第11話

きつねうどん(十一)


「(・・・・何だ?)」


どうやら、甕の中に入った、


"何か"


を回し終えたのか、


甕の周りを囲んでいた狸と狐たちが


棒を回すのを止め、甕の前に並んで座っている


白い狐と、黒い狸の周りを、


円を描くように取り囲む


「(・・・・!)」


「ぽんっ ぽんっ ぽんっぽんっ!」


「こんっ こんっこんっこんっ」


「(・・・・?)」


狐と狸が、白い狐と、黒い狸の周りを取り囲むと、


二匹の狐と狸は、自分が着ている服の中から、


何かを取り出す-----


「ガサッ」


「("きつね"-----)」


まず、最初に、白い狐が、


袴の中から、"きつね"を取り出す----


"ガサッ"


「("たぬき"-------)」


続いて、狐の前に正座をして座っていた


狸が、懐から、”たぬき”を取り出す----


「(“きつね”と、


“たぬき”------!)」


周りを取り囲んでいた狐たちが、


大きな丼の様な物を2、3匹で抱えながら、


それを、甕の中に入れる


「じゃばっ」


「・・・・・」


続けて、小さな狸たちが器を取り出し、


甕の中に、器を入れる


「じゃばっ」


「ぷぅぅうぅぅううぅぅぅうん」


英孝の鼻に、峠の蕎麦屋で嗅いだような、


何とも言えない、いい匂いがしてくる


「("きつね蕎麦"-----


いや、もしくは、"うどん"----)」


小さな狐が、大きな白い狐に向かって、


丼を差し出す


「・・・ぽんっ」


「ガサッ」


次に、小さな狸が、黒い狸に向かって、


丼を差し出す-----


「"たぬきうどん"------


もしくは、"たぬき蕎麦"------)」


「ぷぅぅぅぅうううぅぅうん」


「ぽんっ!」


「(・・・・!)」


「こんっ こんっこんっこんっ!」


突然、丼を片手に持った白い狐が、


鳴き声を上げる


「ぽんっ! ぽんっぽんっぽんっ!」


合わせたように、丼を持った、黒い狸が


鳴き声を上げる


「ガチャッ」


「("交換"か----?)」


「がちゃっ がちゃっ」


「ぽんっ」


「こんっ!」


きつねと狸は、お互いに持っていた器を、


互いの座っている地面の上に入れ違いに置く


「ズズ...


ズズズズ....」


そして、勢いよく、箸で


器の中に入った麺をすくい上げる!


「ずずッ!」


「ずずずずずッ!」


狐と狸は、器の中に入った


麺を、無心で頬ばる-----


「ズズズッ」


「ズズズズズズズッ!」


「かちゃっ」


「かちゃちゃっ」


「("きつね"が"たぬき"で、


いや----


"たぬき"が"きつね"----?」


「かちゃっ」


「ずずずっ」


「・・・・・」


「かちゃっ かちゃっ」


「ずずずずずずずっ」


「(-------)」


月明かりに照らされた丘の上に


狸と狐の食器の音だけが響く


「("影"------)」


「ずずっ」


「ずずずずずずっ」


「サァァァアアアアアアアアア」


二匹を見ると、英孝のいる大きな木の陰の裏からは


狐と狸の影が重なり、一枚の影絵の様に見える


「かちゃっ かちゃちゃっ」


「ずずっ ずずずっ」


丘のすぐ側に月が見えるせいか、


二匹はまるで、月の上で兎と並んで


うどんや蕎麦をを平らげている様に見える


「(・・・・!)」


「じゅるっ...」


"きつねうどん"と、"たぬき蕎麦"


「(食いてぇな…)」


いや、"たぬきうどん"と


"きつね蕎麦"なのかも知れない


「(・・・・)」


「かちゃっ かちゃちゃっ」


「ずずっ ずずずっ」


「(・・・腹減ったな...)」


「スッ」


英孝は、隠れていた木の陰から離れ、


そのまま、元来た道を引き返していく----


「ぽんっ ぽんっぽんっ」


「こんっ こんっこんっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る