第13話 俺が悪かった、ナタリー
ナタリーなら許してくれるかもな。
僧侶オグスの言葉でナタリーの旦那の心は決まった様子だった。
それは寝取った魔法使いへの殺意でもなく、純粋な頃の旦那の目に変わっていた。
「腹は決まったようだね」
「そうと決まれば後はする事は決まったね。クレア。ちょっと口実作りに協力してくれないか?」
「オグス。どうするつもり?」
「ナタリーの旦那の話し掛けるチャンスを作るためにはまずエリオットを離さないと。だから一緒に【ムーンスター】まで行こう」
「わかった」
そうして作戦を始める僧侶オグスと勇者クレア。ナタリーの家に行く。窓の外から観るとナタリーが笑顔になって魔法使いエリオットの胸に抱かれて話をしている様子だ。
彼は窓を観ると連れの僧侶と勇者が彼に表に出るように促している。
魔法使いエリオットはすまなそうな感じで声を掛けて、ナタリーの家から離れる。
「ごめん。ナタリー、ちょっと用事を思い出した。しばらく離れないといけない」
「早く戻ってきてね。待ってるから」
「ああ」
軽く身支度するとナタリーの家から魔法使いエリオットが外に出た。
「どうした?」
「ちょっとそこの酒場【ムーンスター】に行こうぜ」
「ああ。わかった」
彼らは魔法使いエリオットをナタリーから離すのを成功した。
そして旦那はそんな彼らに感謝の想いで、我が家でもあるナタリーの家のドアのノックをした。
ナタリーはエリオットが戻ってきたと想ったが、目の前に居たのは旦那だった。思わず怒鳴る。
「何よ! あなたなんか知らないって言ったでしょう!? あなたなんか絶交よ! あの魔法使いと一緒になるわ!」
「ナタリー……。そう言わないで話だけでも聴いて欲しいんだ。俺の事を理解してくれるナタリーを見込んで」
以前の夫とは思えないほどの変わりぶりに、ナタリーは裏があるかもと想いながら、家に入れた。
「ナタリー。俺、今までお前にした数々の過ちを謝りにきた。昨夜からずっとお前の側にいる魔法使いの旦那は話をいっぱい聴いてくれたのか?」
「うん。ずっと言えなかった事や我慢してきた事、どうしてなのか話を聞いて……あの人は答えを促してくれた……」
「あの人は我慢するのは大事。だけど他人から押し付けられる「その人の正義」程ストレスなものはないって教えてくれた。ずっと、そう言えば、怒鳴り散らしていたね。あなたには苦痛しか無かったよね……」
「でも。そもそもの問題は俺にあったんだ。仕事が上手く行かないから酒に溺れ始めたら、嫌な現実を見なくてもいいやって、酒を飲んで。そうしたら借金作ってしまって、だけど酒を辞められないで……」
「ナタリー。でも俺は結局のところ、お前の場所しか帰る所が無いんだ。だから…その…」
ナタリーは息を飲むように言葉を待った。
「俺、酒を辞める。そして借金を返す。そうしてまた元通りにやり直したい。ナタリーが嫌なら今夜限りでここから居なくなるよ。そしてナタリーの好きに生きていいし」
「だけど、俺の我儘だけど……もう暴力は振るわないから、俺と一緒にやり直してくれないか?」
一部始終、夫なりの言葉で話をしてくれた。
仕方ないわね。
今度こそ、酒に溺れたら、離婚しますから!
ナタリーはそう決めて、嘆息して夫を受け入れた。
「その言葉、嘘だったら今度は私、離婚しますから」
「ナタリーの人生だからお前がどうしようと俺は構わないよ」
「……おかえりなさい、カイル」
その頃、酒場【ムーンスター】にて酒を飲む彼らは今後の予定を立てる。
「ナタリーの旦那の人生相談に乗った? 君がか? へぇ……珍しい事があるんだな」
「なんだよ、その珍しそうな声は? とりあえず上手く行ったらここにいる必要もないし、次の街を目指そうぜ」
「【旅の扉】を使っていくんだっけ?」
「充分な路銀は調達したから行けると思うの。私は」
「じゃあ、明日の朝には出発だな」
「ハザードに知らせないで大丈夫かな?」
「ホント、筋金入りの酒呑みだからな」
しばらく酒を傾けて、話が終わる頃に彼らは酒場【ムーンスター】から出る。
そしてナタリーの家を見つめる。
あそこからは大声の喧嘩は聞こえない。どうやら元の鞘に戻ったらしい。
彼らはそのまま夜道を歩き宿屋へと戻った。そして眠りにつく。
今夜の夢は心地よいかもしれない……。
そんな風に感じた勇者パーティーだった。
翌日。二日酔いのハザードを連れて、外の世界へと旅立ちをしようとした矢先だった。
「エリオットさん!」
「オグスの旦那!」
声を掛けてきたのはカイルとナタリーの夫婦だった。
2人は彼らに御礼の言葉を言う。
そして、彼らの旅の足しになればと、あるアイテムを渡してくれた。
カエルの貯金箱だった。
可愛いデザインの貯金箱だ。
彼らは旅立ちの街から旅立つ彼らに最後、こう元気よく送り出してくれた。
「皆様の旅の無事をお祈りしています。本当にありがとうございました! エリオットさん。オグスさん!」
彼らは旅立ちの街から、【旅の扉】がある遺跡跡を目指して歩く。
まさか寝取った挙げ句に御礼を言われるとは想って無かったエリオットは、ビックリしていた。
「俺がやったのは他人の奥様を寝取ったのだが、御礼を言われる日が来ようとはねぇ」
「何か変な気分か?」
「いいや。格別な気分だね」
「誰かを助ける事ができるなら、こんな事もアリかな?」
「堅いパーティーじゃなくていいよな。このパーティーは」
「勇者クレアのパーティーはこうやって幸せを届けるのさ」
勇者クレアは黙って前を進んでいた。
そうならいいな……そう想いながら。
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