第3話

きつねうどん(三)


「不思議な一日だった....」


何がどうなって、峠の蕎麦屋(そばや)にいた


狐(きつね)が、自分の帰り道の


崖の下にいたのかは分からないが


とにかく、きつねがいたのは確かだ-----


「(きつね----)」


「ジュルッ」


「おい! 英孝!」


「あ、は、はい!」


「ボサッとしてないで


ちゃんと仕事しろ!


栄養素はちゃんと取ってるか!?」


「あ、ハイ」


「(きつね....)」


英孝が、崖(がけ)の下で食べた


"きつね"


の事を思い出していると、


仕事をサボっていると思ったのか、


上司が英孝を叱責(しっせき)する


「・・・・」


それから、数日が経った。


「(きつね----)」


この2、3日間、


きつねを食べてからと言うものの


英孝はどうしてもきつねの味が忘れられず、


仕事もまるで手につかない状態になっていた


「ポン」


「おい! 栄養素! 栄養素取ってるか!?」


「あ、はい」


「・・・・栄養素、栄養素っ!」


「あ、ハイ」


「(・・・・・)」


上司の言葉もそこそこに、


英孝は、峠の蕎麦屋で食べた


きつねの事を思い出す...


"また、食いてえな"


「よし、終了~」


「(終わりかー)


定時の23時になり、英孝は、


いそいそと荷物をまとめ、


社員専用のロッカールームから


外へと出ようとする


「あ! 英孝!」


「(きつね------)」


「おい、ちょっと! 


今日、麻雀(まーじゃん)とかパチンコとか、


ギャンブルしないか!?」


「(きつね-----)」


「お、おい!」


同僚の言葉が聞こえていないのか、


英孝は、同僚の言葉を無視して


そのまま部屋から出て行く


「な、なんだよ アイツ」


"ザァァアアアアアアアアアアア"


「(蕎麦屋------)」


帰り道の途中、英孝の目に、


峠の、"蕎麦屋"が目に入ってくる-----


「・・・・」


ここ数日、毎日のように


この蕎麦屋の前で足を止めるが、


どうも、以前この蕎麦屋に立ち寄った時に


出会った狐の事が頭に浮かび、


英孝は、蕎麦屋に入る事を


ためらっていた------


「ぷぅぅうぅん」


「(きつね------)」


「ぷうぅううぅん」


「("きつね"-----)


蕎麦屋の側で立っていると、


その蕎麦屋の中から、蕎麦の香りがしてくる


「-----じゅるっ」


「・・・・」


気付くと、英孝の足は


自分の意志とは裏腹に、


蕎麦屋に向かい、暖簾(のれん)の下をくぐっていた


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