開幕『眉目秀麗の転校生』➀

僕の名前は「星航ほしわたり 雄斗ゆうと」。どこにでもいそうな男子高校生だ。

ここは「アーセルトレイ公立大学附属高等学校」。…長いので「アーセルトレイ公立高校」と省略する。この学校はアーセルトレイ中で最も多くの生徒が在籍ざいせきしていて、自治区じちくも最も広いとされる学校だ。


そんなところに入学するきっかけとなったのが、父の他界だ。数年前に傷害しょうがい事件に会い、被害者だった父はそのまま亡くなった。

遺言ゆいごんには「息子をアーセルトレイ公立高校に通わせる」とか書いてあったらしく、僕もそれに合わせる形で入学し、周りの人たちとさほど変わらない生活を送っていた。


桜も散った6月のある日。朝礼前に先生がこんなことを言った。

『今日は転校生を紹介する。キミ、黒板の前に来なさい。』

教室の扉の方を向き、先生はその転校生を呼んだ。男子か、はたまた女子か。

そんなことを思っていると、やがて教室の扉が開く。そこに立っていたのは、女子生徒だった。長い黒髪くろかみをなびかせ、黒板の前に立つ。そして、彼女は教室を見渡した。


『転校生の「冬里ふゆざと 杏璃あんり」だ。自己紹介をどうぞ、杏璃さん。』

「冬里 杏璃」。その名前に衝撃を受けた。

彼女は幼馴染で、小学校で進級する前に別の階層へ転校していったのだ。お別れ会に参加したし、彼女とはとても仲が良く、別れ際に泣いたりもした。

…だが、あの時の彼女とはとても思えないほど、姿や雰囲気が変わっていた。


彼女はそのまま、自己紹介を始める。

『私の名前は冬里 杏璃。今日からこの学校でお世話になります。よろしく。』

そういうと、彼女は席に案内される。声や態度も変わっているように思える。

その後、先生はいつも通り出欠簿を取り始めた。

『…星川!いるな。次は…星航!』

『はい!』

僕は勢い良く返事した。すると、杏璃は驚いたように僕を見た。



そして、昼休みがやってきた。

彼女は僕の方へ向かい、話しかけてきた。

『…もしかして、雄斗くん?』

『…うん。星航 雄斗。久しぶりだね、杏璃ちゃん。』

会話を聞いていたクラスメイトがざわつく。今の杏璃は、誰が見ても美人だった。そんな美人が、クラス内で影の薄い僕に「幼馴染」として話しかけたのだ。騒がしくもなる。


『久しぶり。元気そうで良かった。』

そう言って、杏璃は微笑む。その時の表情は、幼い頃に見せた笑顔にそっくりだった__。

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