第12話 新生命誕生工場よりの脱出
「ご主人、ご主人、起きてください・・・」
トンタは誰かが自分を呼んでいるのを感じ目を少し開けると、ここにいるはずが無い、チョロがいて鼻をなめていた。 夢かと思いチョロを見つめていた。
「ご主人、助けに来ました!」
チヨロが耳元に来ると再度呼んだ。
トンタは現実であることに気づき? 目を大きく開けた。
「おお、チョロ、チョロじゃないか、良く助けに来られたな?」
考えても見なかったチョロの出現に、まだ夢じゃないかと疑いを持っていた。
「チョロ、僕の頬をお前の爪で強くつねってくれ」
チョロは言われたように爪で頬を強くひねった。
「イタタタター」
トンタは夢でない事が確信した。 それを見ていたチョロは腹を抱えて笑っていた。
「キイッ、キイッ、キイッ」
「チョロ、そんなに笑うなよ!」
「すいません、ご主人」
「ところで、お前はどうやってここに来られたの?」
「工場の外でゴンとランを人質にして見張っていた子分を、工場内に入れるため通用門が開いたので絶好の機会と思い、侵入したのです」
チョロは得意げに鼻を「プカプカ」させていた。
「人質にされていたゴンとランは無事だったのか?」
トンタは急に心配そうな顔になり尋ねた。
「二人共、無事ですよ。 ピイコが子分を嘴で襲い、その隙に逃げました」
「そうか、良かった、良かった、チョロもピイコも大手柄だ」
トンタは、ほっとした顔になりチョロの顔を見ていた。
「チョロ、もう駄目かと思ったよ。 お前が助けに来てくれたお陰で助かったよ」
「ご主人に喜んで貰えて嬉しいですよ。 ところで、私は何をすれば良いか指示をして下さい」
トンタは唇をチョロの鼻の頭に軽く当て、微笑むと指示した。
「チョロ、お前の強い歯で、手を縛ってある縄を嚙み切ってくれないか」
「アイアイサー」
目を細めて答えると、直ぐに縄を「コリコリ」嚙み始めた。 休まずに噛み続け次の日の夜にようやく縄が切れて、トンタの手は自由になった。
チョロは疲れて仰向けに大の字に寝転び、腹は波打ち、口はまだ動かし続けていた。トンタは人差し指でチョロのお腹を優しくマッサージしてやった。
トンタは自分の足の縄を解くと、工場長の手足の縄を解いた。
「工場長、これからどうしましょうか?」
工場長は笑顔になり弾んだ声で答えた。
「実は、この部屋に非常事態用の秘密の抜け穴が設けてあるのです。 但し、敵の侵入を阻止するために一旦外に出てしまうと二度と中に入れません」
「本当ですか? 本当に抜け穴があるのですね?」
トンタは夢のようで信じられなかった。
工場長は抜け穴のある場所を指でさし、人が来ないのを確認すると見せてくれた。
抜け穴はくくり付けのロッカーにあった。 ロッカーの下板を止めてあるピンを抜き、下板をはがすと床板が現れた。 床板には人が一人は入れる正方形の切り込みがあり、その一端に把手が付いていた。 把手を引くと床板が下側に倒れ、脱出口が開いた。 脱出口は三十度程度の勾配のシューターになっており、脱出口に入るとスベリ落ち自動的に外に出ることが出来た。
「それでは、直ぐに脱出しましょう」
工場長は直ぐに脱出口に入ろうとした。
「一寸待ってください」
トンタは叫んだ。
「どうかしたのですか?」
驚いた顔をして、工場長が振り返って、トンタを見た。
「我々が外に出たら従業員を助けられません。最初に従業員を脱出させましょう」
トンタの意見に、工場長は脱出口から離れると頭を下げた。
「そうです、最初に従業員を脱出させるべきです。 責任者として最初に考えるべきことを忘れていました。 申し訳ありません」
トンタはチョロを懐に入れると、工場長と部屋を出た。 廊下は非常灯の薄暗い灯りが点いていた。
応接室の前に来ると中から大きないびきが聞こえた。 そっとドアを開き覗くと、親分と子分の一人がソファーにもたれ掛かり寝ていた。
工場内の新生命誕生機のある付近を見ると煌々と灯りが点いていた。 近寄って見ると大きな孵化器が何個も運び込まれており、その孵化器の中に多くの恐竜の卵が入っていた。
孵化器の隣に置いてあるゴミ箱の中には、卵の殻が幾つも入っており、その脇で子分二人が恐竜の子を抱いて話していた。
「工場長、恐竜が卵から次々に孵化していますよ、早く脱出させないと恐竜の餌にされてしまいます」
「そうですね、従業員の閉じ込められた檻の鍵は警備室にあるので、急ぎましょう」
工場内の柱の陰に隠れながら警備室に近づくと、トンタは懐から小型望遠鏡を取り出し、警備室の中を伺った。 子分の一人は奥のソファーで寝ており、もう一人は受付の椅子に腰掛け、机に肘を付き、腕枕で寝ていた。
その机の上には色付の名札が付いた鍵が幾つも並べてあった。
「工場長、檻の鍵は何色の札がついていますか?」
「赤色の札が付いた鍵です」
トンタは懐からチョロを出し、手のひらに乗せ、赤色の札が付いた鍵を取ってくるように指示し、手のひらを床に近づけると、チョロは飛び跳ねて警備室に入って行った。
暫くすると、赤色の札が付いた鍵を口にくわえ、引きずりながら戻って来た。
チョロを懐に入れると、工場長に案内され工場建屋内の西側の檻に向かった。
従業員たちは檻の中で横になって寝ていた。 工場長は鍵を開け檻の中に入ると総務部長を呼んだ。
トンタは総務部長に尋ねた。
「見回りは何時間毎に来ていますか? 最後の見回りは何時間前ですか?」
「二時間毎に来ています。 最後に来たのは三十分前です」
「よし! 今がチャンスだ!」
トンタは呟くと、直ぐに指示を出した。
「総務部長、皆を起こし二列に並ばせてください。そして六名ずつ檻から出して工場長室に音を立てないように静かに行かせてください。工場長は先に行って脱出口に誘導してください」
トンタの指示により脱出が始まった。 順調に進み、あと十二名が残っている時、見回りの時間でないのに懐中電灯の明かりがこちらに向かって進んでくるのが見えた。
「あっ! まずい」
トンタは心の中で呟くと同時に声を殺して叫んだ。
「見張りが来るぞ! 全員、工場長室に全力で走れ、後ろを振り向くな」
全員が檻から出て全力で走るのを確認すると、トンタは一番最後を走った。
走る足音に異変を感じ、見回りの子分が懐中電灯を揺らしながら走ってきた。
「脱走だあー! 脱走したぞー!」
「バーン、 バーン」
見回りに来た子分が脱走に気づき、大声で叫び、拳銃を乱射し、追っかけて来た。
トンタの耳元を風を切って弾丸が幾つも通り過ぎて行くのが分かった。 何とか工場長室にたどり着くと、ドアを閉め、ロックを掛け、書籍箱、サイドボード、机などをドア後部に積み上げた。
子分の叫び声と拳銃の乱射音で目を覚ました親分と子分たちが工場長室の前に来ると、ドアを叩き大声で叫んでいた。
「隠れても駄目だ! ドアを開けろ!」
「トンタ! 今直ぐに出て来い! 出てくれば命は助けてやるぞ!」
親分が叫んでいたが、トンタは無視していた。
気の短い親分は怒り狂って更に叫んだ。
「全員、皆殺しだー!」
子分たちは何度もドアに体当たりをしたが開かなかったので、拳銃で錠前を破壊し、再度体当たりしてくるとドア後部に積み上げた家具が動き出した。
脱出口前に四名が残っていた。トンタはドアが開かないよう家具を懸命に抑えていたが、子分三人で押す力にはかなわず徐々に開いてきた。 脱出口前には自分だけになったので、手を話すとドアは一気に開き、家具が倒され親分の顔が見えた。
「バババーン」
親分が拳銃を乱射した。同時にトンタは脱出口に飛び込み消えた。
後方で親分が大声で叫んでいた。
「トンタ、逃げても無駄だぞー! 恐竜がお前たちを食いに行くからなー!」
トンタが工場の外に抜け出ると、工場長が脱出口の出口で待っていた。
「有り難う座いました。お陰で従業員全員救出することが出来ました」
二人は満面の笑顔で抱き合い、固い握手をして喜び合った。
その周りには従業員及びゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコたちが無事を喜び抱き合っていた。
「食料も無いし、これからどうしたら良いのでしょうか?」
工場長がトンタに相談しに来た。
「三日前に私の仲間の文鳥のピイコが、舌抜所の所長に工場が乗っ取られる事を連絡しましたので、所長及び閻魔大王の戦闘隊員も来るので待ちましょう」
近くの洞窟に皆を誘導している時、ゴンがリュックを背負って来た。
「ご主人、食料の入ったリュックを持って来ました」
脱走した親分を確認しに行く時に置いてきたリュックをゴンが持って来た。
トンタはリュックの食料を工場長から全員に配って貰い、テンの父より頂いた不思議な蛇口を地面に突き刺し、出てきた水を全員に配った。
脱出してから二日後、空腹を水で凌いでいる所に、舌抜所の所長が食料を背負った所員を引き連れて到着した。
持って来た食料を食べ元気を取り戻したが、親分に対して成す術は何も無かった。
「ご主人、何時までここに居るのですか? 血の池に行き装備を手に入れましょう」
ゴンが心配して聞きに来た。
トンタは考えていたが、直ぐに所長と工場長の所に行った。
「実は、閻魔大王の戦闘隊員が来る頃には、多くの恐竜が成長し戦闘力も付きますので、親分たちは攻撃してくると思います。 私は恐竜に対抗出来る装備を取りに血の池まで行ってきます」
所長は頷き、トンタに答えた。
「分かりました。 私たちもここに居ても仕方がないので工場の人を連れて舌抜所に戻ります。工場の中にいる親分たちの対応は閻魔大王の戦闘隊員に任せます」
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