第9話 隣町に辿り着いて

 冒険が始まり、彼らが目指した先はまずは隣町だった。

 隣町はクレアが住む城下町から距離にして大体、半日くらい歩いた先にある。

 晴れて勇者となったクレアと酒場クロスヘブンにて集まった3人の男性達。彼らは王から賜った装備を身に着け隣町へと歩く。緑の平原と季節の花と豊かな森。

 しかし行く手を魔物が妨げるが、彼らは容赦なく魔物を狩る。そして魔物が落とす路銀と何かしらの魔物の毛皮や牙や魔法を帯びた石などを集めた。

 これらはいわゆる換金用のアイテムで魔物達が人間の通貨を持っている事自体が珍しい。なら冒険者達は何で路銀を手に入れるか。それが換金用のアイテムで、牙や毛皮や或いは古銭などが市場に出回る事で経済が回っている。

 それらを買い取る者達はそれらのアイテムを武器の素材として、日常を過ごす動力源として、使用したりしている。これらのお陰で彼ら冒険者は路銀を手にする事ができるのだ。

 クレア達は積極的に魔物を狩る。何故ならクレアの物欲センサーがその換金用アイテムに反応して、とりあえず持てるだけ狩ろうと躍起になっている。

 早速、勇者にこき使われる男達。でも本人達もそれぞれ楽しそうに魔物を狩っているので構わないそうだ。

 道中では商人ハザードが独自の方法で行商で売りにだせそうな商品の入荷をなんと魔物相手から手に入れていた。

 そうして辿り着いた隣町は旅立ちの街という愛称の宿場町だった。

 

「ここが旅立ちの街ね!」

「へえ、いい宿場町じゃないか」

「それじゃあ、早速、行きましよ!」

「どこへ?」


 僧侶オグスはとぼけたように質問すると、勇者クレアから放たれた言葉はこれだった。


「決まっているじゃない!この街のお店を全部制覇するのよ!」

「え〜!?」


 周りの男達は一斉に悲鳴のような声を上げた。そして一斉に彼女にそれを止めるように言葉を募る。

 

「いやいやいや。初めてきた街で『それ』をする必要は無いんじゃないかな?」

「何を言ってるの!初めてだからこそするのに意義があるのよ」

「でもな、クレア。ほら、中には、戦士しか装備できないものもあるからー」

「楽しみだわー」

「その前に俺は行商したいな」

「お金は大事よね。たくさん稼いでね、ハザード」


 そうして旅立ちの街の中心部の噴水広場で行商するハザード。巧みな話術な人々の関心を引き、道中で手に入れた武器を売る。

 旅立ちの街にて早々に4000ゴールド近い路銀を手にした彼らは、武器屋にて不用品の処分も始める。あの換金用アイテムの売却だ。


「いらっしゃい!」

「不用品の売却を頼みたいのですが」


 と、道中で手に入れた換金用アイテムを売却する。それも全部だ。


「毎度あり〜」

 

 これで6000ゴールドに手持ちが増えた。勇者クレアの爆買いが始まった!


「店主さん、ここの武器を一通り、下さい!」 

「え〜っ!?」


 声を上げたのはパーティーの男性陣だった。


「やめようよ!クレアちゃん!」 

「そうそう。ほら、鉄のハンマーなんて俺達では扱えないし」

「ここの武器を全部買うのが私の生きがいなのよ」

「一通りね、ありがとう。全部で3000ゴールドだ」


 クレアは3000ゴールドを財布から出す。

 そして一通りの武器を手に入れる。

 旅立ちの街の武器は基本的な武器ばかりだ。メイジマッシャー(ナイフ)、ブロンズの槍、鉄のハンマー、青銅の剣、鉄の剣、オークの木のスタッフなど。

 次に向かうは防具屋。ここは立ち寄るべき場所とも言える。しかし。


「店主さん。ここの防具も一通り下さい」


 その言葉に皆は動揺する。

 やんややんやと騒ぎ立てる。 


「クレアちゃん!そのおなべの蓋は要らないんじゃないの!?」

「皮の帽子も要らないよ!」

「旅人の法衣は欲しいけどね」

「皮の盾も必要ないよ!俺達は青銅の盾を装備できるし。エリオット用に買うなら革の手袋だけでいいよ!」

「いいの!これらは全部買ってコレクションするんだから!」

「会計は全部で2000ゴールドだよ」


 いよいよ手持ちが1000ゴールドのみになった。焦る男性陣。しかし、彼女は道具屋を訪ねた。


「いらっしゃいませ!」

「すいません。ここの道具、一通りを5個ずつ下さい。あ、薬草と毒消しと目薬は10個ずつ」

「そんなに要らないから!」

「クレアちゃん。完全に買い物にのめり込んでいるよ」

「会計は1000ゴールドだよ」

「はい。ピッタリ」


 そして遂に路銀を無くした彼らであった。

 

「買い物って快感!」

「おい!クレア!宿屋に泊まる路銀が無い!」

「うわ〜。手持ちの金が無くなるなんて人生初だよ」

「よ~し!魔物狩りをしよっか!」

「はあ〜っ!?ここまで来て!?」

「無理を言うなよ、クレア!」

「魔力には余力あるでしょ?」

「何も初日から飛ばさなくてもいいだろ?!」


 勇者クレアは軽い足取りで、旅立ちの街から出ようとする。

 男達は勇者クレアが物欲の塊になってしまったのを感じる。


「ああいうの、【物欲勇者】って言うのだろうなあ」

「何をしてるの?魔物狩りして今晩泊まる路銀を調達するわよ〜?」

「わかったよ。ちょっと魔物狩れば、この辺りには泊まれるからな」

「なぁ…ハザード」

「何だ、オグス」

「このパーティー、もしかして先が思いやられるパーティーかな」

「……そーだね」


 そんなこんなで隣町にて早速、【物欲勇者】に恥じない爆買いっぷりを見せつけてくれた勇者クレア。

 しかし。旅立ちの街から早速、男達も手癖の悪さを発揮する事をクレアは知らないでいた。

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