第18話 帰還

 そうこうしているうちに地獄の地の果ての門が開く日が迫って来た。トンタは仲間とテンと竜を連れて閻魔大王の住んでいる地獄の宮殿に、お別れの挨拶に行った。


 地獄の宮殿の入り口に着くと、竜が宮殿を揺るがすような声で吠えた。

 「ガゥオーッ、ガゥオーッ」

 その凄まじい声を聞いた閻魔大王は「ニコリ」と微笑むと呟いた。

 「トンタたちが別かれの挨拶に来てくれたな」

 閻魔大王が自ら、跳びはねるように速足で入り口まで出て来て、トンタたちを出迎えると、宮殿の広間に案内してくれた。

 宮殿の広間は正面の壁がまばゆい位に金色に光輝いており、何だろうとよく見ると地獄火の炎の彫刻に金箔が張られていた。その壁の前は床が一段高くなっており、朱色で縁が黒に塗られた大きな閻魔大王の椅子が置かれてあった。

 目を移すと広間の脇の窓辺に大きな水槽が置かれてあった。もしや?と思い側に行き水槽の中を覗くと思った通り、メダカになった極悪人の親分たちが入っていた。親分たちは稚魚からだいぶ大きく成長していた。相変わらず親分は威張り腐り先頭に立ち、子分のメダカ五十匹を引き連れて泳いでいた。親分の髭は更に立派になり威厳があったがトンタの顔を見ると、恥ずかしいのか子分のメダカの集団の中に隠れトンタを見ていた。

 閻魔大王は壇上の椅子に座り、トンタたちは閻魔大王の前に一列に並ぶと閻魔大王はにこやかに話し始めた。

 「トンタ、ゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコ、竜そしてテン、お前たちの活躍のお陰で極悪人の親分に地獄の国を乗っ取られずに済んだ。皆、本当に有り難う!」

 大王は一人一人の顔を見ながらお礼を言うと、椅子から立ち上がり皆の側に来ると一人一人と固く握手をした。

 大王は椅子に戻って来ると、トンタの方を見て更にお礼を言った。

 「地獄の国が乗っ取られずに済んだだけでなく、トンタ! お前の弱い物に対する優しい心と行動力が皆の心を捕らえて、地獄の国も優しさと団結力が生まれ更に良い国に生まれ変わったぞ。有り難う!」

 トンタは一例するとお礼を言った。

 「閻魔大王様、お褒めを頂き有り難うございます。僕たちこそ、この地獄の国に於いていろいろな物を頂きました。それは勇気と素晴らしい多くの友達です。有り難うございました」

 大王は何度も頷きながら答えた。

 「お前は本当に立派な子供、いや立派な人だ。お前の素晴らしい所は全ての物に対して公平で優しく、弱い者のため悪と戦い、最後まで諦めない立派な心だ。いつまでもその心を忘れないでほしい」

 「分かりました。大王様」

 「大王様、地獄の地の果ての門が開く時間が近づいておりますので出発いたします」

 「おお、そうであったな。元気で地球を守るために頑張って下さい」

 閻魔大王は一人一人に感謝の記念品を渡し別れの言葉を交わすと、宮殿の入り口まで見送りに出て来てくれた。トンタたちは空飛ぶオートバイに跨ると、加速グリップを徐々に捻りゆっくりと飛び立ち上空で旋回すると、地獄の宮殿を後にした。すぐ脇で地獄火が燃えていた。その炎に照らされた閻魔大王がいつまでも手を振っていた。


 竜とテンが地獄の地の果ての門まで見送ると言ってついて来た。

 地獄山の中腹のテンの家の上空を飛んだ、家の前でペンとレイが泣きながら手を振っていた。山頂付近に差し掛かると、舌抜所が見えた。所長始め舌抜所の皆さんが正門の前の道路に並び手を振っていた。山頂を超え山を下り麓近くに来ると新生命誕生工場が見えた。工場長始め工場の皆さんが中庭に集まり手を振っていた。黒雲が取れ太陽が燦々と降り注ぐ更生村の上空を飛んだ。溜池には不思議な蛇口から水が噴き出し水が満々としていた。用水路が整備され、整備耕作された水田には用水路から水が流れ込み、稲の苗が植えられ青々としていた。田畑に出て仕事をしていた村長および村人たちは、上空を見上げちぎれんばかりに手を振っていた。空飛ぶオートバイのグリップを一気に捻り、フルスロットルにしスピードをあげた。血の池を通過し、強制労働村を通過すると針の山が見えて来た。皆、黙って飛び続けた。針の山を通過すると地の果ての広大な砂漠地帯に出た。行けども行けども砂、砂、砂であった。その砂は風によって丘となり、山となり、波となり形を変えて不思議な世界を作っていた。前方に地の果ての門が見えて来た。門は開けられていた。

 トンタは大声で叫んだ。

 「地獄の国よサヨウナラ!」

 「テン! 竜! サヨウナラ、いつまでも元気で」

 仲間も叫んだ。

 「サヨウナラ!」

 テンは泣きながら叫んだ。

 「皆! サヨウナラ」

 竜は口から火を吐くと叫んだ。

 「グゥオーッ!」

 トンタは通行証を地の果ての門番に渡し、仲間たちと一緒に一気に門を通過した。


 地の果ての門の外には地球救出号が帰りを待ち望み、入り口を開き待っていた。

 地球救出号に乗り込むと爺ちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれた。その脇にヘルパー艦長を始め乗組員が一列に並び敬礼していた。


 「爺ちゃん! 艦長殿! ただいま無事に帰還しました」

 トンタ及び仲間たち空飛ぶオートバイから降りると、一列にならび敬礼をした。

 爺ちゃんは逞しくなった俊太の身体を両手で確りと抱いた。そしてトンタの顔を見上げながら大粒の涙を流し、くしゃくしゃになった顔で声を詰まらせながら言った。

 「おお! 俊太! 逞しくなって帰って来たのー」

 「爺ちゃん、地獄は最初は怖いと思ったけれど、爺ちゃんが言ってたように皆、優しく僕たちを助けてくれたよ」

 爺ちゃんは「ニッコリ」と笑いながら静かに行った。

 「俊太! それはな、お前の相手に対する優しさと真剣さが伝わったのじゃ。良かったのー。これからも、その気持ちを忘れてはならないぞ」

 トンタは爺ちゃんの顔を見て笑顔で大きく頷いた。

 そこに、ヘルパー艦長が笑顔で両手を広げトンタの前に来るとトンタの身体を確りと抱き、背中を手のひらで叩きながら言った。

 「無事にご帰還おめでとう。これからお互いに協力しあって地球救出のために頑張りましょう」

 艦長が抱いた手を離すと、トンタは艦長の手を取り、握手をしながら答えた。

 「有り難うございます。地球救出のためご協力お願いします」

 艦長はトンタを見つめ微笑んで言った。

 「さあ、天国の国王様の所に行きましょう。首を長くしてお待ちしていますよ」

 地球救出号は宮殿に飛んだ、宮殿に着くと直ぐに国王の部屋に入った。

 国王はトンタと仲間たちの顔を見ると微笑みながら椅子から立ち上がった。

 トンタと仲間たちは国王の前に歩みよると元気な声で帰還の挨拶をした。

 「国王様! 地獄の国での実践訓練が終わり、無事に帰還しました」

 国王は満面の笑顔で答えた。

 「皆、ご苦労であった。お前たちの地獄の国での活躍は閻魔大王より報告があったぞ」

 国王はトンタの側に行き、手を取ると確りと握った。

 「閻魔大王がお前とお前の仲間たちを絶賛しておったぞ、お前達なら必ず地球を救出することが出来るとな。私もお前達を選び鼻が高かったぞ」

 「トンタ、お前は最高の地球救出マン。いや、今からはトンターマンじゃ。地球での活躍を期待しておるぞ」

 国王はトンタと仲間たちの活躍に感激し涙ぐんでいた。

 「国王様、有り難うございました。国王様の期待に沿うよう、これからは地球のために頑張ります」

 「頼むぞ、トンタ!」

 国王はトンタの言葉に微笑みながら言うと、少し間を開けて続けて話した。

 「トンターマン装備は地球救出号に置いておく、必要な時は右腕を伸ばし、人指し指を空に向かって指し、腕を回し人差し指で空に円を描くのじゃ。それが合図じゃ。地球救出号は何時でも、何処にでも現れるぞ、お前と地球救出号は一体じゃ」

 「国王様、分かりました!」

 トンタと仲間たちは国王様、爺ちゃんに見送られ地球救出号に乗り地球に戻った。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 「俊太! ご飯だよ、早く起きなさい」

 母の大きな声でトンタは目を覚ました。

 トンタは何気なく顔に手をやると頬にガーゼが貼ってあった。左手の肘、左足の膝を見ると、やはりガーゼが貼ってあった。

 「あれっ! おかしいな?」

 急いでバルコニーに出て見ると、爺ちゃんの乗っていた円盤の形跡も無かった。

 「なんだ! 夢だったのだ?」

 トンタはそう呟くと、円盤が着陸したと思われるバルコニーの隅を眺めていた。

 少しすると、自分の部屋に戻り、気が抜けた状態で学校に行く支度をすると一階におり、食卓に向かい朝食を取っていた。

 その時、目の前のテレビジョンから大ニュースですとのニュースキャスターの興奮した声が聞こえた。トンタはテレビジョンに目をやると、目を見張る映像が流れて来た。

 それは、幸福通り商店街のアーケードが映し出され、そのアーケード上空に地球救出号が写し出されていた。そしてレポーターが興奮して言った。

 「今朝、四時頃に幸福通り上空に円盤が現れました」

 それを見たトンタは「ニコリ」と笑った。


 トンタは学校に行くため鞄を肩に掛け家を出た。五十メートル先の電柱の陰に、先日苛められた二年生の五人組のヤンキーが、また、苛めようと待ち構えていた。

 トンタは人差し指を空に向かって指し、人差し指で空に円を描き、蛇と呟き、ヤンキーのいる電柱を指で指した。

 すると、ヤンキー五人組の頭に蛇が大量に落ちて来た。ヤンキー五人組は悲鳴を上げ逃げて行った。

                    完

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のろまのトンタ ①トンターマン誕生への試練 @nukatosi

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