第17話 ダークソウルの制裁

 酒場【ブラックローズ】の奥の隠し部屋に存在する闇ギルド【ダークソウル】に接触した勇者パーティー。

 【ダークソウル】の首領は女性だった。

 彼女はオグスの顔を見るなり少し冷たい声の響きにして冷淡に挨拶する。


「久しいわね。オグス。何の用かしら?」

「ユピテル。久しぶり。旅の連れがこの闇ギルド【ダークソウル】を垣間見てみたいと言ってね」

「興味本位で来られても困るわね。私達は表のギルドとはルールも価値観も違うのよ?」

「あの?」

「あなた、何者かしら?」

「クレアです。南の小国サウスマウントから魔王討伐の為にきました」

「へえ、あの勇者クライトンの出身国ね。その国は?」

「私はそのクライトンの娘です。父がまだ生きていると聞いて父親探しもしています」

「クライトンの娘がオグスとパーティーと組んでいるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」

「ユピテル。昔の好としてお願いがある」

「何?」

「ここのギルドの仕事を俺達に斡旋してくれないか? 秘密は守るし、魔物退治なら俺達にも適性がある」

「その前に受けるべきものがあるわ」


 ユピテルは不機嫌そうに腕を組んでオグスに冷淡な事実を突きつけた。


「このギルドを勝手に脱退した制裁よ。その制裁を受ける覚悟はあるかしら?」

「どんな制裁なんだ?」


 オグスは制裁の内容を聞いた。

 ユピテルはかなりの難題を突きつけた。

 恐らく今のパーティーでは到底無理難題を平気に突きつける。

 死んでこい、と宣告されるような制裁だ。

 

「そうね、この街の近くにダークドラゴンが徘徊する洞窟があるわ。あなた独りでそのダークドラゴンの角を持ち帰ってきなさい。それが私達、ダークソウルの制裁よ」

「随分と無茶を言う」

「勝手にダークソウルを脱退したあなたが悪いのよ。私達に関わろうとするなら対価を貰わないとね」


 ユピテルは冷たい物言いでオグスに接した。

 一体、ダークソウルとの間に何があったのか?

 オグスは仕方ないと呟き、単独でそのダークドラゴンの徘徊する洞窟へ向かった。


「オグス! まさか行くつもり!?」

「ああ。この制裁は俺が受けないとならない。勇者の力はダークソウルでは無意味。行ってくるよ」

「お前一人でダークドラゴンを倒せるのか?」


 魔法使いエリオットが何気なく聞いた。その言葉は俺もついて行ってやるぞという意味もある。

 オグスは苦笑を浮かべて彼の申し出を断る。


「難しいかも知れないが、何も関係ないお前に迷惑をかけるのは嫌かな。とりあえず全力を尽くすよ」

「オグス……! 私も……」

「駄目よ! 私が行かせないわ。例えクライトンの娘でもね」

「でも死んだらどうするんだよ?」

「死んだら死んだでそこまでの力しか無かったたけよ。解っていないようね? この闇ギルドのルールを」


 オグスの連れのクレア、ハザード、エリオットに対してユピテルはダークソウルのルールを簡単に説明した。


「うちのギルド【ダークソウル】のルールは、一度勝手に脱退したメンバーに制裁を加えるの。それでも関わりたいならまたギルドのメンバーとして認める。私達がしている事は世の中では禁忌とされる事柄だからね」


 ユピテルは淡々とそう説明した。

 目を閉じて酒場のカウンターに寄りかかる。

 そして暇つぶしにオグスにあったダークソウルでの出来事を話してやった。


「黙っていてもいつかはバレる事柄だから話してあげてもいいかしら? オグスがこのギルドから脱退した後に何があったのか」


 そう言えば、オグスはバルサリオンに何年か滞在していたという話を聞いた。

 そして闇ギルドのメンバーだった事も。

 それなりに名前を知られている人物でもある。

 一体、彼の身に何が起きて闇僧侶ダークプリーストになってしまったのか?

 それは、僧侶オグスにとってはいつまでも癒えない深い傷痕でもあった……。


 一人、バルサリオンから出たオグスは、ダークドラゴンが徘徊する洞窟を目指していた。

 月が浮かぶ夜の平原を歩く。

 そして、一人きりとなり封印していた忌まわしい記憶を思い出していた。

 あの時、あの"力"を惜しみなく使っていれば、恋人を助けることができたはずなのに、何故、それをしなかったのだろう……?

 後悔の二文字が彼を荒々しい歩調にしてその洞窟に向かわせる。

 

「もう二度と後悔なんてするものか。ダークドラゴンだろうが、何だろうが、この"力"を使って倒してやる……!」


 夜の闇が広がる平原を歩きながら彼は単身でダークドラゴンが徘徊する恐ろしく危険な洞窟へと入って行った。

 

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