角の御守りだった。

 ユピテルがオグスに制裁として行かせたのは証となるダークドラゴンの角を自分自身で取りに行かせたのだ。

 門番は呆気なく闇ギルドの集会所へと入れてくれた。

 そして仕事を斡旋して貰えないか尋ねた。 


「勇者パーティーともあろう者達がうちの仕事をやりたいとは、ねえ……」


 呆れた様子で集会所を仕切る監督が呟いたが勇者パーティーは斡旋してくれたら、最優先でこなすと付け加える。 

 そこで【ダークソウル】では1番最初に受ける事になっている仕事を依頼した。


「じゃあこの仕事に行って貰おうかな? ドラゴンのロース肉を3個納品してくれ。ダークソウルではまずこの仕事をするのがルールなんだ」

「ドラゴンのロース肉を3個だね」 

「この辺りにはドラゴンが徘徊する洞窟はかなりあるから何処で狩ってもいいが、きちんとロース肉に解体して持ってきてくれよ」 


 集会所から出たパーティーはオグスにドラゴンがよく徘徊する洞窟の場所を聞いた。


「ドラゴンが徘徊する洞窟だと手軽そうな場所は何処なの?」

「バルサリオンから北にある竜のほこらかな。あそこならドラゴンしか徘徊していないから返って安心できるよ」

「面白そうな場所だね」

「そういう場所って案外、お宝があったりするぜ」

「案内するよ」


 バルサリオンの街から出た彼らは北の方角を目指す。

 しばらく歩くと山が見えてきた。その麓にドラゴンが徘徊する"竜のほこら"があった。

 すると慌てた様子でほこらから出た男3人のパーティーがいた。

 彼らは叫んでいた。


「聞いてねーよ! キースドラゴンがいるなんて!」

「命が幾つあっても足りねーぜ!」


 慌てて逃げる男3人のパーティーを尻目に勇者クレアのパーティーは竜のほこらへと入っていった。

 赤みを帯びた岩窟で自然にできた洞穴らしい。そして当然のようにドラゴンが闊歩していた。

 彼らは武器を構えてドラゴンに戦いを挑む。ごく普通の四足歩行のドラゴンだが、バルサリオンの辺りをうろつく魔物より数段は強敵だ。

 濃いめの緑色の表皮のドラゴンは口から火炎を吐いた。

 彼らは分担して撃破に臨む。

 ハザードは足元を狙って切り崩す。

 魔法使いエリオットは後方から氷の呪文で氷の刃を降らせる。

 オグスは目にも止まらぬ瞬速の突きを何回も浴びせる。

 クレアはドラゴンの顔面を踏み台にして一気に上空から剣を振り下ろす!

 以外に呆気なくドラゴンを倒した彼らは狩りをしたドラゴンの遺骸を解体してロース肉となる場所を丁寧に剥ぎ取る。

 一匹のドラゴンに対して3個程取れるロース肉を手に入れた彼らは、竜のほこらから去ろうとした、その時。

 キースドラゴンというドラゴンの上位種が彼らに猛然と奇襲してきた。

 紫色の鱗が特徴的な猛毒を宿すドラゴンだ。噛みつかれるとまずは猛毒を流し込まれ徐々に体を蝕む。


「ちっ! やはり、キースドラゴンに気付かれたか!」

「奴は縄張り意識が強いんだ。異物である俺達を葬ろうとしてくるぞ!」


 しかも場が悪いのか3体ものキースドラゴンが立ち塞がる。紫色のドラゴンは揃って口から火炎を吐いた。

 魔法使いエリオットがファイアウォールという炎の壁で防いだ。

 しかし何発も吐いてくるのでエリオットは怒鳴る。


「ファイアウォールで防げる内に倒せ!」

「俺から行くぜ!」


 ハザードが斧を不規則に振るいながら突撃する。不規則そうに見えてあれはその後に続く攻撃にも繋がるようになっているのが面白い。

 オグスはクレアの傷を治療した後に聖騎士の槍を構え瞬速の突きをキースドラゴンに叩き込む。

 クレアは龍乱舞という軽めのコンボ攻撃を繰り出してまずは1体目を倒した。

 ハザードがそれを見ると他のキースドラゴンにも突撃する。身体を当てて態勢を崩すと一気に斧で叩き斬った。

 残るキースドラゴンは1体。

 キースドラゴンが頭突きをかましてくる。

 吹き飛ばされるハザード。すかさずオグスが治療に専念する。

 まともに戦えるのはクレアとエリオットだ。そこで前々からやろうと思っていた事を提案する。


「エリオット。私の剣に氷の魔法を纏わす事ができる?」

「今ならできると思う! やるか? クレア」

「今しかチャンスはないわ! きて!」


 クレアが大袈裟斬りをキースドラゴンに仕掛けると同時に氷の魔法を唱えるエリオット。彼女の剣に氷の力が宿り一気に斬り裂く。

 するとキースドラゴンは内臓から凍り、バッタリと倒れて息絶えた。 


「危なかった……」

「でも目的のドラゴンのロース肉は手に入れたし、今日はバルサリオンに戻ろうぜ」


 バルサリオンに戻る頃には日も傾き始めている。何処からかバジルの匂いが香ってきて彼らもお腹を空かせた。 

 そして路地裏の闇ギルドの集会所へと戻るとドラゴンのロース肉を3つ、納品した。 

 彼らの素早い仕事ぶりに驚きを隠せない闇ギルドの集会所の監督は感心した様子で彼らを労う。


「やるね。キースドラゴンに襲われてほぼ無傷で帰ってくるのは狩人にも負けない腕前だね。約束の礼金だ。受け取ってくれ」 


 礼金は5000ギルダだった。

 これなら他の聖騎士シリーズも買える。

 彼らは流石に疲れたので挨拶だけをして、表の世界へと戻った。

 そこはもう酒場が営業を開始している。

 彼らは祝杯をして酒場にて食事を摂って宿屋に戻り疲れを癒やした。

 さすがのエリオットも今夜は疲れで他の女に構う余裕なんてないのだろうな……。

 勇者クレアは別室にてシングルルームにてそんな考え事をしながら眠りにつくのであった……。

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