第9話妖怪探訪
たんころりん
もしくは、たんたんころりん
故、水木しげる先生が紹介されて有名になった柿の木の妖怪です。
たんころりんは本当に居るのだろうか…?
最近少し嫌な事があり、考え事を休んで近くの小高い山を歩いていると、私の目の前、いや、鼻先をかすめる様に熟れた柿の実が落ちて舗装された道にペチャリと赤い華を咲かせました。
危ないなぁ…直撃しなくて良かった…と思いながら上を見ますと特に何もありません。
おかしいな…と思い周りを見回すと、舗装道路の脇に草を少しだけかき分けた小道がありました。
そこに目をやるとその小道に点々と熟れた柿の実が潰れて落ちていました。
たまの山歩き。ですが慣れた道。何度も歩いているのにそんな小道には気づきませんでした。
ただの里山ですから、熊や猪の害は無いだろうとその小道を下草を掻き分けながら進みました。
ほんの一分程進むと、そこにはもう手入れもされていない猫の額程の平地が有りました。
そこにひっそりと、ですが熟れた実をたわわにつけた柿の木が立っていました。
柿の木に近寄りますと、熟れているのに鳥もついばんでなく、かわいい形の実があります。
渋柿かな…
以前は人が世話をしていただろうその苔むした木は、今は誰も世話するものもなく、まるで泣いている様に実の重みで枝を垂らしていました…
たんころりん…
昔に読んだ妖怪辞典に載っていた妖怪が浮かびます。
そして私は柿の木に礼をして、実をもいで家に帰りました。
どうせ渋柿だろうと思っていたその実は
青果店で売っている名付の柿の様に甘く、更には大粒の種を残し、芯まで柔らかく食べられました。
柿の木は昔は本当に沢山の個性を持っていました。
甘柿や渋柿、更には戻り柿と言って渋柿と甘柿の中間の甘渋い実も有りました。
ですが、時代が進むにつれて、種は要らないから種無し柿、甘みを追求した柿…万人に受ける様に淘汰されていきました。
私がその日食べた柿は、改良や淘汰から逃れた昔昔の味を持っていました。
そうなりますと居ても立っても居られません。
家に残してある純米酒を片手に、更に籠を持ってまた山に登りました。
ちゃんと小道は有りました。
そしてやはりぽつんと…柿の木が。
私は柿の木に、美味しい実を下さりありがとうと礼を述べ、柿の木の幹と根本に少しずつ日本酒を注ぎました。
そして改めてお願いをして、籠半分程の柿を頂いてきました。
幽霊の正体見たり枯れ尾花…
はい。
きっと妖怪や幽霊ではないのでしょう。
私の目の前に落ちた柿の実も、もしかしたら猿が落としてしまったのかもしれません。
ですが、世の中には偶然と言うものがあります。
たまたま柿の旬の時期。たまたま山道の脇に小道があり。たまたま手つかずの柿の木が…あった。
それだけです。
ですが
嬉しいじゃないですか。
昔の方々が柿の実が実るのを楽しみに待ち、下草を刈ったり、新芽をお浸しにしたり…
思わず昔の人々の暮らしを感じてしまいます。
良いと思いませんか?
妖怪
ささくれた世の中にも…もしかしたらこの様に何かを授けてくれる、恵みがあったって。
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