第34話豆腐一品
江戸時代には豆腐百珍
豆腐百珍、皆様は聞いたことはないですか?
豆腐百珍は江戸時代発行の豆腐料理の専門書です。
本当に百種の豆腐料理が載っています。
江戸時代から現代に至るまで「豆腐」とは安価で力になる庶民の味方だと言えるのではないでしょうか?
何しろ途絶えずに続く食品とはそれだけ必須であったとも言えますから。
平安時代には「あまづら」と言う「甘味」が存在していて、貴族の口に入ったと記載が有りますが…記載が主で、本物の「あまづら」とは何なのかが不確かだと言います。
一部の人の楽しみ事に使われた物は記載に載るだけでも奇跡的です。
豆腐は書物や逸話や古典にも様々御座います。
正に日常食でしょう。
では私が遡れる書物では、江戸時代末期の参勤交代の勤番侍である
酒井伴四郎
と言う、紀州藩士の日記から推察します。
日記にある豆腐への記述には
江戸の豆腐は白くなく、灰色がかり、固くて舌触りが上方に比べてよくない。
こう記されています。
上方の豆腐は言うなれば逆で、「白く」、「柔らかく」「舌触り良い」ものなのでしょう。
ですが江戸の豆腐は上方豆腐よりも大豆を多く使っていた様で腹持ちも良くて酒井伴四郎はよく買っています。
焼き豆腐が好みだったようで一年に四十八回買っています。
田楽豆腐は串を二本打つので侍の悪口に。
こんな話もあります。
おでんの元にもなったと言う「田楽」の田楽豆腐です。串打ちして山椒味噌を塗って焼きます。
短冊切りの豆腐に串が一本だと崩れてしまうので、串を「二本」打ったとされます。
ですので、武士が腰の物に「大小二本」の刀を佩いたので…
こっそり悪口に田楽豆腐を侍の隠語にしていたそうです。
ですが坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
本当に侍が嫌いなら田楽豆腐なんて売れなかったかも知れませんが、それは恐らく江戸っ子の「洒落っ気」でしょう。武士や町民関係なく田楽豆腐は好まれました。
冷たい冷奴より湯奴、湯豆腐が多かった。
酒井伴四郎は「風邪」をひいたので、その日は豆腐を買い、酒二合呑み、豆腐は「湯奴」にしたそうです。酒と湯奴で体を暖めて寝たのでしょう。
湯奴とは現在の湯豆腐でしょうか。
豆腐百珍には「高津湯豆腐」なるものがありました。
絹ごし豆腐に、調味した出し汁に葛でとろみをつけた正に温まる一品。
昔は温かな出し汁をよく使った様なので、風邪にも効いたでしょう。
何故豆腐を呼ぶのに奴?
これも諸説有りますが有名な話がありますね。
湯奴、冷奴の「奴(やっこ)」
奴と言うのは、四角に切った豆腐の形が、武家の下級奉公人の奴の着物に付けられた「方形の紋」に似ているから。
そう言う謂れで四角い豆腐を奴と呼ぶようです。
豆腐は古今安い。
これは酒井伴四郎の日記にも細かく値段が書かれていましたので比較できて有り難いです。
酒井伴四郎は自炊上手だったようで、よく食材を買って料理しています。
幕末の物価高な江戸でも、日記には。
焼き豆腐5文
揚げ豆腐5文
白豆腐は高級で30文
とあります。
一文を現在の円換算は難しいですが、一文は現在の十円以上ではあったようです。
日記にある高級な「白豆腐」。これは上方の豆腐を真似た「白い」豆腐でして。高値なので一丁三十文。円で五百円前後ですか。
酒井伴四郎はそれを高いので「半分」だけ買ったようです。
それでも白豆腐が美味しかったとみえて一年で十四回も買っていますから…よっぽどですね。
それでは
現代の豆腐一品
安い豆腐を油で焼けるか試してみよう。
これはサイエンスなお話ですね。
長く半日程水抜きした安い豆腐を焼いてみたらどうなるのか?
代表選手は三丁五十円の絹ごし豆腐です。
水抜きも柔らかい豆腐ですから大変です。
水抜き完了。
では油を引いたフライパンへ。
皆さんはどうせ豆腐を油で焼いたら「厚揚げ」になるだろうと思っていらっしゃると思います。
簡単に結果が出ますのでそれは皆様、お試しあれ。
最後に。
江戸時代には「きらず」
現在では「おから」
豆腐や豆乳を作るのに必ず出てくる代物です。
なんと、現代では大量のおからは「産業廃棄物」指定だそうです…
ですが。
きらずと呼ばれたおからは滋養に富んで節約にもなり江戸っ子も好んで使いました。
有名なものですと、「いなり寿司」ですね。
初登場のいなり寿司の中身は「おから」だったそうです。
そもそもいなり寿司は米の不作から生まれた料理だったそうですから。
現代ではそんないなり寿司には出会えないかも知れませんが、大東亜戦争の戦中の寿司屋さんは酢飯の代わりにおからを使ったとも言いますし、戦後の闇市でも「おから寿司を食い、腹を満たした」と復員者の記録にも残ります。
ちなみに。
私の里では旨い「おから(卯の花)」を作れる嫁様が好まれた。
そうです。
豆腐の元は大豆。
正に大いなる豆
ですね。
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