開幕『遥か頂の舞踏会』①

 人形劇の世界で、わたしは嫌われていた。

 「気持ちの悪い色白いろじろの肌」。「膨れ上がったくちびる」。「目立ちたがりのドレス」。わたしは、彼らにとって異色だった。


 でも、ある日。世界が消えてしまったあの日から、わたしは彼女と出会った。彼女は気品があって、言いたいことを遠慮なく言えて。女の子だけど――王子様みたい。


『……ナ、ルナ!もう、いきなり寝てしまうなんて、レディとしてどうかと思いますわ。』

『うん……?あ、ごめんカティア。窓辺のお日様が暖かくてつい。』

 この子が「カティア・マーチェント」。わたしのパートナーで、有名な財閥ざいばつのお嬢様。

『大丈夫よ。……気持ちは分からないわけじゃないもの。』


『ふふっ。カティアも、勉強の息抜きをした方が良いと思うけどね。』

 そして、わたし「ルナ」は、人形の街の姫だった。

『「今度のテストで満点を取りなさい、出来なければ80点以上」って言われてるもの。努力は惜しまないわ。』


 さて、わたしたちの通う「シトラ女学院じょがくいん」は、所謂いわゆるお嬢様学校。厳しいながら、上流階級の在り方を学ぶ場所です。「一度入ればかごの鳥」なんて言われてますが、あながち間違いでもない。

 それくらいきびしく、しかし得るものも大きい。そんな学校なのです。


『ほら、もう昼休みが終わるわよ。忘れ物はない?』

 カティアの質問に、辺りを見渡して頷く。こんな日常が、ずっと続いていけばいいのに。


 ――その夜、不思議な夢を見た。霧の中のように視界が悪く、隣にはカティアが立っていた。

『ルナ、なんなのこれは……』

『分からない……どこなんだろ。』


―あなた方が、願いを共にする二人なのですか?―


 頭に響く謎の声は、わたしに問いかける。

『願い……どういうこと?』


 謎の声は再び語りかける。

―あなたたちは「自由」を願っている。そうでしょう?―


『自由……そうね。わたくしは、束縛されることのないようになりたい。……それがどうしたの?』


 カティアが返事をすると、目の前に人型の影が現れる。それはわたしよりも大きく、そしてどことなく神秘的であった。


―願いを叶えたいなら剣を取って。戦うことで、それは叶う。―


 ……怪しい提案だった。しかし、カティアは至って冷静だった。

『なるほど。あなたが「女神さま」だったのね。』

 女神……噂でしか聞いたことがなかった。ステラナイトを導き、戦いの対価として願いを叶える。こんなおとぎ話のような話、信じてはいなかったけれど。


『ねえルナ。あなたは自由になりたい?』

『……えっと。』

 返答につまづく。勿論もちろん、今の生活も十分幸せだ。

でも、この見た目である以上、自由とは言い切れない。友人もカティア以外にいない。……出来る事なら、自由に過ごしていたい。


『……うん。わたしもカティアと一緒。自由に羽ばたいていきたい。』

『決まりね。』


―剣を取れ、星の騎士よ。望む未来をつかみ取りなさい。―


 光に包まれ、気がつけば朝になっていた。

わたしはカティアに話しかける。

『……なったんだね。星の騎士に。』

『ええ。願いを叶える――自由をつかみ取りましょう!』


その言葉で、不安や悩みが和らぐのを感じる。

 カティアと一緒なら、大丈夫。きっと大丈夫なんだ。

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Stellar Knight Theater -英雄のエスポワール- 狐面 シノ @chibifox505

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