第16話 逆転の逆転
親分は怪鳥の額に付けたカメラにより、ようやくトンタを見つける事が出来た。それも今、自分の頭上にトンタがいることが信じられなかった。親分はニヤリと不気味に笑いながら呟いた。
「飛んで火に入る夏の虫 とはこの事だ」
親分は工場内に据え付けてあるスピーカー用のマイクを手に取った。マイクを持つ手に力が入り震えていた。これで地獄が乗っ取れる、そう思うと興奮し、震える声でマイクに向かって喋り始めた。
「ト、トンタ! 新生命誕生工場の上空に居るのは分かっている。おとなしく中庭に降りて来い。人質が殺されても良いのか?」
トンタと仲間たちは新生命誕生工場の上空より工場への侵入を模索し旋回していると、突然、工場のスピーカーより親分の声が流れて来た。
「えっ! 人質?」
トンタは人質と聞いて驚いた。
「誰が人質にされているのだろう?」
透視サングラスで工場の中を見ていたランが叫んだ。
「あっ!大変だ! 閻魔大王様、所長さん、工場長さん、村長さんたちが檻の中に捕らわれているよ」
「その隣の檻の中には戦闘服を着た鬼たちが大勢捕らわれているよ」
チョロが言った。
皆、唖然として言葉が出なかった。
その時
「いつ迄もたもたしているのだ! 俺の性格を忘れたのか」
親分の声にトンタの頭の中に緊張感が走った。もたもたしていると人質の命が危ない。トンタはそう思うと直ぐに皆に指示した。
「竜、テン、チョロ、ピイコ、お前たちは奴らに知られていないので、指示のあるまで見つからないように、近くに隠れて居なさい。 さー早く」
竜、テン、チョロ、ピイコは親分たちに見つからないよう、素早く、工場の脇の岩山に隠れた。
トンタ、ゴン、ラン、ジョイはオートバイの加速グリップを徐々に戻し、速度を落とし中庭に降りて行った。
中庭には親分と自動小銃を持った子分たちが一列に並び待っていた。子分は強制労働村から大勢の極悪人たちが加わり何倍にも増えていた。
親分はトンタの側に来るとニヤリと笑った。
「トンタ、暫く振りだな、暫く見なかったらとんでもなく成長したな」
親分はトンタがトンターマンに変身したのは気づいていなかった?
「武器を取り上げて、檻に入れて置け」
親分の指示により、子分たちはトンタと仲間たちより武器を取り上げると、人質として閻魔大王様たちが入っている檻に入れられた。
檻の側で親分が勝ち誇った顔で笑いながら言った。
「トンタ!前回はお前に逃げられたがなあ、今回はそういう訳にはいかないぜ」
檻の鉄格子を右手で掴むと、顔をゆっくりと鉄格子に近付けトンタを見つめ、悲しそうな顔をして、悲しそうな声でわざとらしく言った。
「トンタ!非常に残念だけれども今度は本当にお前とはお別れだ、俺は寂しいよ」
親分は悲しそうな顔から一変し、ニヤリと笑った。
「なあトンタ!お前を捕まえたので、明日から気兼ね無く天国の乗っ取り作戦を開始することが出来るようになったよ。 そこで明日はその開始祝いに、お前たち全員を処刑し、盛大に気勢を上げる事に今決めたのさ・・・」
「可哀そうだが、今夜は最後の晩となるので、ゆっくりと寝てくれ。 ワッハッハ」
トンタは親分の話を聞いても、顔色ひとつ変えず平静に振る舞い、心の中で、お前が最後の晩だと呟いた。
親分は大きな声で笑いながら子分たちを引き連れて檻の前から去って行った。
親分がいなくなるとトンタの所に所長、工場長、村長が飛んで来て、再開を喜び、人質にされてしまった事を深く謝り、その後に涙ながらに助けを求めた。
「これから先、地獄はどうなるのでしょうか? 先程、最後の夜とか、全員処刑する等、言っているのが聞こえましたが、奴らに撃たれて死ぬような無駄死にはしたくありません。奴らと刺し違えて死にたいです。何か良い方法を指示して下さい」
「簡単に死を焦ってはいけません。この檻の中にいては何も出来ません。まだ時間は有りますどうすれば良いか考え、機会を狙いましょう」
トンタは興奮している地獄の指導者たちを宥めるように諭した。
隣の檻に捕られられた戦闘隊員は明日全員処刑されると聞き、十分戦えず最後の夜を迎える悔しい思いで、夜遅くまで興奮し、大声を出す者、暴れる者、泣き崩れる者等、皆、寝付かれずにいたが午前零時を過ぎると疲れを相まって徐々に睡魔に襲われ鼾をかき眠りの世界に入っていった。
皆が寝静まった明け方近くにトンタはピイコ、チョロ、竜、テンたちとレーダーメットの通信機を使って指示を出していた。
「ドスン、ドスン」
トンタは、大きな地響きに目が覚めた。檻の前の広い中庭に目をやると、子分たちが恐竜を誘導し、檻の方向に向け座らせていた。恐竜は体長三メートル程の肉食恐竜デイノニクス、体長十三メートル程の肉食恐竜ティラノサウルス、体長三十五メートル程の草食恐竜セイスモサウルス及び怪鳥等も座っていた。空を見るとおおくの怪鳥が火を吐いて飛んでおり照明を照らしているように明るかった。恐竜が整列すると、三十人程の子分たちが恐竜の前に座った。
檻の前には恐竜をコントロールする端末機が二台置かれ、子分二名が操作していた。
暫くすると子分の五名がトランペットを持って立ち上がった。
「パンパカパーン、パッパッパ、パンパカパーン」
ファンファーレが高らかになり、親分がタキシードを着て檻の前に両手を高々と上げ登場すると、子分たちは拳を上げ、工場中響き渡る大声で歓声を上げた。恐竜たちはその歓声に合わせて、それ以上の声で泣き叫び、空に向かって火を吐いた。
親分は気分が最高潮になり、満面の笑顔で演説をし始めた。
「皆、ご苦労であった。俺の計画の一つである地獄を乗っ取ることが出来た。そこで、今日からは次の計画である天国乗っ取り作戦を開始する。今日はこのように大変めでたい日である。そこで、これからこの後ろの檻の中の人質たちを処刑により、今後の計画に邪魔になる奴らを始末し、けじめと気勢を上げると共に、次の計画を抜かりなく成功させるため、一致団結を図る団結式を行う」
親分の演説が終わると、自動小銃を持った保安担当の子分四名がトンタたちの入った檻と、その隣の戦闘隊員の入った檻の鉄格子の前にそれぞれに別れて立った。
「それでは団結式を行う。 檻の中の人質を一列に並べろ」
親分は前回の失敗を繰り返さないよう、トンタたちを檻の中で整列するよう指示した。
自動小銃を持った保安担当の子分四人は檻の天井目掛け自動小銃を乱射し人質を脅かすと大声で命令した。
「おい、もたもたせずに早く鉄格子に沿って一列に並べ」
檻の外から見て左側から、閻魔大王、トンタ、所長、工場長、村長、ゴン、ラン、ジョイの順に一列に並んだ。戦闘隊員たちは人数が多かったため背の順に数列に並んだ。
閻魔大王、トンタは顔色も変えず不動の姿勢で立っており、所長、工場長、村長はうなだれて涙を流していた。ゴンとランは落ち着かず、トンタのことを心配しトンタの方を見ていた。ジョイは震えて立っていられず、しゃがみ込んでいた。
「処刑の執行準備せよ!」
親分はどすの効いた声で叫んだ。
檻から五メートルほど前に自動小銃を持った子分四人が立ち、銃口を檻の中の人質にゆっくりと向け、構えた。
「十秒後に、俺が処刑執行との合図を出したら処刑を執行する。分かったな」
親分は人質たちを焦らして、楽しんでいた。
恐竜の前に座っている子分三十人程が一斉にカウントを数え始めた。
「十、九、八、七、六、五、四、三、二」
二までカウントが来た、その時
「ピィーーー」
口笛のような音が聞こえた。
「一、 ゼロ」
カウントダウンが終わった直後。
「キィーーン」
「シューッ、シューッ、シューッ、シューッ、シューッ、シューッ」
甲高い金属音と共に、蒸気の様な白っぽい煙りが真横に目に留まらない速さで走ったのと同時に、白い光が六つ発射され、白い煙がうっすらと淀んでいた。
「処刑執行」
親分が大声で叫んだ。
辺りは静まり返り、皆、固唾を飲んで見守っていた。
自動小銃の音は聞こえなかった。
その時、自動小銃を持った四人の子分たちは、よろけて自動小銃を手から離し倒れた。皆、何が起こったのか分からず、ただ呆然としていた。
「な、何じゃ? これは、どうしたのじゃ?」
親分は大声で叫び、右往左往していた。
恐竜の前に座っていた三十人程の子分たちが異変に気付き、立ち上がろうとした時
「グゥオーッ」
内臓に響く叫び声と共に、口から火を吐きながら竜が降りて来た。竜の背中にはテンとチョロがまたがりテンは右手にレイザー銃を持っていた。
竜は子分たちの前に降り、テンとチョロを降ろすと、尻尾の先の方から胴体を丸め、立ち上がろうとしていた子分たちを抱え込んでしまった。
その様子を見ていた親分は目を丸くして、顔を紅潮させ叫んだ。
「恐竜操縦担当! は、早く、恐竜を操縦し、戦うのだ!」
親分が、操縦担当のほうを振り返ると担当二名はコンピューターの端末機に覆い被さるようにして倒れていた。親分は端末機に駆け寄り操縦担当を退けようとした。
「キィーン」
再度甲高い金属音がした。
「親分、無駄な抵抗はやめなさい」
ピイコは親分の顔の脇に飛んで来ると、ホバリング状態でレイザー銃を頬に当てた。
親分は観念し座り込んでしまった。
チョロは倒れている子分の保安担当のポケットから檻の鍵をくわえ出すとテンに渡し、テンは直ぐに檻を開けた。
檻からゴン、ラン、が興奮して飛び出てくるとテンを入れて踊り出した。トンタは閻魔大王を支え、にこやかに話をしながら出て来た。
所長、工場長、村長はトンタの所に駆け寄り手を握り、お礼と質問を投げかけて来た。
「有り難う御座いました。もう、これで最後かと思いましたよ」
「未だに、何があって助かったのか解りません」
「一体何があったのですか?」
トンタは笑いながら質問に答えた。
「申し訳有りませんでした。閻魔大王様には今朝早くに、お話をしておきましたが、情報漏れるのを防ぐため話せませんでした」
と前置きし、救出劇について説明した。
「良く分かりました。しかし、まだ一つ分らない事があります。何故、我々が敵対し苛め抜いてきた竜が我々を助けてくれたのですか?」
「竜も優しい心を持っています。助けてあげれば必ず困った時にたすけてくれます。実は、この竜は大怪我をして困っている時に、所長さんのお子さんテンが助けて上げたのですよ。その時の恩返しです。これからは仲良くして下さい」
その時、ゴンが慌てて駆けて来た。
「ご主人、大変です。ピイコが怪我をして倒れています」
トンタはピイコに駆け寄ると、手のひらで抱き抱えて怪我の様子を見て見ると、翼の付け根部からちを流し、グッタリとしていた。
「ビイコ! 確りしろ、大丈夫か?」
トンタは叫んだ。ピイコ目をゆっくりと開けると話した。
「すいません、親分をせっかく捕まえたのに、逃げられてしまいました」
「いや、お前は良くやってくれたよ。お陰で皆が助かったよ。この傷はどうしだ?」
トンタが優しく言うと、ピイコはほっとした顔になり、報告した。
「親分を捕まえ得ることができ、ほっとして、私が隙を見せたばかりに親分が隠し持っていたナイフで私を刺し逃げて行ったのです」
「そうだったのか! でも、傷がたいした事が無くて良かったなあ」
トンタは傷の手当をしながら更に聞いた。
「それで、親分が逃げて行った方向は覚えているかな?」
「子分の恐竜操縦担当二人と一緒に向こうに駆けて行きました」
と親分の逃げて行った方角に顔を向けた。
顔を向けた方向を見ると、親分はトンタの空飛ぶオートバイに乗り空中に飛び上がり、子分二人は怪鳥にそれぞれ乗り、飛び立とうとしていた。
トンタは直ぐにゴンとランに指示を出した。
「ゴン、ラン、竜の捕らえた子分たちを直ぐに檻に入れなさい」
ゴンとランは手に持ったレイザー銃を子分たちに向け、竜は胴で締め付けている子分 を、順に締め付けから解放するとゴンとランの連携誘導で檻に入れ終わるとテンが飛んで来て檻のドアを閉め、鍵をかけた。
竜は子分たちが檻に入れられたのを確認すると、急いでテンを背に乗せトンタの所にやって来た。
「トンタさん、逃げた親分たちを追い駆けましょう」
「よし! 竜! 直ぐに追いかけよう」
トンタはゴンに後を任せると、竜の背中に飛び乗り、空中高く舞い上がり親分たちを目視で探した。親分たちの姿は何処にも見えなかったので、レーダーメットのレーダーで親分たちの位置を確かめると、親分たちは西の方角に飛んでいることが分かった。
「竜! 親分たちは地獄の地の果てに向かっているぞ。地の果ての門から脱出すると思われる? 急ぐのだ!」
「分かりました、超スピードで飛びますので、たてがみに確りと掴まってください」
竜は「グゥオーッ」と一声叫ぶと一気に加速した。直ぐに、前方に親分たちが微かに見えたと思っている間もなく、目の前に近づいて来た。
親分が空飛ぶオートバイに乗り先頭に、その後方に子分が怪鳥に乗り並んで飛んでいた。時折、子分が後ろを振り返っていた。
「親分! トンタが追いかけてきますぜ」
「俺は先に行くぞ! お前らはトンタを攻撃しろ」
親分は自分だけ逃げる事を考え、後は子分に任せた。
突然、怪鳥は左右に分散し大きく旋回するとこちらに向かって来た。
以前の怪鳥と違っていた。頭部と嘴が小さくなり、動きが機敏になっていた。近づいて来ると嘴を開き、火を吐いた。嘴が小さくなったためか火は細く遠くに届くようになり、全ての戦闘能力が格段に向上していた。
「竜! 近くに寄るな、以前の怪鳥より強くなっているぞ」
「分かりました! 気を付けます」
怪鳥二頭は左右から竜に近づくと、竜が攻撃できない四百メートル程の距離になった時に火を吐いた。竜は怪鳥が先制攻撃で吐いた火を急降下により辛うじて逃げたが、怪鳥は機敏な動きで急降下しながら旋回すると、竜の後を追いかけて来た。
竜は後ろに回った怪鳥を一瞬見失い速度が落ちた。怪鳥は後方より急接近して来た。
トンタが叫んだ。
「右に逃げろ」
竜は驚き、瞬時に右に身体を交わすと同時に怪鳥が後方より火を吐いた。またしても、何とか火から逃げる事が出来た。
「竜! 逃げろ、逃げて急上昇するんだ」
トンタはこれ以上、後方より追いつかれたら危険な状態になると思い指示した。
竜は一気に加速すると、その勢いでほぼ垂直に急上昇した。
怪鳥は竜を追って、同じ様にほぼ垂直に急上昇したが、大きな翼による抵抗により失速し、急上昇を諦め水平飛行となった。竜は急上昇から円を描き三百六十度の後方旋回をすると怪鳥の後ろに着いた。
「いいぞ! 竜、今度は我々が攻撃だ」
テンが笑顔になり大声で叫んだ。
竜は後方より怪鳥に近づくと左右に大きく首を振りながら怪鳥二頭に火を吐いた。
「ギャーオ、ギャーオ」
「ウワーーー」
怪鳥と子分が火だるまになって回転しながら落下していった。
「竜! 良くやったぞ! 次は親分だ、親分を追ってくれ」
竜はトンタの指示に従い、休む暇も無く親分を追い駆けた。暫く追いかけると親分の後ろ姿が見えて来た。親分は我々に気付くと、後ろを振り返りながら「バカヤロー」と叫びスピードを上げたが、竜のスピードが速く親分に近付くと、竜はトンタに尋ねた。
「親分をどの様にすれば良いですか?」
「空飛ぶオートバイを無傷の状態で、親分を生かして捕まえたいのだよ」
「えっ! そんな事出来るのですか?」
テンが首を傾げて言うと、竜も頷いて答えた。
「私も、テンと同じで、そのような難しいことは考えも付きませんよ」
「そんなに簡単に出来ないと諦めないでくれよ。天国の国王様に作って頂いた空飛ぶオートバイを壊す分けにいかないよ」
トンタは笑いながら言うと、竜に指示した。
「竜! 親分の五十メートル程、下方の右側を親分の走行方向と平行に飛んでくれ」
竜はトンタの指示通り下方の右側を飛んだ。親分は下を覗き見て、トンタに叫んだ。
「バカヤロー! 竜を手下にしやがって、絶対に捕まらないからな」
トンタは親分が叫んでいるのをよそに竜とテンに指示を出した。
「テン、レイザー銃の威力を失神レベルにして親分を撃ってくれ。竜は僕がハイと言った後に、落ちて来た親分を口でくわえて捕まえてくれ」
親分は捕まってなるものかと、慣れていない空飛ぶオートバイの速度を上げ急旋回して逃げ回ったが、竜は指示のあった位置を保持していた。
テンはトンタの指示に従ってレイザー銃のレベルをセットすると銃口を親分の腹に合わせると引き金を引いた。「シュッ」白い光線が走った。
「ウワーッ」
親分は叫ぶと同時に、空飛ぶオートバイのハンドルのアクセルグリップから手が離れた。アクセルグリップは戻りバネにより戻ると推進力が無くなり、空飛ぶオートバイは落下し始めた。親分は失神し身体は空飛ぶオートバイから離れると上空の風に飛ばされ落下していった。
「ハイ」
トンタは叫ぶと同時に竜の背中から空中に飛び込んで行った。上方より重量の重い空飛ぶオートバイがトンタの落下スピードより速いスピードで落下して来た。
トンタは身体を交わすと目の前に空飛ぶオートバイが落ちて来たので右手で右側のハンドルのアクセルグリップを掴んだ。その瞬間落下スピードの速い空飛ぶオートバイに引っ張られて、右の腕が抜けるかと思われる程の衝撃が加わった。
手が真下に持って行かれ逆立ちの状態になり早いスピードで落下して行った。歯を食いしばり右手で加速グリップを確りと握りしめて耐えていた。
「大丈夫だ! 絶対に大丈夫だ!」
地上が徐々に迫って来た。トンタは右手に力を入れ徐々に身体を加速グリップに引き寄せると、左手を左側のグリップに持って行き確りと掴んだ。
地上は目の前に迫っていた。トンタは左手に力を入れ身体を引き寄せると、加速グリップを握っている右手を徐々に回して行った。空飛ぶオートバイは加速し地上すれすれで水平飛行となり、トンタの身体は重力で座席シートに落ち着いた。
「やったぞー、遂にやったぞー」
トンタは思い切り大きな声で叫ぶと加速グリップを一気に回しフルスロットルにするとハンドルを手前に引き寄せた。空飛ぶオートバイは急上昇して行った。
親分は失神した状態で、上空の風に流されて身体を回転しながら落下して行った。竜は素早く急下降しながら親分の落下する下側に回り、上を向き大きな口を開いた。親分は大きく開いた口の中にストンと落ちた。竜は親分をくわえるとゆっくりと上昇していった。
トンタと竜は上空二千メートルで合流し、お互いに目を合わせ「ニッコリ」と笑った。
「さあ、新生命誕生工場にもどるぞ」
トンタと竜は並んで飛行し、テンは竜の背中でトンタにVサインを送り親分の逮捕を喜び合っていた。新生命誕生工場に戻って来ると中庭に降り、竜は親分を地面に降ろしたが親分はまだ失神していた。
閻魔大王、所長、工場長、村長は竜の所に駆け寄ると、涙を流し助けて貰ったお礼を言った。そして、今まで竜に対して敵対して来た事を深く謝ると、竜も喜び、これからはお互いに仲良くしていくことを誓った。
突然、親分の叫び声が聞こえた。
「なんじゃー! ここは何処だー?」
親分は地面に寝転んだ状態で目を開き、空を見つめ叫んでいた。ゴンとランは目を覚ました親分を両側から腕を取り、立ち上がらすと子分たちを入れた檻の隣の檻に入れた。
親分は子分たちの入れられた檻と境の鉄格子を掴み揺すりながら泣き叫んでいた。
「てめい達は、ろくでもない野郎ばかりだ。トンタの野郎の仲間に鳥、竜、鬼の子がいたのを知らなかったのか? そのために最後の最後でどんでん返しされちまいやがって情けねいったらありゃしないよ、これから俺はどうすれば良いのだ・・・」
閻魔大王は親分をこれからどのようにしたら良いのかトンタ、所長、工場長、村長を入れて打ち合わせを行った。その結果、このまま地獄にて人間として更生させようとても、自分勝手な悪いことを考え更生せず、いつかまた地獄を乗っ取ろうとするであろうと言う事になり、新生命体に変え、閻魔大王が管理する事になり、全員立ち合いの上で二日後の正午に新生命誕生機にかける事に決まった。
そして、その時が来た。新生命誕生機の檻の前に椅子が並べられてあった。
正午十分前に閻魔大王が中央の椅子に座り、その脇にトンタ、所長、工場長、村長、仲間たちが座った。
親分が警備員に連れられて来ると、親分は警備員を振り払い閻魔大王の前に駆け寄り、ひざまずいたが警備員に捕り押さえられ、新生命誕生機の檻に入れられた。すると親分は檻の鉄格子に顔を付け大声で泣き叫んだ。
「お願いだ! 俺はもう悪いことはしないから、このまま人間の格好で更生させてくれ。他の生物になりたくないよー!」
この行動を見ていた閻魔大王は呆れ返った顔で言い放った。
「極悪人の親分として、今まで散々人間の命を殺めておきながら、自分の命となると見苦しい命乞いを見せる屑人間、顔も見たくない。早く執行せよ」
閻魔大王の執行指示により、工場長が操作室のキーボードの右側の緑色のボタンを押しディスプレイに映し出された現生の生物の中から選択し、現物実行ボタンを押した。
檻の中の親分が消えて一ミリメートル程の卵に生まれ変わっていた。
屑親分一人では可哀そうと閻魔大王の特別恩情により、子分たち五十人も同じように卵に生まれ変わらせ、親分と一緒に水槽に入れた。次の日にはたまごが孵化し可愛いメダカの稚魚になっていた。よく見ると直ぐに親分は分かった。口に髭を生やし、サングラスをかけ、先頭で口をパクパクし、子分を引き連れ、えばりくさって水槽の中を泳いでいた。
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