第6話


「楽しんでいるようだな」




紅茶もお菓子も美味しいものばかりで、アイリスが幸せいっぱいでロータスとの会話を楽しんでいたところに、ここには居るはずも、というよりむしろ気軽にお目にかかれるはずもない存在の乱入に、アイリスは反射的に立ち上がり挨拶の言葉を口にする。




「…うむ。ロータス好みに育っておるな」


「?…陛下は、アイリスとお会いになったことがあるのですか?」


「ん?…ああいや、無いな」




正確には何度か会ったことがあるのだが、陛下に謁見できるのは限られた貴族だけなので、無いと言ってくれた陛下の返答にアイリスはほっと息を吐く。




「そんなことより、念願の恋愛結婚が果たせそうで良かったじゃないか」


「…陛下は散々、甘いとおっしゃっていたではありませんか」


「相手がブラウン伯爵令嬢なら、何も言うことはないだろう」




そうは言いつつも、全て自分の思惑通りに事が進んでいる陛下は大層ご機嫌な様子で、「アイリス、くれぐれもよろしく頼んだぞ」とアイリスの肩を叩いて、風のように去って行く。




「…ごめんね。びっくりしたよね」




申し訳なさそうにそう言ってアイリスに目を向けたロータスは、すぐに視線を落として、「僕が王族らしからぬ思想を持っているせいで…陛下は僕を心配なさって、僕の行動を監視されているようなんだ」と再びアイリスに視線を戻す。




「…ロータス様は、陛下に大切にされているのですね」


「そうなのかな…」


「そうですよ。陛下は、あくまでロータス様がご自分でお選びになることが前提で、その上でその相手が心配であると、そうお考えなのだと思います」


「…、僕だってまさか、将来王になるしかない状況で、とんでもない相手なんかを選ぶつもりはないのに…」


「私がそのとんでもない相手だったら、どうしますか?」




アイリスの言葉に、憂いげな表情から驚いたように目を見開いたロータスは、「ははっ、」と砕けた笑い声をこぼして、「たしかに、もしそうだったらどうしよう?」とわざとらしく首をかしげてみせる。




「…国家転覆の危機です」


「あはは。それは大変だ」




そう言って笑うだけのロータスは、ひとしきり肩を震わせたあと、「そろそろ、温室を見に行こうか?」とそっとアイリスの手を握る。




「すごく綺麗で、とってもいい匂いだよ。楽しみにしててね」


「はい!」




ロータスとの距離が近付くと同時に再び感じる、鼻になじみつつあるロータスのほんのり甘い香りに、アイリスは何だか心の距離まで近付けている気がして、嬉しくなってしまった。



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