第4話 体験入部③
2本目が始まった。呼吸が戻らない。息が吸えない。
「吐くことに集中して。無理してでも1回息吐け。楽になるから。」
誰かが言っている。やってみるしかない。ハー、ハーと2回程吐くと一気に楽になった。まだイケる。
「あざっす。楽になりました。」
「キツいのこれからだから頑張れ。」
「うす。」
「上げまーす!」
また来た。イケるところまで行くしかない。
日が少し落ちた頃、練習が終わった。結局2本しかついていけなかった。小磯は完走している。長岡は4本目の途中までだ。圧倒的に俺だけがついていけてなかった。公園から学校までの帰り道、悔して仕方なかった。学校に着くと、山井先輩が1年生に声かけてきた。
「どうだった、キツかった?」
「そうですね、見て頂いた通り、2本しか持たなかったです。」
「自分も中学まで割と真面目にやってきたんですけど、レベルが違いました。」
「そうだよな。どう思ってたか分からないけど、俺らスポーツ推薦いない高校の中じゃ駅伝でも上位4~5校くらい入るのよ。そんな弱いチームじゃないから自信落とすことないよ。」
それにしてもレベルの差が大きかった。じゃあ、小磯はどうなる。俺は井の中の蛙だったんだな。恐れていた現実にいきなり直面することになった。陸上でヒーローになるのは厳しいらしい。
ショックが大きく、その後の整理体操もあんまり覚えていない。そそくさと部室を出て自転車に乗り込んだ。あまり誰にも会いたくない。昨日の入学式の時点では高揚感を頂きながら通った道も嫌な道に見える。
「お帰り、今日部活行ったんでしょ。どうだった?」
帰宅すると、触れられたくない話題から始まった。
「普通に凄かった。」
「ふーん。」
母は察したようだ。
「あんた、陸上部に入るの止めるの?」
「いや、そんなことは一言も言ってない。あそこでやっていく。」
「そうなの、別にどっちでもいいんだけど。」
意地を張って言ってしまった。複雑な気持ちだが、少し吹っ切れた気持ちでもある。やるしかない。ビリならビリでいい。これ以上恥かくことはない。部活終わってからの憂鬱がウソのようだ。明日からも頑張ろう。
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