第14話


朝食後、昨日のやりとりだけでアイリスの好みを把握したらしい軽食のラインナップに、アイリスはあえて言葉には出さずに嬉しそうに笑みを深める。




「…あのさ、」


「はい」


「僕たち、結婚はまだ早いよね?」




そう言ってどこか申し訳なさそうにアイリスを見つめたロータスは、「…陛下たちが本当にごめんね。たしかに僕しか王子がいなくて、焦るのは分かるんだけど…」とアイリスから目を逸らして視線をさまよわせる。




「私は本当に、ロータス様のご意向に合わせますよ」


「…、そっか…」


「それに、陛下や王妃殿下のご憂慮も一理あるとは思っています。ご自分たちがなかなか子供に恵まれなかったので、私たちのことも不安なのでしょう」


「うん、それはたしかにそうだよね…」




アイリスの言葉に素直にうなづいたロータスは、「…とりあえず、もう少し時間をかけて考えてみようか」と同意を求めるようにアイリスに目を向けて、「そうですね」と返してくれたアイリスに、安心したように笑顔になる。




「そういえば今日は、僕が選んだドレスを着てくれてるね」


「はい。全部素敵なので、何を着ようか迷ってしまいました」


「ふふ。とっても似合ってるよ。すごく可愛い」




微笑みかけるもの全ての心を奪えそうな顔でそう言われると、アイリスはほんの少しだが慣れかけていた諸々が崩れ去っていくのを感じて、一気に顔が熱くなる。




「ふふふ」




そんなアイリスを見て笑みをこぼすロータスに、アイリスが物言いたげな表情を向けると、わざとなのか本当に意味がわかっていないのか、ロータスは「本当に可愛いね」ともう一度笑ってみせる。




「それにしても、自分が選んだものを着てもらえるのが、こんなに嬉しいことだなんて知らなかったなぁ」


「…もう十分すぎるほどいただきました」


「何言ってるの。いくらでも贈るから心配しないで」




明らかにアイリスの意図を理解していないロータスの返答に苦笑いを浮かべるしかないアイリスは、「次はどんなものがいいかな」と心ここに在らずなロータスに、諦めたように軽食へと手を伸ばした。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る