第16話
贈り物をいくらでもする、と言ったのはどうやら本気だったらしく、ロータスが公務から戻るたびに増えていくプレゼントの山に、アイリスはどうしたものかと頭を悩ませる日々が続いていた。
「どうしましょう、ホリー。もう衣装部屋に入りきりませんね…」
「とりあえず、古い物から外へは出しているのですが…」
整理のためにと衣装部屋から出し積み上がったドレスと宝石の数々に、アイリスとホリーは困ったように顔を見合わせて意見を出し合う。
「質屋にお入れになりますか?」
「そうですね。でもそのうち、ロータス様からの贈り物でいっぱいになって、質屋に入れる物もなくなってきますね…」
今目の前にあるのはアイリスが自分で買い揃えたものなので気兼ねなく売りに出せるが、そう遠くない未来に全てがロータスからの贈り物に入れ替わってしまいそうな勢いに、いよいよロータスからの贈り物をお断り申し上げるべきか、アイリスは本気で悩み始めていた。
「あ、そうだわ。このドレスと宝石を換金したそのお金で、私が個人的に慈善事業を行うのはどうでしょう。使い道が慈善事業なら、最悪ロータス様からの贈り物も売ることになっても…」
そんなことはしたくないけど、と考えているのがよく分かる表情をしてそう言ったアイリスは、「とても良い考えだと思います」と賛同してくれたホリーに、「では、すぐにでも行動に移しましょう!」と近くにあった呼び鈴を鳴らす。
「お呼びでしょうか」
「これを今から質屋へ入れていただきたいのですが、準備をお願いできますか?」
「かしこまりました」
「売れたお金は、平民用の服と食料、半々で買ってください。準備が出来たらすぐに貧民街へ向かうので、声をかけていただけますか」
「すぐに準備して参ります」
宮殿の侍女にそうお願いして貧民街へ向かうため質素な装いに着替えていると、流石高貴な方にお仕えしている侍女は仕事が早いらしく、それほど待つことなく「準備が整いました」と声をかけられる。
「あまり遅くなっては困るので、急いでいただけますか?」
「かしこまりました」
王族に仕える御者も凄腕らしく、アイリスの願い通り、しかも乗り心地を損なうことなく目的地へとたどり着いたアイリスは、あっという間に貧民街の民たちに囲まれる。
「アイリス様…!最近少しずつ、仕事にありつけるようになって参りました!」
「陛下と王子殿下、王妃殿下とアイリス様に感謝を…!」
ロータスの働きかけもあってか、前回より幾分か生活が楽になったらしい民たちにそう声をかけられ、柔らかな笑みを返したアイリスは、「今日は、服と食料を持って参りました」と後ろに控える護衛騎士たちに目を向ける。
「おお!なんとありがたい!」
「久々に腹いっぱい食べられるぞ!」
アイリスの命を受けて物資の配給を始めた騎士たちに群がる民たちに、「十分な量をお持ちしましたから、焦らなくても平気ですよ」と優しく声をかけるアイリスは、民たちだけでなく今にも押し潰されそうな騎士たちにとっても、救いの女神のように映る。
「こんなに優しい方が未来の王妃殿下なら、この国も安泰だ!」
「本当にそうだ!」
その期待に応えられるようにより一層頑張ろうと笑みを浮かべたアイリスは、「皆さんの頑張りがあってこその、安泰ですから」と、以前出向いた時よりふっくらとしている民たちの手を、両手でそっと包み込んだ。
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