第12話
きつねうどん(十二)
「おい! 英孝!」
「・・・・」
今日も、定時の23時で会社が終わり、
ロッカールームで、同僚が話しかけてくる
「ギャンブル! ギャンブルしないか!
競艇とか! 競馬とか!
スロットもあるぞ!?」
「・・・・」
「スッ」
英孝は、同僚を無視して、
そのままロッカールームから立ち去る
「・・・ギャンブルしないのか」
「ガチャッ」
「(上司・・・)」
「英孝っ!?」
ロッカールームを開けると、
そこには何人かの上司の姿が見える
「健康っ! 健康っ!
健康を取るにはっ
・・・栄養素栄養素栄養ッ!?」
「・・・・!」
「なあ!? 栄養素っ栄養素っ栄養素!?」
「・・・・」
「スッ」
何を言っているか分からない上司を無視して、
英孝は、会社を後にする-----
「・・・何だ、アイツ」
「ガチャッ」
ロッカールームから、先程英孝に話し掛けて来た
同僚が出てくる
「・・・ギャンブルですよ」
「ギャンブル?
栄養素の事か?」
「・・・間違いありませんね」
「だったら----!
----栄養素ッ栄養素ッ栄養素ッッ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
会社から離れ、1時間15分程、
山道を歩くと、そこには、
いつもの、峠の蕎麦屋が見える-----
「・・・・、」
蕎麦屋の前で、英孝の足が一瞬止まる
「・・・・!」
「スッ」
だが、英孝は、蕎麦屋には立ち寄らず、
そのまま、暗い夜の山道を、
自宅を目指して歩いて行く-----
"ザッ ザッ ザッ ザッ----"
「(・・・・・、)」
"ザッ ザッ ザッ ザッ-----
「ざしゃっ」
英孝の足が、坂道の途中で止まる
「(・・・・)」
そして、英孝は、頭上に輝いている
大きな月を見上げる
「(・・・・・)」
「サァァァァァァァァァァ」
風が、流れる
「・・・フッ」
英孝は、頭上の月を見上げながら
一つ、吐息を漏らす-----
「("たぬき"が、"きつね"で、
"きつね"が、"たぬき"か------)」
"タッ タッ タッ タッ-----
英孝は、小走りで坂道をかけ上がって行く
きつねうどん(終)
「きつねうどん」 ろわぬ @sevennovels1983
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