43話師走と馳走



年末を師走と呼びますね。


語源の一説には、師と普段呼ばれている人でも走らなければならない程忙しい…と言うもの。



では馳走


これは料理のご馳走の事です。似通った意味が伝わっています。


手を尽くした料理の香りに誘われて偉い人でも思わず走って駆けつけるからとも。


どちらも思わず普段の「立場」を忘れて走り出してしまう。


何とも忙しい様な微笑ましい様な…



今回は師走と馳走…


いやいや、くしくも今は師走時。皆様も忙しくされている事と思いますので、文章の中でもその時々の馳走を取り上げて、師走に一服を差し上げたく思います。



さてまずは戦国時代の大名、毛利元就公の餅のお話


中国の雄毛利元就公。

父と兄は深酒が祟り早逝しているとされます。

更には家臣に居城を奪われて「乞食若殿」と陰口を言われる迄に追い込まれます。

その年若い毛利元就公を哀れと思われたか、亡父の側室であった杉の大方と言う女性が養育して下さったそうです。

毛利元就公のお話はご存知の方も多いでしょうから進みます。


父と兄を酒毒で亡くしたと思った毛利元就公はご馳走と言えば「餅」であったそうです。


その餅がどんな餅かは分かりませんが、相当の贅沢だったのではと思います。


今では餅米やもち米粉で作られる餅です。ですが郷土料理に「婿騙し」と呼ばれる餅も有るのです。

婿騙しはもち米以外に稗や粟等の雑穀を混ぜてついた黄みがかった餅です。それを「白餅」、もち米の餅だと「騙して」ご馳走したと言う料理。


更に現代では包装技術が進歩して、半年経ってもカビも生えない餅もありますよね。


毛利元就公の生きた時代ではカビを抑えるのは不可能であったと思います。

ですからつきたて、もしくは伸し餅等にして多少日持ちをさせた餅であったのではと思います。


更に兵糧にもなる餅ですから大ご馳走でしょう。


毛利元就公は客人を持て成す時は、上戸の人には酒を。


下戸の人には餅を出したそうです。


酒を避けてはいましたが、客人には強要しない辺り、とても繊細な人物であったのだと思います。




これも伝え聞きですが、戦の準備中だったか城攻めの時と思いますが、毛利元就公の嫡男、毛利隆元が食事の後に倒れてこの世を去ります。


その時ばかりは毛利元就公は部屋に籠もって深酒をして泣きはらしたと言います。


そこに毛利元就公にとっての師走時、走らねばならぬ時が。


戦をするには「金」が掛かりますが、それは商人に用立てて貰っていたそうです。


嫡男が中毒死か毒殺されようと、一度始めた戦を止めれません。

毛利元就公が商人に資金の相談に行きますと。



「いや、嫡男の隆元様ならお貸ししますが…大殿には…」

毛利元就公は謀略家とされていましたから、貸した金が戻らないのではと商人は疑って断りました。

毛利隆元の下の兄弟である毛利両川、吉川元春や小早川隆景も商人にあたるのですが色良い返事は貰えませんでした。


そこで初めて毛利隆元の「実力」を思い知りました。


毛利元就公も毛利両川も毛利隆元を「劣る」と思っていた様です。

ですが毛利隆元は本来果断な人物であり、更に内政向きの当主だった様です。


毛利隆元は、「自分より父を長生きさせて欲しい。この役に立たない私より…」

と、神社に起請文を出す程に、父親にコンプレックスを持っていた様です。


兄弟仲も悪く、毛利元就公が仲裁の手紙を出しています。


この大問題を何とか乗り切った毛利家。大大名となりました。


これにより毛利隆元に対する評価が変わった一族。

毛利隆元は「信用」と言う武器を家の為に用いていたのです。


そこは家族です。毛利家の跡継ぎは毛利隆元の嫡男毛利輝元に無事に決まります。


そして祖父になる毛利元就公が後見人。叔父の毛利両川が教育係となり、「祖父や父のような当主になりなされ」と、折檻込の熱血教育を受けたそうです。



餅の話でしたので捏ね回してみました。



大大名となった毛利家ですが、毛利元就公は華美を好まなかったそうで。


「客人に餅を出せるようであればよい」


一説にはその様に言っていたとも。

先にも述べましたが今も昔も「餅」はハレの食べ物。ひいてはご馳走です。

ですが普段からそれを好む訳ではなく、「客人」への馳走として用意出来る立場と品格であれ…でしょうか。

白餅か混ぜ餅か。謎を残して。




所で、餅とは新年には食べたくなりませんか?


つきたてのお餅…今でもご馳走ですよね。


雑煮や磯辺焼き、お汁粉…今では様々な味わいが楽しめます。



戦国時代の毛利家の事を思いながら食べてみるのも一興かもしれません。



続きまして




真田信之公のお米



これも人から聞いた話で恐縮ですが、大名真田信之公とお米のお話です。


皆様は真田信之(信幸)公はご存知ですか?

真田です。悲しいですが父である真田昌幸や弟の真田信繁(幸村)が有名ではありますが真田の一族であり真田本家を存続させた偉人であります。

きっと調べればすぐに出てくると思いますが、少しだけ。

徳川家との戦である第一次上田合戦。その時の指揮は父親の真田昌幸がとっており倍以上の兵力の徳川軍を引っ掻き回します。

その最中真田軍は川を決壊させ大水を起こして更に徳川軍を崩します。

そこに真田の「騎馬勢」が押し寄せ存分に徳川軍を切り崩し、結果戦死者、溺死者を多く出した徳川軍が敗退したと言う戦。

それが真田家が臣従して幕府に仕える事になった時、城で真田信之公を見つけた徳川家臣であり「天下の御意見番」こと大久保彦左衛門忠教と言う者が。


「上田の騎馬武者では御座らぬか」

そう言って懐っこく話してきます。


「いや、あれは私と背格好の似た大叔父でありましょう」


「謙遜なさるな。この彦左衛門、間違えませぬぞ」


と言う様なやり取りがあったとか。

敵対していた時の話を無邪気な武勲として話されて真田信之公は困ったでしょう。ですがこの様に弟の信繁にも劣らぬ武勇も持ちます。

ですが父と弟の活躍に挟まれた…まさに苦労人であり、年中「師走」の様にこの様な胃の痛い話が多い人です。


更に第二次上田合戦と言われる、関ヶ原前の徳川秀忠公が真田を攻めた時。

その時の徳川の軍勢には真田信之公も参陣していました。


真田軍はまたも奇策を用いて徳川軍を足止めします。

そして打って出た真田軍が城に戻る時に父真田昌幸公と弟真田信繁が城に入るのに「是非お先に」と譲り合い…


更には「父より先に入らんか!」「息子が後でしょう!」

喧嘩になったそうです。


それを目にした真田信之公が


「止めに行く!」

と、「乱心」したと…聞きました。

嘘か真か…でもまさに親子と言う逸話ですね。


その真田信之公のお米



普段我々が何気なく食べているお米、お米が「ご馳走」の地位からどいたのはここ数十年前かと思います。

他でも述べましたが、大東亜戦争時、昭和の時代でさえ「白米」を食べたのは徴兵された軍隊練兵場での食事であった…と言う人も少なくなかったのです。

江戸時代も、消費者である大都市には農村から米が流入して、都市部では米が食べれましたが、生産者である農村では米は「税」であり食べ物ではなく、自分達は稗や粟等の雑穀を食べていたと言いますし、食べごたえの有る「麦」を炊いた麦飯でも殆ど口に入らず、祝の席でもご馳走として出されるのは「蕎麦」であったとも。白黒の資料で蕎麦の饗された結婚式を見ましたので嘘では無いかと。



そこで大名真田家のお米になります。

国替え前真田家が居た信州と言えば「蕎麦」ではないでしょうか。

稲作に適した水田に出来る平地が少ない山間部でも蕎麦は育ちます。

今でも蕎麦の産地として名が上がります。


江戸では「新蕎麦は褒めるな」

と、言われていました。味も良い蕎麦ですが救荒食物でもあり、蕎麦の産地は山がちで米の少ない土地と昔はされていたので「褒める」事は「貶す」事と同じと江戸っ子は思っていたそうです。


今度こそ!「お米」


大名となった真田信之公。

真田家には不思議な役職があったそうです。

正確な名前は忘れてしまいましたが、「米研ぎ」専門の役職です。


大名が食べるお米を研いで炊いて用意する。それだけの役職。


ですが他家とは意味合いも何もかも違いました。

何せ米研ぎ番は。



「いくら米を溢しても構わない」


そう定められていたからです。

米研ぎ番はその炊けるまでの過程で「溢した」米を暗に「自由にして良い」と言われたのです。


ですからこの番は「持ち回り」


世襲ではなく様々な家臣がその役について殿様の「気持ち」を受けれたのです。


これは「窮した」事のある真田信之公ならばこそのお目溢し。


晴れて殿様。大名として江戸幕府に組み込まれました。

そんな時真田信之公は杉の葉をとられて小姓に。


「食うた事はあるか?」

そう問われたそうです。

小姓は「御座いません」と答えます。


「うむ。それが良い。儂などは山野に潜みおる時に窮して杉の葉迄口にした。今はそんな時代ではないのだな」


その様に言ったと言われています。




そして餅とお米。


正確なら餅米とうるち米。


ですが元々を辿ると「米」となります。



我々は普段「米」に対してどう接しておりますか?


昔の如き「ご馳走」とは立ち位置が変わってしまいますが、未だに「いただきます」、「ごちそうさま」…



皆様「ごちそうさま」です。

この一語位は無下になさいません様に。





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