第10話


朝食のあとなのにお腹が空いているという不思議な状態に陥ったアイリスは、それを見越したように「アイリスの軽食も頼んであるから、僕の部屋で一緒に食べよう」と声をかけてくれたロータスに甘えて、ロータスの部屋で共に食事をとることになった。




「ふふ、安心したなぁ。母上もほとんど食べられているし、僕が遅いんだと思っていたから」


「…私もまさか、陛下があれほどあっという間に食べ終えられるとは思っていませんでした…」




緊張しきりの朝食の場とは違って、和やかな雰囲気のこの場に自然と食も進むアイリスは、あれも美味しいこれも美味しいとどんどん食べ進める。




「今日はこのあと、僕と一緒に貧民街の視察だよね。いきなり国の裏側を見せるようで、申し訳ないんだけど…」


「陛下から、マナーに関しては申し分ないから、政治や経済、特に国の現状や対策について重点的に学ぶようにと言われているので」


「うん。僕もそれには同感なんだけど…」




困ったように微笑むロータスが何を思っているのか何となく察したアイリスは、「貧民街には、慈善事業で行ったことがあります」と笑みをみせる。




「…、王族って言っても、民の全員に好かれてるわけじゃないから…、嫌な思いを、させてしまうかも」


「それもまた、受け入れるべき現実なのだと理解しています」




王族として生まれた自分よりも、アイリスのほうが余程達観していると驚かされるロータスは、「心強いな」と笑みを浮かべたまま眉を下げる。




「帰りはどこかに寄って、買い物でもしようか」


「え?」


「まだ一度も、…贈り物をしたことがないから」




本当はもっとスマートにするべきなんだろうけど、と恥ずかしそうにほんのりと頬を染めたロータスは、「自分では何を選んだらいいのか、分からなくて」とアイリスから目を逸らす。




「…ありがとうございます」




ロータスなりに色々考えてくれていたのだとアイリスが嬉しさを噛み締めていると、「そろそろ時間だよね」と赤い顔を隠すように立ち上がったロータスが、「欲しいものを考えておいてね」と捨て台詞のように言って部屋を出て行ってしまう。




「…ふふ、」




焦ったところを初めて見たな、と遅れて部屋を出たアイリスは、律儀に部屋の前でアイリスを待っていたロータスの優しさに、やはり素敵な方だな、とじんわりと胸の奥があたたかくなるのを感じた。








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