第3話「低浮上の前兆」

次の日。

また憂鬱な仕事が始まった。

スーツに着替えて無駄に顔を整えるのだ。

そして、就活生は真面目に働く。

働いて、働いて、働くのだ。

忙しいアリのように働く彼らを尊敬するよ。


さてと、朝食を食べようか。

冷蔵庫から昨日の残りを取りだし赤いボタンを押してレンジで温める。

何も変わらない1日だった。

この時まではー。


仕事場まで呑気に車で通勤する。

交通もいつもの様で問題はなかった。

やっと仕事場についた時、いつもと違う事が起きたのだ。

上司が、忙しなく俺を通り過ぎて振り返り俺の顔をもう1度確認して肩を掴んだ。

「あ、お前!お前で良いや。お前に任せた」

肩を叩くと上司は急ぎ去っていく。

上司を見つめ首を傾げたが何が何だか分からなくて、直ぐに忘れてしまった。

やがて、所長が俺の机へとやってきたので俺は異変に気づく。

「どうしたんですか?」

いつもは呑気な顔をしている俺も真剣な顔になっている。

「それがだな…」

所長の顔は真剣そのものだったが言葉は端切れが悪い。

この時までははてなマークが俺の頭上に浮かんでいたのではないかと思うほどこの異常な職場の空気に馴染めない。

「君、今日から転勤なんだよ…」

へ?

どうしてだ?

「いきなりですか!?」

俺は凄く動揺していたのかもしれない。

所長が俺の勢いに驚いて目を見開く。

だが直ぐに、それも仕方ないかと言う様な顔をした。

「実はだな、お前の上司が転勤先にお前を派遣するという書類を送ったんだ」

なんだよ、それ。

俺にはたった一言で、しかも偶然俺が上司の前を通ったことによって転勤されなきゃ行けないんだ。

なんでよりにもよって俺?

「とにかく、君は早急に対応してくれ」

「そう言われても…」

「分かってくれ、頼むよ」

俺の反論に被せて所長が哀れみの目を向け肩を2回叩いた。

念押しされた俺は立ち尽くしてしまった。

「わ、分かりましたよ…」

ボソッと呟くと俺は諦めて書類を纏めた。

「ごめんな、お前しかいなかったんだ」

と上司が凄く謝っていたのだが許せる気にはなれなくて無視してしまう。

「はぁ、なんで今日はこんな目にあうんだよ」

独り言を呟くと虚しくなってそれから黙って書類を纏めた。

ーENDー








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