第3話
穏やかだった母との時間も、大好きだった父との領地視察の時間も、全てを犠牲にして挑んだ決戦の日、無事に運命の出会いと呼べそうなものを果たし屋敷へと戻ったアイリスは、疲労困憊の身体でコルセットだけ緩めて、そのままベッドへと飛び込んだ。
「…今日だけです」
「そうですね。今日だけにしてくださいませ」
物言いたげな顔でアイリスを見つめながらも、それだけ言って静かに部屋を出て行くホリーを見送ったあと、そうよ、今日は大仕事をやり遂げたんだもの。少しくらい息抜きは必要よ、と瞼を閉じたアイリスは、すぐに思い起こされる王子殿下改めロータスの顔に、舞い上がっている場合じゃないのにと首を横に振る。
「美しすぎるのも、目に毒ね…」
まず自分がロータスに気に入られなくてはいけないのに、先に自分の方がロータスを好きになってしまいそうな状況に、アイリスは「あんなに素敵な方だなんて、聞いてないわよ…」と頭を抱える。
「私だって、不細工ではない…わよね?」
散々あの美しいご尊顔を見たあとに目が合った鏡の中の自分は、げっそりと疲れている様子も相まって、お世辞にも美しいとは言えない様相になっているような気がする。
「…、余計なことを考えるのはよしましょう」
もう寝ようとベッドに横たわった拍子に自分から漂ってきた優しい甘さを感じる香りに、アイリスは再び忘れかけていたブロンドを思い出してしまい、眠るどころではなくなってしまう。
「早く寝なくちゃ…」
また明日から一日中、日々変わるロータスの動向や好みに合わせて変えられていく授業と、まだまだ完璧ではない王太子、王妃としての教育に忙殺される日々が続くのだろう。
「こんな生活が、一生続くのね…」
大変な公務も、愛する妻と一緒なら頑張れそうだ。
そう言っていたロータスの言葉の重みをまざまざと感じたアイリスは、辛いのは自分だけじゃない、と言い聞かせて、今度こそ寝ようと静かに息を吐く。
「おやみなさい…」
次の日の朝、案の定とでも言うのか身体中痛いところだらけの起床を迎えたアイリスだったが、そんなことお構いなしに始まるいつも通りの一日に、いつしか身体の痛みも忘れて、ただひたすらに自分の責務を全うすることとなった。
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