第14話 恐竜との戦い
どれ程の時間が過ぎたのだろうか?
トンタは身体に痛さを感じ、目を開くと草の上に腹ばいに倒れていた。
チョロとピイコはトンタの懐から出て来て、顔色をうかがい心配そうに見ていた。
「ご主人、大丈夫ですか?」
「おお!チョロとピイコか、大丈夫だよ、濁流から生還したのだな?」
「ええ、生還しましたよ」
トンタは「ニコリ」と笑うと、上半身を起こし座り込み、あたりを見回した。
ジョイは隣で倒れており、ゴンとランは近くの木の枝に引っ掛かっていた。
身体を動かすと筋肉が疼き、頭は
暫くすると一人、一人と起き上がりトンタの座っている周りに集まって来た。
「ご主人、僕たちは何処にいるのかなあ?」
ゴンは濁流の中、無我夢中で筏にしがみつき、意識が無くなり、何故ここに居るのか、ここは何処なのかも分からず、不思議な気持ちになっていた。
仲間たちも、どうなっているのか分からず顔を見合わせていた。
「よし、それじゃあ、ここが何処なのか調査しよう」
トンタは立ち上がり、南の方向に歩き出すとその後を追い、ゴンが付いて来た。
暫く雑草を踏み分け歩いて行くと断崖絶壁の岩場に突き当った。 恐る恐る崖を覗くと赤い色をした水を
「もう悪いことはしません!」
「ここから出してください!」
「ご主人、どうして多くの人が水の中で苦しんでいるのかなあ?」
ゴンは不思議に思いトンタに聞くと、トンタは考えながらゆっくりと答えた。
「現生で悪事を働き地獄に送られ、地獄でまた悪事を働くと血の池か針の山に入れられ苦しみを与え反省させるそうだよ。 そう考えると、ここは血の池なのかな?」
前方を見ると、近くに断崖絶壁の対岸が島を囲むように続いていた。少し目をそらすと断崖絶壁から水が流れ落ち滝となっており、滝つぼには恐竜が泳いでいた。
「ご主人、もしかしてあの滝は血の川ですよね?」
ゴンが尋ねた。
「多分そうだよ? 我々はあの血の川が濁流となりこの島まで飛ばされたのだよ。今は溜池の水も流れ切り、不思議な蛇口より噴き出した水が滝になっているのだよ」
「だから、滝の水の色が透明なのですね」
「その通りだよ! だとすると、ここは第一目的地の血の池の中にある島だよ」
トンタが推測すると、ゴンは喜び答えた。
「ご主人、そうですよ、絶対にそうですよ」
トンタとゴンは喜び勇んで皆の所に戻って来ると、ゴンは得意満面の顔で言った。
「皆、ここはね、第一目的地の血の池の中にある島だよ」
「本当? 本当なのね?」
ランは半分疑いの目でゴンを見つめていた。
「本当だ! この島のどこかにトンターマン装備が必ず置いてある、皆で捜そう」
トンタの掛け声で、全員で島の中を探し回った。 北の方角に歩いて行くと、草藪の中に島で一番大きな木があった。 幹の太さは大人四人で抱えきれない程で根元部に大人が入れる程の
「この
感の鋭いランがわざとらしく鼻を「クン、クン」と動かしていた。
その洞穴にゴンが怖がるジョイの背中を押しながら一緒に入って行った。
「あ、あったー! ここに置いてあるよ」
怖がっていたジヨイが急に得意な顔になり叫んだ。
その声に、皆が洞穴に押し合って入って来ると、置いてあったトンターマン装備品の中から自分の身体にあった物を選び、洞穴から出てきた。
トンタはトンターマンスーツを着始めた。
トンターマン変身スーツはダークブルー色に黒色の網目模様に胸に白色の星のマークの入ったボデイスーツであった。 足を入れると「ぞく」として「あっ」と叫ぶと同時に足が伸びた感じがした。 次に胴体と手を入れると「ぞく、ぞく」として「あっ、あっ」と声がでてしまい、身体の縦、横がが大きくなった感じがすると一瞬にして身長二メートルの体格の良い身体に変身していた。 空飛ぶバンドを腰に付け、マントを付け、最後に透視サングラスを付けるとトンターマンになっていた。
それを見ていた仲間たちは目を大きく開き驚いていた。
「うわーっ! 凄い! トンターマンだー!」
仲間たちはダークブルー色のパンツをはき、空飛ぶバンドを腰に付け、マントを付け、最後に透視サングラスを付けると胸を張り堂々としていた。
「いゃーあ、皆、凄く格好よくなったよ」
トンタに格好良いと言われると、更に胸を張りトンタの周りを回り始めるたが、二周程すると、ゴンは仲間から離れると装備の性能を確認し始めた。
島に生えている木の側に行き両手で木を掴み持ち上げると「バリバリバリ」と音をたてて根こそぎ取れ、その木を頭上に持ち上げ放り投げると遠くに飛んで行った。 驚く程の怪力に成っていた。 次に軽くジャンプすると空飛ぶバンドから「クー」と音がして身体が「フワーッ」と高く浮き上がり島から五百メートル程離れた断崖絶壁の対岸にいとも簡単に移動できた。 駆けると一歩が二百メートル程の間隔となり空を飛ぶように早く走れた。 それを見ていたトンタ及び仲間たちもそれぞれに装備の性能の確認をしていた。
「さあ皆、装備がこれだけの性能があれば全長五メートル程の恐竜など怖くはないぞ、襲ってくる恐竜を倒しながら第二の目的地の針の山に向けて出発だー」
針の山に向かい出発し始めた時、偵察に行っていたピイコが帰って来て報告した。
「前方から、強制労働村を襲った恐竜が攻めて来ます。 後方からは、第一更生村を襲った恐竜が攻めて来ます。 恐竜が前後から我々を挟み討ちです」
トンタはピイコにトンターマン装備を渡し、付けさせると再度皆に号令を掛けた。
「前後から恐竜が襲ってくるぞ! 油断するな! 恐竜を突破し針の山に行くぞ!」
走りだすと、前後から地響きと叫び声が近づいて来た。
「ドドドドドー」
「ガオーッ、ガオーッ」
トンタはすかさず指示を出した。
「前後から挟み撃ちにされるので、二組に分けよう、僕とジョイとチョロは前方と対戦し、ゴンとランとピイコは後方と対戦する事にしよう」
皆、それぞれの方向に駆けだした。
駆けだすと、直ぐに恐竜と遭遇し戦いが始まった。
前方より突進してきた恐竜は凶暴な肉食恐竜ティラノサウルスであった。 体長は五メートル程で、トンタを見ると大きな口を開き、牙を剝き出し向かってきた。
トンタは駆けるのを止め、停止すると手を広げ「さあ来い」と叫び待ち受けていた。恐竜は食い殺してやると、更に大きな口を開き、牙を剝き出し「ガオーッ」と叫びながら突進してきた。 二メートル程に来た時、トンタは「フワーッ」と飛び上がり恐竜の上部通過し後ろに降りると恐竜の尻尾の先端を「グイ」と掴むと自分の身体を回転させた。 恐竜の身体は浮き上がりトンタと合わせて回転した。 二、三度回転した所で手を離した。 恐竜は「ギャーオー」と叫び声を上げて空中高く舞い上がり放物線を描き地面に落下し「ウギャー」と断末魔の叫びを上げ動かなくなった。
休む暇も無く恐竜がトンタに突進して来ると、「ヒラリ」と身体を左に交わすと、恐竜の脇腹に右ボディブローを打ち込んだ。 「ボコッ」と鈍い音がしたのと同時に恐竜は「ウギャー」と叫び前のめりに倒れた。 倒れた恐竜を持ち上げると、突進して来る恐竜に向けて投げつけた。「ドーン」と音がしたのと同時に「ウギャー」「ギャーオ」と叫び声を上げ二頭とも動かなくなった。
トンタの脇ではチョロも戦っていた。恐竜はチョロのことを馬鹿にし、チョロの手前に来ると止まり「ギャーオ」と叫ぶと片足を上げ、チョロの頭から踏み付けようとした。チョロは驚き飛び跳ねると恐竜は追いかけて来てまた踏み付けようとしチョロが逃げ、何度か繰り返し遊ばれていた。それに気づき次は逃げなかった。 恐竜の足がチョロを踏み付けた。チョロが見えなくなり潰されたと思った時、恐竜が空中を高く飛んだ。 恐竜は驚き悲鳴を上げ手足をばたつかせていたが、地面に落下し自分の体重で潰され「ウギャー」と叫びを上げ動かなくなった。
一方、第一更生村の方からはゴンに向かって小型肉食恐竜で最も凶暴と言われているデイノニクスが突進して来た。 ゴンは身をひるがえすと飛び跳ねて背中にまたがり首を絞め付けた。 「グエーッ」と叫び倒れると、両足を掴み放り投げた。
トンタと仲間達は、突進して来る恐竜を次々に投げ飛ばしていたが、恐竜は次から次に突進してくるので身体が疲れて来た。
上空からビイコが叫んだ。
「前方より再度、恐竜が突進して来ます」
「えっ! 恐竜がまた来たのか?」
疲れた顔をしてトンタが言った。
「ご主人、休んでいて下さい。 今回は私に任せて下さい、退治して来ます」
ゴンは胸を張り笑いながら言うと、空中高くジャンプして前方の恐竜の状況を確認し、トンタに報告した。
「四十頭程の恐竜が突進して来ます。それでは退治して来ます」
ゴンは恐竜に向かって駆けて行ったが、距離が近くなると何か様子が違っていた。
「ドドドドドー、ドドドドドー」
地鳴りが大きく、恐竜ティラノサウルスの身体がやけに大きく見えた。
更に距離が近づくと、ゴンが叫んだ。
「あっ! 恐竜がとんでもなく成長している」
恐竜が目の前にやって来た。 全長が五メートル程だった恐竜が九メートル程に成長しており、身震いする程の大きさだった。 ゴンはジャンプして後ろに回ると尻尾の先端部を掴もうとしたが太くて掴めず、尻尾を両手で抱きかかえるようにして掴み、振り回そうと踏ん張ったが重くて全く動かなかった。 焦って、もたもたしていると恐竜は後ろに振り向き、大きな口を開け襲って来た。 危うく食われるところだったが、素早くジャンプして逃げる事が出来た。
成長した恐竜に太刀打ちできないと思ったゴンは尻尾を巻いて逃げ帰って来た。
「ゴン、どうした? 慌てて帰って来て、何かあったのか?」
「ご主人、大変です! 恐竜が成長して体重が重くなり、僕の腕力では全く投げられなくなってしまいました。 逃げるだけで精一杯です。 このままでは恐竜に食い殺されてしまいます」
聞いていたジョイとチョロは怖くなり、素早くトンタの後ろに逃げ隠れた。
「ご主人、どうしましょう? もう逃げるしかないですよ」
ゴンが真剣な顔をして叫んだ。
上空からピイコが叫んだ。
「ご主人、恐竜がすぐそこに突進して来ます」
ゴンの跡を追いかけ、突進して来る恐竜は目の前に来ていた。 トンタは前に飛び出し手を広げて構え、突進して来た恐竜の頭に「ヒラリ」と飛び乗り、右足で恐竜の目を蹴った。 恐竜は目が見えなくなり方向感覚が分からなくなり転倒すると尻尾の先を掴み振り回し、突進して来る恐竜を四、五頭なぎ倒しては放り投げていた。
そのうちに、トンタの腕力でも投げられない全長十三メートル程に成長したティラノサウルスや全長二十五メートル程のセイスモサウルスが出て来た。
トンタと仲間たちはジャンプしながら大きさの小さい恐竜を選んで戦っていたが、身体が疲れてくるし、成長した大型の恐竜に徐々に囲まれてしまい、とうとう逃げる場所も無くなってしまい、仕方なく近くに生えていた五十メートル程の非常に高い大木の枝にジャンプして逃げた。
「ここならば全長三十五メートルのセイスモサウルスが来ても安心ですよね?」
ランが恐竜から離れ、安心したのか笑顔で言った。
「でも、これからどうすれば良いのかなあ? いつまでもここに居られないよ」
ゴンは不安げに言った。 トンタは何も言わず、何か考えていた。
恐竜は次々に押し寄せて来るとトンタたちのいる木を囲み始め、辺り一面が絶叫する恐竜で埋めつくされていた。 暫くすると普段はおとなしいセイスモサウルスが大木に体当たりを始めた。
「ドーン」「ドーン」
大きな衝撃音と共に木は揺れ動いた。
「あっ! 危ない、振り落とされてしまうよ」
ジョイは振り落とされないように確りと大木の枝にしがみつき叫んだ。 ゴン、ランも青い顔をして木にしがみついていた。
「確りとしがみついているんだ! 振り落とされたら食われてしまうぞ」
トンタは血の気の失せた真剣な顔をして叫んだ。
そんな事に関係なく、セイスモサウルスは大木に体当たりをし続けた。 大木は徐々に傾き始めトンタと仲間たちの身体は徐々に恐竜に近づいて行った。 恐竜たちは大きな口を開き待ち構えていた。
トンタは逃げる方法を考えていたが、恐竜に囲まれ良い方法は考えられなかった。これで本当に最後になるのかと思うと地獄に来てからの事が走馬灯のように思い出された。
その時、トンタの顔に赤みがさした。
「そうだ! 竜だ! 竜がいたのだ。 竜に助けて貰おう」
トンタは大声で叫んだが、仲間は竜の事は知らず、トンタが何を叫んでいるのか分からず首を傾げていた。
トンタは竜から貰った笛を取り出すと力いっぱい、息の続く限り吹いた。
「ピーーーーーー」
高い音色の笛の音は響きを長く残して空高く吸い込まれて行った。
暫くすると、西の空に「ポツリ」と黒雲が現れたかと思っているうちに見る見る間に黒雲は上空全体に覆いかぶさり、辺りが暗くなった。
「どうしたのだろう? 何か変だよ」
ランが不思議な顔をして言った。ゴンもジョイも不思議な顔をして空を見ていた。
「竜が来てくれるのだよ」
トンタは微笑んでいたが、仲間たちはまだ訳が分からなかった。
西の空に稲光のような強い光が現れた。 その光は非常に速い速度で黒雲をかき分けながらトンタの方に近づいて来た。
「何だろう? 光がこちらに向かって来るよ」
ランが言うと、ジョイが答えた。
「きっと、竜は宇宙人だよ、円盤に乗って来るんだよ」
その強い光はトンタの頭上に来るとピタリと止まりサーチライトの様な明るい光がトンタと仲間たちを照らした。
「グウオーッ」と一声、威圧するような凄まじい声で叫ぶと、恐竜たちは驚き大木に体当たりするのを止め、一斉に後ずさりした。
「凄いやー! 竜って何だろう」
ランが言うと直ぐにトンタが笑いながら答えた。
「僕の友達さ」
「エッ! いつ友達になったの?」
「テンと友達になった時だよ」
竜は大きな口を開けると、口から火を吐き出しながら大木の周囲をゆっくりと回り、恐竜を遠くに追い払うと地上に降りた。
トンタと仲間たちが大木から降りて来て、竜の背中にまたがると静かに上空に舞い上がった。 竜は振り返りトンタの顔をじっと見つめ、静かな声で言った。
「トンタさん、怪我は有りませんか? 何でも申し付けて下さい」
トンタは竜の頭や顔を優しく撫でると、自分の頬を竜の顔に当てて言った。
「竜、お前のお陰で助かったよ、有り難う、急いで針の山へ飛んでくれ」
竜はトンタに喜んで貰え嬉しくなり弾んだ声で「分かりました」と答え、空高く舞い上がると針の山に向かって飛んだ。空は黒雲も消え青空に戻っていた。
トンタたちは地上を見回した。 地獄山のふもとの新生命誕生工場から恐竜が次々に出て来ているのが見えた。 更生村、強制労働村を見ると多くの恐竜が暴れており、あちこちの家から煙が上がっていた。
「ご主人、所長さん一家と村長さん元気にしているかなあ?」
ゴンが心配して呟くとトンタが答えた。
「本当に心配だね、早く恐竜を大人しくさせないと、地獄が破壊され乗っ取られてしまうよ、そのためには早く極悪人の親分を取り押さえなければ・・・」
「トンタさん、私も地獄を守るために戦います。 指示を出して下さい」
「有り難う、竜は我々を針の山に降ろしたら、テンを迎えに行き、テンと一緒に更生村の恐竜を血の池に誘導して下さい」
「分かりました、それでは最速で針の山に向かいますので私のたてがみに確りと掴まっていて下さい」
竜は目も止まらぬ速さで飛んで行き、直ぐに針の山の上空に着いた。
「あっ! あそこに空飛ぶオートバイが置いてあるよ」
ジョイが針の山の頂上付近を指して叫んだ。
針の山は、まるで動物のヤマアラシの背中のように大小の尖った岩が無数にあり、その山の頂上の岩陰に空飛ぶオートバイ等が並べて置いてあった。
竜はゆっくりと山の頂上に舞い降り、皆を降ろすと直ぐにテンの所に飛んで行った。
仲間たちは空飛ぶオートバイの置いてある場所に行くと、目を輝かせ見ていたが、ハンドルを持ち、座席にまたがると操作方法を確認していた。
「さあ皆、これで装備品と車両の全てが揃った、これで本当の力が発揮できるぞ。 これから強制労働村の恐竜を血の池へ誘導し、その後に新生命誕生工場に親分を捕らえに行くぞ。 皆、ガンバロー!」
トンタが指示、号令を掛けると、仲間も声を揃えて叫んだ。
「ガンバロー!」
レイザー銃を空飛ぶ腰バンドのフォルダーに差し込み、レイダーメットを被り、空飛ぶオートバイに乗った。
レイダーメットの通信スイッチをオンにするとトンタの声が聞こえた。
「これから強制労働村で暴れている恐竜を血の池に誘導します。これから各々への指示はこの通信で行うのでスイッチは切らないように、それでは出発します」
オートバイの加速グリップを徐々に捻り加速していくと音も無く発進し、更にグリップをフルスロットルレンジに捻りながらハンドルを後方へ倒していくとオートバイは双曲線を描き上空に急上昇し飛んで行った。
強制労働村の上空に来ると指示が入って来た。
「これから恐竜を誘導する。 僕とゴンは西から、ジョイとチョロは南西から、ランとピイコは北西から血の池に誘導願います。 地上百メートルの低空飛行でオートバイに装着されたレーザー銃で誘導して下さい。 但し、レーザー銃の光線強さは恐竜にショックを与えるレンジにセットして下さい。 以上」
各自指定されたポイントに着くと血の池に向かい低空飛行で飛んだ。目の前に恐竜が見えて来た。 恐竜は親分たちの操作により家を壊し、畑を荒らし暴れまくっていた。
恐竜は体長三メートル程から三十五メートル程で、肉食恐竜、植物食恐竜と多くの種類の恐竜がいた。 肉食恐竜は牛、馬、豚など家畜を襲い噛み殺し、貪り食べていた。
その時
「誰かー! 助けてくれー! 食われちまうよー!」
強制労働村の極悪人を管理している赤鬼が必死になって逃げ回っていた。 その後を小型肉食恐竜で最も獰猛と言われているデイノニクスが追いかけていた。 距離は見る見る間に接近し間一髪の状態であった。
「あっ! 危ない!」
トンタはオートバイを加速し全速力で近づくとレイザー銃の光線強さを強くセットすると発射ボタンを押した。
「シュッ」
レイザー銃から白い光線がデイノニクスに向かって真っすぐに走った。
「ギャーアオー」
叫び声を上げ倒れると、動かなくなった。
「有り難う!」
赤鬼は九死に一生を得て喜び、トンタに向かって頭を下げ、手を振っていた。
トンタは急旋回するとポイントに戻り、血の池に向かって恐竜の誘導を始めた。
誘導はカウボーイが牛を誘導するのと似ていた。恐竜か立ち止まっているとレーザー銃の光線レベルを弱め、お尻に撃つと痛がって前に進み、右方向に進ませたい時は左方向の腰にレーザー銃を撃った。 要するに進ませたい方向の反対側の腰辺りをレーザー銃で撃ち誘導した。考え方は単純であるがレーザー銃をいつ、どこに撃つかにより恐竜の動く方向が変わるので実際には高度のテクニックが必要であった。
トンタと仲間たちは操縦方法の教育を天国で十分に受けており、高度なテクニックを持っていた。
「さあ恐竜さん、血の池に向かって進んで下さいね。 おっとっとっと止まっちゃ駄目ですよ、動いてくださいレーザー銃ではいチックン。 あれあれ横に行っては駄目ですよ、はいチックン。 はいそのまま進んで下さいねはいチックン。 はいとても良く出来ました」
ゴンはおもしろ、おかしく喋りながら加速グリップをこまめに動かし、恐竜の駆ける速さに合わせながらオートバイを巧みに操作しレーザー銃を的確に撃ち、リズムに乗って誘導していた。
その頃、先に針の山を出発した竜は、鬼の子テンの家の上空に着いていた。
「グゥオーッ」と叫びテンを呼んだ。 テンはその叫び声を聞き、驚いて家から飛び出して来た。
「竜! どうしたの? 大丈夫?」
テンは上空にいる竜の方を見て、何故来たのか心配になり聞いた。
竜は元気なテンを見ると、微笑んで地上に降りて来るとテンに頬ずりした。 テンも竜の顔を両手で確りと抱きしめていた。
「テンが元気で安心したよ。 実は地獄が悪い奴らに暴れまくられて危ないのだ。 トンタさんより救援の要請があり、テンを迎えに来たのだよ」
「えっ! トンタさんが僕のことを呼んでくれたの、嬉しいな」
テンはトンタが自分を頼りにしてくれているのだと思うと嬉しくて、嬉しくて目に涙を溜めていた。
「さあー、早く背中に乗って下さい。出発しますよ」
「うん、行こう」
竜はテンを背中に乗せると、第一更生村の誘導ポイントへ行った。
目に入って来たのは溜池の北の橋が破壊され、溜池の水も無くなっていたが、トンタが溜池の土手に差し込んだ不思議な蛇口から水が噴き出し、その水が破壊された北の橋から堀を通り血の川に流れ込んでいた。
村は、家が散々に壊され煙が立ち上り、田畑は荒らされ、用水路は破壊され、見る影も無かった。
「竜、大変な事になっているね。 村人は大丈夫なのだろうか?」
テンは村人が何処に行ったのか心配になり、辺りを見回したが人影は見えなく、多くの恐竜が目に入った。 恐竜は村を破壊し、目的が無くなったのかゆっくりと歩いていた。
「テン、これから恐竜を血の池に誘導するので、僕のたてがみを確りと持って下さい」
竜は低空飛行し身体を左右にくねくねと動かし、恐竜の背後から左右を包み込むように口から火を吐いた。 恐竜は身体の後ろと両脇が熱くて前方に早いスピードで逃げ、血の池への誘導はスムーズに進めることができた。
第一更生村の多くの恐竜は見る見る間に血の池に向かって誘導されて行った。
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