第17話


ロータスが公務でいない日は、陛下か王妃殿下、またはその両方と過ごすのが日課となりつつあるアイリスは、その日も陛下と午後のお茶を楽しんでいた。




「昨日、貧民街へ出向いたそうだな」


「はい。ロータス様が贈り物を沢山くださるおかげで、懐に余裕ができましたので」




これから先、ロータスからの贈り物まで売ることになるかもしれないことを考えてそう言ったアイリスは、「センスの良いものばかりくださるので、朝の仕度に手間取ることが増えました」と、しとやかな表情の中にほんの少しお茶目な雰囲気をのぞかせる。




「ははは、それは微笑ましいな。ロータスも、アイリスが毎日自分好みのドレスを身に纏っているのだから、たまらんだろうなぁ」


「ふふ、たしかに毎日褒めてくださいます」


「…それはそうと、結婚の話はまだ出ないのか?」


「毎日陛下に急かされると、今朝も嘆いていらっしゃいましたよ」


「っはは、アイリスも言うようになったな!」




そんな和やかな会話を遮るように響いた、小さなノック音とロータスの声に、ついにこの日課がロータスに知られてしまう日が来たか、と陛下とアイリスとで視線を交わし合う。




「入れ」


「失礼致します。陛下、…あれ、アイリス…?」




相当驚いているのか、いつもの笑顔を崩してきょとんとした表情を浮かべたロータスは、思い出したように陛下に向き直って「ただいま戻りました」と頭を下げる。




「うむ、予定より随分早いようだが」


「はい。視察先が急な悪天候に見舞われたとの報せを受けて、引き返して参りました」


「そうか。…では後日、代わりにアイリスをそちらへ向かわせることにしよう」


「へ、」




急に話を向けられたアイリスは驚きのあまりティーカップを落としそうになって、慌ててソーサーへと静かに戻す。




「はは、そう驚くこともないだろう。アイリスはもう王族も同然だからな」




案に結婚を急かしている陛下の言葉に、ごめんね、と今にも聞こえてきそうな表情をロータスに向けられたアイリスは、心配しないで、と言うようににこりと微笑み返す。




「まだ心は決まらんのか?…じれったくて敵わん」


「…、そろそろ、とは思っておりますが…」




アイリスも巻き込むことになり動揺しているのか、弱々しい声で返事をしたロータスに流石に可哀想になってしまって、アイリスは「最近、ロータス様が立太子に向けて公務がお忙しくなったので、落ち着いたらにしようか、と話をしていたのです」と思わず助け舟を出してしまう。




「そうかそうか。では、立太子の日程を早めよう」


「…あの、まだ慣れない部分も多く…」


「たしかに、立太子もしていないのに結婚を迫るのもな。順番を間違えていたようだ」




全くロータスの話を聞いていない陛下の言葉に、ロータスは困ったように眉を下げるも、これでしばらくは何も言われなくて済むと思い直して、それ以上は口をつぐんで申し訳なさそうにアイリスを見つめたのだった。













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