第16話 闇ギルドがある街

 2日後、バルサリオンの街に到着した勇者パーティーは、この街で売り出されている武器の新調をした。

 やはり大陸を越えると売り出されている武器も防具も性能の高い品目が並んでいる。また、ただの武器ではなく道具として使用すると魔法のような効果を発揮する武器もあるらしい。

 バルサリオンの街には闇ギルド【ダークソウル】が拠点を置いているらしい。しかも僧侶オグスはそこの元メンバーでもあるとリカルドから聞いたハザードは、その闇ギルドを垣間見てみたいと思った。

 当の本人はバルサリオンに戻ってきて少し懐かしい気持ちになっている。それは故郷に帰ってきた気持ちと似ていた。


「懐かしいな。この街には結構、長く居たっけ」

「お前はここを知っている様子だったものな」

「オグスの故郷なの? この街?」


 クレアが聞いてきた。オグスは淡々と答える。


「別に生粋の故郷ではないけど、割と長くこの街にはいたね。10年近くはここに住んでいたよ」

「ねえ? ここのお店の品揃えを見ようよ」

「やれやれ、また爆買いするつもりかい? 懲りないね」

「だって、世の中には沢山の武器とか防具があるんでしょ? 全部見てみたいじゃない!」

「それは言えるな。クレア」


 ハザードも興味深いらしい。


「クレアの大陸とはまた違う大陸なら品揃えを見るのは価値はあるんしゃないかな」


 武器屋を向かう。

 バルサリオンは賑やかな街だった。子供達の笑う声が辺りに響き、街の中心にある広場では買い物ついでに井戸端会議に興じる主婦達がいる。

 太陽は徐々に西に傾き夕暮れに近づく。

 どこかの家からは夕食の支度をしているであろうか、バジルの香りが鼻をくすぐる。


「いらっしゃい」


 武器屋の中に入るとやはりクレアの故郷とは違う性能的に良さそうな武器が並んでいた。魔導士の杖、聖騎士の槍、聖騎士の斧、そして目玉商品は精霊の剣。

 聖騎士シリーズと呼ばれる武器はアンデッドに対して特別に効くと評判だ。精霊の剣もアンデッドに特効の効果がある。

 魔導士の杖には強力な風の魔法が封じされており、上手く使用すればエリオットにとって魔力の温存につながる。

 しかし、これらの武器はなかなか高い値段だった。今のパーティーの手持ちではどうにも心持ちが少ない。しかも防具まで新調するとなるとかなりの破格な値段だった。

 

「どうしよう? この武器は欲しいけど、今のパーティーの手持ちじゃ、一人分しか買えないね」

「何なら、オグスにまず買ってやれば?」


 魔法使いエリオットが提案を出した。


「俺は魔法があるから後でも間に合うし、聖騎士の斧はちょっと高いし、オグスの為に聖騎士の槍を買えば、底上げはできるよ」


 すると店主の男性がそこにいる僧侶がオグスと聞いて、声を掛けてきた。


「あんた、オグスって名前かい?」

「ああ」

「もしかして、あの闇ギルドの僧侶オグスってあんたの事かい?」

「よく知ってるね」

「数年前に闇ギルドから脱退して一夜で大陸を離れたとは聞いたけど。頭領が時々、この武器屋に寄ってあんたが帰ってこないか心配してたぜ」

「その闇ギルドはどこにあるんだい?」


 ハザードが場所を聞いた。どうにも気になるらしい。目の前にいる僧侶が神の道から外れた僧侶と聞いて、なぜ神の道から外れたのか聞いてみたいのだ。

 それに闇ギルドなら、正規のルートでは手に入らない特別な武器も目にする機会があるのでは、という期待もあった。

 店主が訝し気に彼らを見て枕詞に断りを入れつつ教えた。


「あんた達、闇ギルドに何をしにいくか知らないけど何かあっても、俺は知らないからね。午後の18時過ぎる頃に酒場【ブラックローズ】を訪ねてみな。【ブラックローズ】は筋の者しか立ち寄らない酒場だから自然と闇ギルドにも行けるよ」


 聖騎士の槍を購入した後に街に設置されている時計をみると18時を越えていた。

 この際、その酒場【ブラックローズ】に行ってみる事にした勇者パーティー。

 オグスは顔を見せるのを躊躇う。


「俺はもう闇ギルドから出たんだ。今更、顔を合わせる義理なんて。それにクレアは勇者だぞ? あんな社会の闇の場所に連れて行くなんてできないよ」

「でも気になるなぁ、私は」


 クレアにとってはオグスが何故、神の道から外れたのかが気になる話である。

 この人物が堂々と賭博に行く人物には見えないし、性格もあの旅立ちの街では親身に相談に乗ったりしてくれたので尚更気になるのだ。


「どうせなら久しぶりに顔を見せてやればどうだ?」

「闇ギルドからもしかしたら仕事貰えるかも知れないし、表向きの金稼ぎじゃ新しい武器の新調もできないよ」

「副業くらいはしないとね」

「お前ら、随分とノリ軽く言ってるが、何があっても俺の責任にするなよ? 俺個人の問題があそこでは結構、責められる場合があるんだ」


 こいつらなまじ手癖が悪いから尚更怖いと思うオグス。

 特に商人ハザードはなかなか頭の切れる人物なので社会の闇でも平気に利用しようとする。そこが怖かった。

 しかし、彼らの脚は酒場【ブラックローズ】に向かっている。

 洒落た文体で酒場【ブラックローズ】と書かれた看板を見つける勇者パーティーは、お互いに頷くとその酒場へと脚を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 黒髪のバーテンダーが迎えてくれた。カウンターの向こうから声をかける。落ち着いた雰囲気のバーテンダーだった。

 バーテンダーは彼らの顔を観察する。

 そこで見かけた事のある顔があった。僧侶オグスじゃないか。

 という事は連れはオグスの知り合いか友人か。

 僧侶オグスもそのバーテンダーとは知り合いだった。


「久しぶりだな。レイモンド」

「久しぶり。オグス。この街にいつ戻ってきたんだ?」

「今日だよ」

「で、この人達は? 見た所、堅気の人達に見えるけどね。この場所は堅気には向いてない場所とは知っているのかな」

「それを承知でここに来たいと言ってね。【ダークソウル】に興味があるらしいよ」

「ふーん……。頭領が奥の部屋に居るから相談してみればいいんじゃないかな。どうなっても知らないけどね」


 バーテンダーは隠し扉を開ける。

 ただのレンガの壁だと思ったのが扉になって奥へ続く廊下の入口になっている。

 彼らはその廊下を歩く。

 緊張感が漂う社会に存在する闇のギルド【ダークソウル】。

 僧侶オグスがかつて所属していたという場所。

 僧侶オグスが先導して、薄暗い廊下を歩く。

 奥の部屋にその闇ギルド【ダークソウル】の頭領の女性が部下を従えて、そこで待っていたのであった。


「久しいわね、オグス」


 まるで女盗賊を思わせる強気な雰囲気の頭領は、棘のある態度で接した。

 闇ギルド【ダークソウル】の制裁がそこで待ち構えていた。

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