第11話


ある程度覚悟していたことだが、荒れた暮らしを実際に目にするのは心にくるものがあって、それでも最後まで自分の目と足で見て回り、行く先々で民から受ける嘆願にいちいち立ち止まり、その手をとるのも厭わないアイリスに、ロータスは言い知れぬ何かを感じ、息が詰まるほどの衝撃を覚える。




「身なりが汚いからって門前払いされて、俺たちだって、働く意思はある!今日食う飯だってねぇのに、どう身なりを整えろってんだ!?」


「仕事さえあれば、こんな物乞いみたいなことしなくて済むんだ!お貴族様!王子殿下!どうにかしてくれよ!」




いつもは護衛騎士越しに聞く願いも、その痩せ細った身体に触れながら聞けばより深刻さは増して、民を思うふりをしてその願いをただ陛下に伝えるだけだった自分に、ロータスは恥ずかしさすら感じる。




「大丈夫ですよ。王子殿下が必ず、皆さまの願いを陛下にお伝えくださいます」


「本当か!?本当にこの生活から抜け出せるのか!?」


「…うん。…働く意思のある者全員に、必ず就労機会を与えると約束しよう」


「…王子殿下!」


「ありがとうございます、王子殿下!!」




そうだ。口だけではなく、きちんと実現されるまで自分が動き続けなくてはいけないんだ。


今までなら近付くことすらしなかったであろう貧民たちの手は温かく、そして固くかさついていて、ロータスは色んな現実を自分に突きつけるようにきつくその手を握り返した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る