第15話 初めての野宿

 旅の扉を抜けて海を越えてたどり着いた先は、旅立ちの大陸からかなり離れた大陸だった。

 しかも旅の扉周辺には街らしき街も見掛けない。

 それは何を示すのか?

 勇者クレアのパーティーにいる僧侶オグスと魔法使いエリオットの魔力の回復が実質、不可能という意味だった。

 特に序盤からの貴重な火力要員の魔法使いエリオットの魔力が尽きると攻撃手段が剣や斧や槍での攻撃となるが、魔王軍の嫌がらせなのか、それらの武器が効かない場面に出くわし、結果魔法使いエリオットの魔法でどうにか戦いを乗り切るという方法になる。

 そうなると魔法使いエリオットの気力が確実に削られて、戦いの継続は困難になる。結果としてそのまま全滅もあり得るという事だ。

 では、全滅する前にクレアの家に退避するなり、前の街に退避するなりの方法があるのでは?

 そう思うだろう。しかし、それを難しくしているのが旅の扉の遺跡跡の構造が面倒な構造でいちいちそこを通るのがイライラに繋がるという。

 しかし。このパーティーにとっての救いの手は残されていた。

 それは商人ハザードが持っている商人のみが持つつて、ネットワークであった。

 それは間もなく発揮される時間が来た。

 新たな大陸に渡り、商人ハザードはその大陸を知っている様子だ。彼の導きで勇者パーティーはその大陸にある街に向かっていたがどうにも距離か長い。

 半日とか1日程度歩いた程度ではまずたどり着かない。距離を稼いだとしても4日はかかるらしい。

 

「この大陸に来てからやたらと装甲の硬い魔物に出会うな。武器がなまくらに勘違いするくらいに硬いよ」

「オグスの槍はそれでもまだマシな武器だよ。クレアの剣がこの大陸では厳しくなってきているね」

「ハザード。街はまだ先かしら?」

「まだまだ先だね。エリオットがさっきから無言になっている。どうした?」

「……ふぅ。すまん。そろそろ気力も魔力も限界だな。しばらく横になりたい……目眩めまいがする」

「この辺に野宿する場所あるっけ?」

「ここは俺に任せろ!」


 するとハザードは良く通る声で商人独特の呼び込みをした。

 すると行商人をする旅の宿屋が現れたのだ。

 旅の宿屋は商人独特の呼び込みで姿を現す。

 ハザードとその商人は見知っている様子だった。


「こんばんは。旅の宿屋でございますって! ハザードか! 道理で聴いた事がある呼び込みだなって思ったんだよ!」

「よう。話をしたいけど旅の連れが休みたいって言ってる。手続きをして休ませてやってくれよ」

「お任せください」


 旅の宿屋はその場で簡易的なテントを張り、破邪の御鏡というアイテムをテントの前に飾る。こうする事で魔物除けになり安心して魔力や気力の回復をする事ができる空間にする。

 魔法使いエリオットはテントに入ると寝床に潜り込み寝息を立てた。

 相当疲れている様子だった。

 ハザードは旅の宿屋の主人にお礼をする。


「助かるよ。オグスも魔力を回復させるためにもテントで休めよ」

「もう少ししたらでいいよ。この辺りの地理を聞きたい」

「あの? この辺りは何という地名ですか?」

「この辺りですか? バルサリオンの中継地とよばれてますね」

「バルサリオン。そんな所にいるのか。随分と西の方角に来たな」

「この辺りの街だとバルサリオンという街か近いですけどもう2日はかかりますよ」


 クレアはバルサリオンという街がどういう場所なのか気になる。


「バルサリオンってどういう場所なのですか?」

「あの街は宿場町ですね。後はあまり知られてない事なのですが、【ダークソウル】という闇ギルドがあるって噂です」

「闇ギルドって何?」

「一種の商業組合だね。営利目的で一緒の目的を持つ人達が集まる組合だよ。結構、色んな組合がこの世界にはある」

「闇ギルドって場所はその中でも特殊な組合でね、違法行為すれすれを攻める人達だよ」

 

 旅の宿屋の主人も【ダークソウル】の事は筋から聞いてるらしい。

 彼らは魔物の内蔵やその他の貴重な部位を高い値段で取引してくれるらしい。ほとんど、心臓だったり、肝とか、カルビと呼ばれる部位やロース肉にすらしてしまう技量の狩人もいるとか。

 それもドラゴンとか凶暴な魔物とかを好んで売買しているのだという。

 下手をすれば魔王すらも彼らの売買の対象になるとか。話が膨らみ過ぎて真実かどうかは定かではないらしいが。

 とりあえず休む場所を確保出来たのは良かった。

 旅の宿屋はこの辺りの旅人に宿を提供するので結構商売として成り立つと言っていた。


「ハザード。まさかお前、この人達は勇者パーティーと呼ばれる人達か?」

「まぁ、そうだね。あの女の子が勇者と呼ばれる人だよ。俺はあの子のパーティーで今はお世話になっているぜ」

「他の男達はあんまりこの辺では見掛けない……? 待てよ。あの、僧侶……!?」

「どうした? オグスがどうしたんだよ?」

「オグス!? 闇ギルドの僧侶じゃないか?!」

「それはマジな話か!? リカルド」

「そうだよ。聴いた事があるんだ。闇ギルドに所属している神の道から離れた僧侶が居るって!」


 回復魔法も、蘇生魔法も、本物なんだけど本来の僧侶の道からは外れた僧侶。言いようによっては闇僧侶ダークプリーストとも呼ばれる人物。それがあのオグスという昔、この辺りに住んでいた僧侶なのだ、と。

 ハザードは合点がいったようにテントを観る。そうか、だから裏の賭博とかにも堂々と手を出していたのだ。あの僧侶オグスは神の道から外れし者だったのだから。

 今は外には商人ハザードとリカルドだけがいる。

 テントの中ではその話に衝撃を受ける勇者クレアと密かに目を醒まして聞き耳を立てるエリオットと深く眠りにつく僧侶オグスがいた。 

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