第7話 突然の危機

 クレアが剣の修行を始めて約2ヶ月後。

 彼女が住む街は、実は城がある城下町であった。とは言うもの彼女の住む国は規模としては大した事がないというか、小規模で栄える小さな国だった。

 行商人はしかし多く、商人ハザードの他にも様々な商人が往来している。彼らは旅の扉と名前がつけられたワープポイントを使い、この国へ来ている。

 街の周辺の魔物は弱い。この小国なりに治安維持はしっかりしているので、街にも直接的な被害は無いに等しい。

 なので実際、魔王が存在していても、実害は無いので気にする事もなく毎日を送っているのが現実なのだ。

 しかし。そんな平和な街にもとうとう魔王の魔の手が忍び寄る。この所、血まみれにされる兵士が続出中であった。間一髪、生命が助かった兵士からは、魔王の部下達が彼らに直接的に攻撃を仕掛け、殺される兵士達も日に日に増える。

 そして魔王の意思の下にいる魔物達も日に日に狂暴さを増している。つい先日は隊を組んだ行商人達が殺される事態になり、それでも生命いのちが助かった商人によると、魔物の強さというよりは種類が増えたとのこと。

 何とこんな近場で稀にドラゴンまで出現するようになったと言う。

 そして、魔王の魔の手は、とうとうクレアが住む城下町に直接的に襲うようになった。

 ある日。

 クレアがあと数日で17歳の誕生日を迎える、季節としては3月中旬頃。突如としてそれは起こった。

 街の人々の悲痛な悲鳴と共に、魔物達がまるで一致団結したように彼女の街を襲った。

 魔物達のメンツは、ゴブリンやベヒモス。オーガなどの魔物達、魔王に忠誠を誓う人間を捨てた魔法使い。狂戦士と化した人間まで襲ってきた。

 凶悪極まりない彼らは殺戮の宴を始めた。

 あたりに響く、街の人々の悲鳴、叫び、血飛沫。

 それに対して、クレアと他の男性達がそれぞれ応戦しに向かう。

 クレアは先頭に立つように魔物達との闘いを始める。それに着いてくるように魔法使いエリオットも共に戦線に立つ。商人ハザードは街の人々の避難を援護して、僧侶オグスは怪我人の治療を呪文でする。

 押し寄せる魔物達の波状攻撃に彼らは苦戦を強いられる。

 狂戦士と化した人間達にクレアは斬るのを躊躇ためらう。しかし、この場では躊躇いは即死の危険がある。エリオットの叱咤が飛んできた。


「ためらうな!クレア!やるしかない時はるしか無いんだ!死ぬのは君だぞ!」

「でも…!?」

「言葉で解決するのは無理だ!殺されるぞ!」


 でも…人を斬るなんて。

 その間にも狂戦士と化した人間は、手にした剣などの武器を容赦なくクレアに振り下ろす。クレアは愛用の剣で弾き返しながら、一撃を入れた。

 狂戦士が叫びを上げて血を流した。

 鮮血が彼女に掛かる。

 でも、まだ躊躇う彼女。

 思わずエリオットは魔法で一気に吹き飛ばした。

 手にした杖を振りかざし、恐ろしい氷の刃が彼らに降り注ぐ。


「チッ!キリがない!」


 城下町の兵士達が設置した防衛線が突破されそうになっている。

 クレアは人間を相手にしないで魔物、ゴブリンやオーガに戦いを挑むが。


「あうっ!」


 オーガに戦いを仕掛けるのは無謀だったのか、無情に弾き飛ばされ、彼女は腹部に傷を負う。エリオットも杖での直接攻撃は魔物相手では分が悪い。

 段々と追い詰められる中、商人ハザードが援護にきた。彼は斧を手に戦場に姿を現す。


「クレア!大丈夫か?!」

「くっ…!」

「怪我しているのか。クレアは一旦、退却して!ここは俺とエリオットに任せて!」

「ごめんなさい…!」


 クレアは一旦退却して僧侶オグスの下に向かう。

 その間もエリオットは魔法を連発して、気力も尽きそうになっていた。

 商人ハザードが手待ちの斧でオーガを一気に切り崩した。

 オーガが切り崩されダウン状態になる。そこにハザードの怒涛の斧攻撃が襲いかかる。彼は魔物退治の経験があり、オーガやゴブリンなどに対しては強みを発揮する。その反対として魔法使い系を弱点とするが、フォローはエリオットがしていた。 

 彼ら二人の奮闘に戦線を支える兵士達も息を吹き返すように各個撃破で突撃する。

 

 退却したクレアは僧侶オグスの下にきた。腹を抑えて、痛みと戦う。


「クレア!」

「オグス…怪我しちゃった」

「すぐに治療する!」


 剣を握ったままでしゃがみ込むクレア。

 少し脂汗を流していた……。

 オグスの治療魔法が患部に当てられる。

 僧侶オグスの治療魔法は外傷の治療に適している。

 彼が担当する場所には魔物の気配は無いと思われた直後。

 周囲にアンデッドと呼ばれる骸骨の亡霊が出現した。


「こんな忙しい時に」


 骸骨達は槍を手に、目の前にいる生身の人間を生贄として殺そうと近寄る。

 

「クレア。治療は後でする。奴らを倒してくる!」

「……気を付けて」


 オグスは槍を手に、アンデッドナイトに戦いを挑む。

 実はオグスは僧侶という役職柄、聖なる力を持っており、その槍は破邪の槍として機能する。故にアンデットとの戦いに適正を持つ人物なのだ。

 オグスのまるで疾風のような突きで守りを崩されたアンデットナイトは、為す術もないままにオグスの槍で浄化された。

 僧侶オグスの槍捌きは面白い。

 まるで踊るように突きや斬り上げを組み込みながら直線的に攻撃が繋がるのだ。

 程なく3体のアンデッドナイトを葬ったオグスは治療を再開する。

 怪我人が減ってきているように感じる。

 それは最前線が戦況を盛り返してきている証だった。


「だいぶ減ってきたな」

「最前線にはエリオットとハザードがいるから」

「治療は終わった。どうだ?動けるか?」

「だいぶ楽になったわ」

「早く、彼らを助けに向かって!ここはどうにかする」

「ありがとう」


 クレアは走って最前線に向かった。

 もう躊躇ためらうもんか。死んだら何にもならないじゃない。

 彼女は両手に剣を握り街を走った。

 愛用の剣を強く握りしめて最前線へと帰る。

 最前線はハザードの奮闘であらかたの魔物は倒され、魔法使い系もエリオットの手で始末されていたが、狂戦士達に苦しめられている。

 そこに、クレアが叫びを上げて一気に斬り込んできた。


「クレア!」

「復帰したか!」


 彼女が先程までの躊躇いを捨てて、狂戦士達に疾風のような斬撃を浴びせる。

 まるでそれは鬼のような形相だった。

 彼女の愛用の剣に狂戦士の血が染み込む。

 的確に肉を裂き、骨を断つ。

 彼女の戦いに奮起した兵士達は、一気に盛り返して、ようやく撃退した。

 後に残ったのは血にまみれた住人や城下町。

 そこに突如として、おどろおどろしい声が響く。


『愚かなる人間共よ。お前達の時代は終わった。これからは我が魔族が世を支配するであろう。我らに立ち向かう事の無力を知れ…!フハハハハハ…!!ハーッハハハハ…!我は魔王ナルゴフ!人間よ、恐れおののき、我に血と苦しみを捧げるが良い!』


 その時、皆は知った。

 本当に世界は魔族により支配されていることを……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る