第15話


「あれだけ恋愛結婚と息巻いておきながら、意気地のない男だのう、ロータスは」


「…いえ、私のことを気遣ってくださった上でのご判断ですから…」




結婚のことはゆっくり考えようとロータスと決めたあの日から数日、ロータスが公務でいないのを見計らってアイリスを呼び出した陛下の言葉に、アイリスは陛下の気分を害さないように、かつロータスのことも立てられるようにと、その優美な笑顔とは裏腹に頭の中はフル回転の全力疾走状態になっていた。




「はは、アイリスも満更でもないようだな?」


「いえ、あの…」


「いやなに、アイリスにはロータスの我儘に付き合わせて悪いと思っているからな。ロータスを好ましく思えるなら、それに越したことはないだろう」




そう言いながら朗らかな笑みを浮かべる陛下にほんの少し肩の力が抜けたアイリスは、「ロータス様がお優しいのは、陛下のお心を受け継いでいるからなんですね」とティーカップに手を伸ばす。




「はは、嬉しいことを言ってくれるな」


「事実を言ったまでですよ。…ところで、貧民街の民たちへの就業支援政策を始められたとか」


「ああ、ロータスに強く勧められてな。…あやつは民を思う良き王になれそうだと確信して、父としては嬉しい限りだ」




純粋に子の成長を喜ぶ親の顔をしてそう言った陛下に、「アイリスのこともホリーから、賢く融通がきき、気立てもいいと報告を受けておる。ロータスと似合いの夫婦になりそうだな」と優しげな表情のまま微笑みかけられ、アイリスは突然のことに動揺が顔に出てしまう。




「…、そうなれるよう、精一杯精進して参りたいと思います」


「そう気負うことはない。親バカに聞こえるかもしれんが、ロータスは優秀な男だ。アイリスはあやつを、ほんの少し支えてくれるだけで良い」




その陛下の言葉に、ああやっぱりお優しい方だと胸があたたかくなるアイリスは、「お気遣いありがとうございます」と当たり障りのない言葉しか返せない自分に申し訳なくなる。




「…まぁ、子供だけはしっかり頼むぞ」


「はい。きちんと健康には気を付けて、その時に備えたいと思います」




アイリスの言葉に満足そうにうなづいた陛下は、「そろそろロータスの戻る時間だな」と窓の方へと目を向ける。




「くれぐれも、アイリスに無理無体はするな、とそちの宮殿入りが決まった時に言われてな。きっと今日も、私がアイリスを呼び出したと知ったら何を言ったんだと小言を言われるだろうな」


「ふふ。仲がよろしいんですね」


「そうか?たった一人しかいない息子だから、可愛いのは事実だがな」




そこまで話したところで「もう下がってよい」と陛下のお許しを得たアイリスは、陛下に謁見していたことが悟られないようにと早足で自室へと戻った。








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