第13話怪物ノ壱

以前近況ノートにも載せていたのですが、リヒャルトワーグナーの戯曲「ニーベルングの指輪」の中にある、「ラインの黄金」と「指輪」…



後に英雄となるジークフリートが指輪を守る竜(蛇)を打倒してその黄金と指輪を得るというくだりが歌い上げられています。


そのジークフリートに打ち倒される竜は本当に竜だったのでしょうか?



戯曲では元々はファーフナーと言う名の巨人族であり、指輪に執着するあまり竜に変じて指輪を奪いに来る相手を喰らっていました。

そして親兄弟と殺し合い指輪を獲ています。





ジークフリートはそのファーフナーを打ち倒した時にその血を浴びて不死身の肉体を得ます。

ですが何事にも弱点はあります。

ジークフリートも血を浴びた時にたまたま背中に菩提樹の葉が付いていて、その箇所だけ血を浴びなかったのでその一点だけ不死身ではありません。


これも類話が存在しますよね?


ギリシャの英雄アキレウス。


彼も不死身の肉体を持っていましたが…


有名なアキレス腱…


そう。アキレス腱だけが不死身ではなく、そこを射抜かれて不死身でなくなります。


ジークフリートとアキレウス。両者共に弱点を持ち、それを知られて倒されます。


ジークフリートは親しいと思っていた人に。

アキレウスは敵対者に。

違いはありますが…



かく言うラインの黄金…指輪


それを守る怪物。


宝を守る怪物は日本にも有名な話が沢山ありますよね?


怪物を竜や巨人から変えて、「鬼」にしますと。


桃太郎


は、正に人を苦しめる鬼を退治に鬼ヶ島に三匹のお供と乗り込んでやっつけ改心させて、結果として財宝を得て帰路につきます。


桃太郎は桃から産まれます。

桃は古来より神聖な果樹とされており、桃から産まれた桃太郎には破邪の力が宿っていました。正に日本版怪物殺し。


ですが桃太郎の話も古くなりますと、桃を食べて若返った老夫婦の子供…になるそうですが。




この様な物語の雛形は、口伝えで恐らく様々な話が太古の語り手により全世界に伝えられたのでしょう。


民間伝承に限らず、神話にも類似点が世界中に見つかると思います。


最近ですとゲームや漫画でもその辺りは詳しいと思います。



それはそうと…



今回は「怪物」とは何ぞや?



先に黄金や指輪とも申しましたが。


それを色々考察出来ましたら良いと思いまして。


皆様は本当に巨人や竜等の怪物に当て嵌められる存在を信じますか?


昔の人が恐竜の化石を見たから竜が産まれた…


象の頭蓋骨が一つ目の巨大な髑髏に見えるので巨人が産まれた…


様々あると思います。



竜はもしかしたら我々の先祖に当たる文字の無かった初期人類が恐竜の生き残りと対決して…とか。



ものの本には、人類の先祖と同時期にギガントピテクスと言う身長三メートル弱位の巨大な哺乳人類が存在した為に口伝えで伝わった…ですとか。



因みに恐竜の正当な子孫は身近に存在しますよね。


あの三本爪の足跡。二足歩行。





そうです。鳥類です。


昔は始祖鳥…と習った方も多いと思います。


はい。正当な子孫は鳥類です。


爬虫類は見た目は逞しい体躯に牙の並ぶあぎと。身体は鱗に覆われて尻尾も立派。


こちらも子孫ですね。こちらも正当な子孫と言えるとも思います。

古代大陸の書物にもワニを竜として手元に置いた権力者も居たようですし。


恐竜は鳥類と爬虫類に別れ未だに命脈を保っています。



では日本神話のヤマタノオロチ…


八つの頭にアカカガチの様な燃える目、腹は赤くただれ、生贄と酒を好む暴れる大蛇。


それを素戔嗚命が見事退治して体を両断した時に、大蛇の尾から後の草薙の剣が出て来て佩刀とした…そうです。


こんな大蛇本当にいたのか!?


日本神話は現実に照応していくと、様々な説が出てくるそうです。


ヤマタノオロチの居たのが山地であり、草薙の剣が出て来た。腹は赤くただれている。

そこから太古のたたら製鉄の山の民を朝廷が討伐して支配下に置いて、銅剣より強力な鉄で出来た剣(草薙の剣)をも手に入れた…

ヤマタノオロチは複数の山にとぐろを巻く。それ程の山々に勢力がある民。

ヤマタと赤くただれは、たたら製鉄により八つ又の川に赤い排水が流れた…


今ではそう言う学説もあるみたいですね。


さらにたたら製鉄の山の民はその時代に良質な鉱脈を探して世界中に散っていて、彼等こそが物語と神話の語り手も担ったのでは…との話も。


北欧神話の霜の巨人も、自国より雪深い土地の民を貶めた姿とも言われています。



はい。


怪物と呼ばれる存在は、それを書き記した勢力にとっての「怪物」として描かれた「人類」なのではないでしょうか。



人は敵対とは関係なく、この人には血が流れているのか…

そう言う人もよくいますよね。


そこで一番身近で人を「怪物」に変えてまうのが。


ラインの黄金であり、指輪…と言えるかも知れません。


戯曲では黄金と指輪には強力な呪いが掛けられていて、「愛」を知らない者しか持てない…とも描かれます。


黄金を産んだ初めの指輪の持ち主は、類稀な「強欲」により指輪の所有者になり、黄金を山の様に積み上げます。


ですが、それを横取りする為に神々がその者を殺してしまうのです。

その持ち主は自身の黄金と指輪にさらなる呪いを掛けて死にます。


黄金と指輪を得た神々も呪いに犯されて破滅寸前に陥ります。


後に指輪を得た巨人も親兄弟と殺し合い指輪の所有者となります。

更には巨人の姿から大蛇へ姿を変じて…


そこからジークフリートの物語へと移るのですが…戯曲が十時間を超えるものなので先に述べた記載で終えます。


かい摘んでの粗筋ですので、気になる方は戯曲を見てみるのも良いかもしれません。



戻りまして、黄金と指輪。


それは万人にわかり易く、更には所持したいと思わせる物だと思います。


現代的ですと、富と名誉に当て嵌まるかと。


昔の人は、奢なれば不遜…金を持つと無礼になる。とも申します。


名誉も求めると果てしないです。

王から位を賜ったら、何故財宝をくれないのかと恨み、財宝を賜ったら、何故土地をくれないのかと恨み、土地を賜ったら、何故貴族として封じてすれないのかと…恨む。


そうです。


人は思っているより昔から「強欲」なのです。

それが人を簡単に「怪物」に変えます。


現代でもまわりにいませんか?


仕事に優劣を付けて上に立ちたがる人や、お中元やお歳暮を多量に貰える事を自分の魅力だと思ったり…

部下が沢山いる。寝る時間が無くて困ると困っていない様に話したり。



それは無意識に人を攻撃している事にもなると思います。


人間には、他人の名誉や財産、尊厳や生命を踏み躙る権利は存在しません。



昔の聖賢は。

まだ未熟なうちは、歓楽街や酒宴には出ぬ事。出ればたちまちに染まってしまう。身を清らかにして立てたいと志すなら、いたづらに近寄るべからず。身を修めてから立ち向かうべし…


そう述べています。

ジークフリートやアキレウスは表面上無敵ですが、やはり修養で獲得したものではなかったので、上の様にまだ修めていない人…だったので害されたのかもしれませんね。


そして人との付き合い…そう簡単にはいきませんよね。何せ誘い主が既に黄金の呪いに掛かっている事も多いですから。



長くなりましたが。

どうか皆様が気づいたら「怪物」の虜になっていたりしません様に。








イドの怪物



シリアルキラー




まだまだ怪物の御用意は御座います。

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