第35話酔生夢死
酔生夢死
すいせいむし、と読みます。
酔うように生きて、夢の中に死す。でしょうか。
これは酔った様に何も考えないで無軌道に生きていては「成せず」「悟れず」、夢の中に居る間に死んでしまう…
に、なりましょうか。
はるか昔の言葉です。
我々は日々を真剣に生きています。
嫌な話ですが、損得勘定もせねばならないですし、喜怒哀楽が活発なら様々事に手を出すかも知れません。
ですがふと「余裕」がある様な人に出会う時が有ります。
優しい笑顔で、焦らず、日々暮らす。
尋ねると。
「世の中悩むことあるのかい?」
等と言っております。
その人は酔生なのか…達人なのか…私には分かりませんが…
世の中川の急流に揉まれる人生の人と、浅瀬の木の葉の様に揺れるだけで波風と無縁な人もいらっしゃいます。
「急流」でなく「浅瀬」の人なのか?
邪推ですね。
大陸の「史記」に記載のある清廉な人が残した言葉が酔生夢死の「対極」の一つではないかと私は思っています。
衆人みな酔いて、われ独り醒む
時代は遥か昔の大陸の春秋戦国時代でしょうか。
清廉潔白を旨とし、王にも諫言を厭わない大人物が居ました。
王も初めは諫言を取り入れ国政も正され国も強くなります。
ですが、そうなるとその余禄にあずかろうとする人々にとって、その大人物は邪魔になります。
宮廷の者達が王に讒言をしてその大人物を追放してしまうのです。
その大人物、名は屈原。隠れもせぬ大丈夫の人。
屈原が追放先に向かっていると川辺の「漁師」でさえ彼を知っています。そして声をかけました。
「貴方は屈原様ではありませんか。何故こんな所に…」
「世の中濁りきっている…私だけ清くあろうとしても、周り皆酔っているのに私だけ酔わず醒めている。だから追放されたのだ」
「屈原様。世の中に合わせては如何ですか。世が濁っているならそれに従えば。周り皆が酔っているなら一緒に酔えば良いではないですか。貴方程の方が追放なんて…何をしたのです」
「誰でも入浴し、身奇麗になったならば、さっぱりし着物を着ようとするだろう。私は潔白な身を汚辱に塗れさせたくないのだ。ならばいっそこの川に身投げ、魚の餌になるのがマシである」
屈原はそう言うと懐に石を抱いて川に飛び込んで没した…とあります。
その言葉は正に周りが「酔生夢死」であり、独り素面で直言し、人々や国を憂えた男の…ポツリと、だが確かな「世の中への諫言」であったでしょう。
皆様が世の中を渡ろうと真剣に立ち働いているのに、まるで酔いどれの様な隣人がその余禄を掠めようとしているのが現在と感じます。
古今東西詐欺行為や乱政治が横行しています。
どうやったら我々俗世の人間は「酔からさめ、夢から醒める」のでしょう。
私は、ですが。
好機は危機と心得ます。
好機とは誰にとってものチャンスです。
セミを捕らえようと狙うカマキリの後ろには、スズメが今しとばかり態勢を整えている
良くて私はセミを狙うカマキリです。
その後ろには更に大きな禽獣がカマキリを餌食にしようと待っています。
そんな世の中でどうして「酔って」居られましょう。
更にもし「酔が醒めた」としたら。
思い通りにならずと言って、気に病んではならない
我が意を得たりと言って、むやみに喜んではならない
今が安穏だからと言って、今の立場を頼みにしてはならない
最初に困難にぶつかったからと言って、すぐに気後れしてはならない
決して有頂天にならずに薄氷の如き苦界を歩むには、「夢からも醒め」ないと危ないです。
皆様も深酒と長寝にはご注意を。
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