第12話


貧民街からの帰りの馬車、何か物思いにふけるように外を眺めていたロータスは、「アイリスは、本当に素晴らしい人だね」と夕陽に照らされているせいか、今にも泣き出しそうに煌めく瞳をアイリスに向ける。




「僕は、自分に足りないものばかりを追い求めて…僕を支えてくれている民のことは、二の次になっていたみたいだ」


「?…先ほどのお言葉、民を思う我が国の王子殿下そのものでしたよ」




アイリスの言葉に再び外へと視線を向けたロータスは、「行動が伴わないうちは、思ってるとは言えないよ」と瞬きをひとつする。




「…今回は必ず、陛下に行動していただけるまで進言することにするよ」




何か強い意志を感じさせる瞳でそう言ったロータスは、「今日は一緒に来てくれて、ありがとう」とその瞳に優しさをにじませる。




「…こちらこそ」




そう言って笑ったアイリスにどこか固さが感じられた表情を崩したロータスは、「欲しいものは決まった?」と見慣れた笑みを浮かべる。




「あっ、」




何も考えていなかったと慌てて顎に手を当てるアイリスに、「ゆっくりでいいよ」とロータスは微笑む。




「…あの、ロータス様に選んでいただくのは駄目ですか…?」


「え?」


「…あの、ロータス様のお好みに合わせたいというかですね…」




アイリスの言葉に驚いたような表情をみせたロータスは、何度か瞬きを繰り返したあと、「それはいいね」と嬉しそうに瞳を細める。




「僕は可愛らしい装いとか、上品な感じが好きだな」


「私も好きです。…ロータス様が普段お召しになっている装いも、すごく素敵ですよね」


「本当に?嬉しいな」




和やかな会話をしているうちにお目当ての町中に着き馬車を降りたアイリスは、ロータスに任せると言ったことを後悔するほどの量のプレゼントを贈られ、次は必ず欲しいものを一つに絞ろうと、心に決めたのだった。








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