第18話 闇に堕ちた僧侶の過去

 何故、オグスが闇ギルド【ダークソウル】を勝手に脱退したのか?

 ダークドラゴンを単身で倒しに向かったオグスの代わりにユピテルが彼の忌まわしき過去を教えてくれた。


 この闇ギルド【ダークソウル】は魔物の内臓を売り捌く違法行為ぎりぎりの事を平気にするギルドだが、もう一つの側面として、人身売買を請け負っている。

 【ダークソウル】に所属している当時のオグスには恋人がいた。その恋人は彼が闇ギルド【ダークソウル】に所属しているとは知らなかった。

 バルサリオンにて交友を深めた彼ら。

 しかし、その恋人がよりによって【ダークソウル】の雇う人身売買の商人に捕まってしまった。理由はその美しさを金持ちに見初められて、金の力で彼女を性の玩具にしようとしたのだ。

 当時から金持ちの力は庶民には大きく、大声で抗議しようものなら殺されてしまうのが常であった。なので街の人々は金持ちを嫌っていた。

 恋人が【ダークソウル】の人身売買の商人に買われてしまったオグスは、それを止めようとギルドに許可なく単身で彼女を誘拐した野盗に戦いを挑む。

 しかし。人として当時はそれ程強くなかった彼は敢えなく返り討ちになる。恋人は助ける事もできないまま異国の地へ売りに出された。

 

「何故、あなた達はその彼女がオグスの恋人なのに平気に売りに出したのですか?」

「オグスが言わなかったからよ。表の世界で恋人を作っていたから、私達がそれを知る由も無いわ。私達は人身売買を請け負っていてもギルドのメンバーの恋人までの安全は保証しないわ」

「無責任じゃないですか?」

「違うわね。私達は闇のギルドよ。違法行為ぎりぎりの商売をこちらは生業にしているの。実際にドラゴンのロース肉は人気の商品なのよ。表立って売られていないだけ」

「仮にも【ダークソウル】に所属しているならばオグスは言うべきだった。自分自身が【ダークソウル】に所属している事はもちろん、自分自身と付き合うのは危険だとね」


 だがそれも過去の話だからむし返した所で何も変わらない。

 人身売買に売りに出されて、傷かようやく癒える頃に恋人を探し回る為に【ダークソウル】から脱退したオグス。

 それも一切の連絡をしない一方的な脱退だった。

 その彼が異国の地にてようやく恋人を見つけた時には彼女が金持ちの男の性の玩具となり、散々弄ばれた光景だった。

 あらゆる所から血を流し、身も心もボロボロにされて命も風前の灯火だった。

 それはもはや、傷を治す治療も手遅れであった。まるで道端にゴミのように棄てられた彼女はオグスの顔を見て最期、息を引き取った。彼の腕の中で死んだのだ。

 オグスは憎しみに駆られその彼女を弄んだ金持ちの男に襲撃する。

 豪邸に攻め入った彼は、余りの怒りで我を失いそしてその場にいた人間を殺戮し尽くした。その時は、偶然に目にした人々によると金髪の若い少年の見た目をした、人と獣が合体したような姿だったという。

 まるで暴れ狂うその姿は、皇種おうしゅと呼ばれる神獣のような姿だったらしい。

 そして彼は、以来、人間が崇める神の道から外れ闇僧侶ダークプリーストとして各地を放浪してクレアの大陸に渡ってきた。

 そして今に至るのである。


「あの温和なオグスにそんな凄惨な過去があったなんて」

「でも、それも判るような気がする……」

「エリオット?」

「あの、ある意味、堂々とした達観した態度は俺には真似はできないものだね」

「なぁ、ちょっといいかい?」

「ハザード。どうした?」

「最後の方のくだりが気になる。その皇種おうしゅという神獣とオグスの姿がかけ離れているような気がする」


 僧侶オグスの姿は確かに金髪の少年という見た目ではない。むしろ少し貫禄のある茶色の短髪のダンディな人物なのだ。

 それに聞き慣れないのが皇種おうしゅという神獣だ。この神獣はこの世界には人に紛れて存在しているという都市伝説がある。

 人間に意図的に変身して正体を隠しながら生活を営んでいるのだという説もある。

 勇者パーティーはその話を耳にした後で、オグスの身を案じた。


 一方で、僧侶オグスは問題のダークドラゴンが徘徊する洞窟にたどり着いた。

 ダークドラゴンは洞窟の奥に当然我が物顔で徘徊していた。

 オグスは洞窟の壁に隠れて作戦を立てる。

 確かにこの人間の姿ではダークドラゴンは骨が折れる相手だ。まともに戦いを挑んでも返り討ちに合う。

 しかし、封印していた"あの力"を使えば何とかダークドラゴンも倒せるかも知れない。

 クレアに会う前に世界を旅してその力を操る方法を何とか修得した彼は、自らの人間に変身した姿から、皇種と呼ばれる神獣に姿を変えた。


「叡智よ、ここに!」


 洞窟を徘徊していたダークドラゴンはただならぬ気配を感じた。

 そこにいたのは皇種イリスと呼ばれる水の力を操る神獣がそこにいたのだ。

 金色のさらさらした髪、水のように澄んだ青い瞳、まるで浴衣姿に射的に使う銃を片手に足取り軽く参上した彼は、銃を構えると水の銃弾で一気に圧殺した。

 ダークドラゴンにとってそれは一瞬だった。

 しかし、その皇種イリスに会った恐怖は忘れる事のできないものとして認識させられたのである。

 

「よし」


 また人間の姿に、茶色の髪の男性に戻るオグスはダークドラゴンの遺骸から角を剥ぎ取りそしてまた、バルサリオンへと戻っていった。

 洞窟に潜む魔物は戦慄している。

 人間の中に、皇種という神獣がいたことに。

 洞窟を我が物顔で徘徊したダークドラゴンを赤子の手をひねるように簡単に倒していった事に、否が応でも戦慄として刻んでいたのであった。


「ユピテルさん。オグスが戻ってきました。きちんとダークドラゴンの角を持ち帰ってきましたよ」

「待たせたな。これでいいか? ユピテル」


 確かにダークドラゴンの角だった。

 その手に収まっているのは赤黒いドラゴンの角が握られていた。

 ユピテルは頷く。

 そしてくだけた態度になり、再び、彼を、そして仲間たちを闇ギルド【ダークソウル】のメンバーとして加入を認めた。


「さすがね。オグス。【ダークソウル】にようこそ」


 彼の姿と過去の話を耳にした勇者パーティーは目を丸くするしかなかったのであった……。

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