第8話 地獄の国の閻魔大王に会う
トンタは黄泉の世界にある地獄の国に入るため、分別所の事務所に行き、事務所の所長に閻魔大王が発行した通行証を見せた。
所長は通行証を手に取り閻魔大王の署名を念入りに確認し、問題なかった事を意思表示するかのように大きく頷くと、トンタを見て微笑み通行証を返しながら言った。
「地獄の門まで案内しますのでお待ちください」
間もなく、所長が手にあまり明るくない灯りをぶら下げて、事務所より出て来た。
「こちらにどうぞ」
所長は、分別所を通らずに特別の通路を通り、地獄の門の説明をしながら、暗闇の道を手に持った灯りを頼りに案内してくれた。
「地球で亡くなられた方は分別所を通り地獄に入りますので、地獄の門はほとんど開くことはありません。 門が開くのは、閻魔大王様が指示された時のみで、実際に門が開かれたのは、二~三年に一度の天国の国王様と打ち合わせをなされた時でしたので、今回のように一般の方のために特別に開くことは初めてです」
しばらく歩いて行くと、暗闇の中にぼんやりと大きな建物がそびえていた。 近くに行くと、その建物は反り返った大きな屋根を持ち朱色をしていた。 その建物の中央には大きな門があり、その門の扉は固く閉まっていた。 門の上方には大きな板があり、地獄の門と書かれていた。
「ここが地獄の門です、午前零時に門が開きますので、しばらくお待ちください」
所長は会釈すると、すぐに引き返していった。
所長が行ってしまうと、灯りが無くなり、暗闇となった。
ジョイ、チョロ、ピイコは不気味さと、何が起こるかもしれない怖さでトンタにしがみついていた。 トンタはリュックから懐中電灯を出し、灯りをつけた。
「ご主人、いよいよ地獄に入りますね、心臓が高鳴ります」
ゴンか武者震いしながら言った。
「そうだね! この門を入れば試練の地獄だ」
トンタは臆病のジョイを見ると泣きそうな顔をして震えていた。
「門が開いたら何が出てくるのかなあ、怖いなあー」
「ジョイは直ぐ怖がるのだから、聞いていると私までおかしくなってしまうわ」
ランがジョイを睨んでいた。
「ジョイ、そう心配しなくても大丈夫だよ、みんなが一緒にいるのだから、さあ、笑って元気を出しなよ」
トンタはジョイを元気づけた。 ジョイは無理やり笑顔をつくり、泣き笑い顔となった。
チョロがトンタの肩の上でじっと門を見ていたが、くるりと向きを変え、トンタの耳元で言った。
「ご主人、この門まだ開かないね、いつ開くのだろう」
「もう少しで、午前零時だ、直ぐに門が開くぞ」
仲間は黙り込み、緊張した面持ちで、地獄の門をじっと見つめていた。
「ギギギギギィー」
午前零時丁度に音を立てて、ゆっくりと門の扉が開いた。
トンタと仲間達は突然の木のこすれる高い音に驚きながら門の中を食い入るように見ていたが、急に身体を後ろに引いた。
門の扉が開くと、身体が赤色や青色をし、頭に角を二本生やした鬼が左手に金棒を持って、門の外に三人飛び出して来くると一列に並んだ。 後からリーダの赤鬼が松明を持って出てきて列の前に立った。
鬼の姿が
「あっ!」
トンタは本では見たことがあるが、生まれて初めて見る本物の鬼、しかも松明の明かりの中で恐怖心が先に立った環境の中で見たため、誇張されて見えたのか良く分からなかったが、余りにも恐ろしい容姿に見え、声を上げた。
ゴンとランはトンタをかばうように前に出たが、吠えることはできなかった。 臆病なジョイは震えており、足元を見ると失禁したのか濡れていた。 チョロとビイコはトンタの懐から顔を出し目隠しをした指の間より見ていたが、怖くなり懐に潜り込んでしまった。
リーダの赤鬼は声がした、トンタの方にゆっくりと目を移した。
トンタと目が合った。
トンタは身体が震えた。 震える身体を落ち着かせるために大きく深呼吸をしてから、リーダの赤鬼に歩み寄り、通行証を見せた。
リーダの赤鬼は通行証を松明にかざして確認すると、トンタを見てニヤリと笑った。
「俺の後からついてこい」
低い声でひとこと言うと、直ぐに門の中に入り歩いて行った。
トンタは慌てて馬のクロとアカを引き連れて、鬼の後を追った。 ゴンは何処に連れていかれるのか辺りを見渡して、トンタを守る体制で後に続いた。 ジョイは、一番後ろは嫌だと言ってゴンの後に、ジョイの後にランが続いた。 三人の鬼はトンタの両脇と最後尾に着いた。
リーダの赤鬼は幅五メートル程の急な石段を登って行った。 石段の両脇には一定間隔で灯篭が立っており、石段が見える程度の明かりが灯篭からこぼれていた。 回りには草木が一本も無く、虫一匹の鳴き声も聞こえず静まり返り、馬のクロとアカの足音だけが響いていた。
石段を見上げると一キロメートル程先に朱色の門が小さく見えた。 その門の後方は火柱が上がり、夜空が真っ赤に染まっていた。
一時間程かけて、急な石段を馬のクロとアカをなだめながら、ようやく朱色の門の前の平坦な場所に辿り着いた。
トンタの額からは汗が滴り落ち、心臓は高鳴り、息が荒くなっていた。 懐の中に入っているチョロとピイコはトンタの汗と熱気で懐から身体を乗り出し「フウ、フウ」と息をしていた。
朱色の門は開かれており、見上げると 地獄の宮殿 と書かれてあった。
トンタ達は疲れたので、リュックを降ろして朱色の門の前で休んでいると、リーダの赤鬼が「もう疲れが取れただろう、宮殿で閻魔大王様が待っている」と言ってトンタを促した。
その時、門の中から「パチパチパチ、グォーーー」凄い音が聞こえ、温かい風が吹き出してきた。
「何だろう」トンタは呟いた。
ゴンとランは鬼を見慣れて鬼に対する恐怖心も取れ、平常心に戻っており、トンタの呟きを聞き取り、トンタの前に飛び出した。
リーダの赤鬼は「心配することはない」と言ってゴンとランを宥めると、先導して門の中に入って行った。
そこは非常に大きな広場となっていたが、草木は一本も無く、広場の周りはゴツゴツとした大きな岩で囲まれていた。 広場の隅には丸太が山と積まれてあった。
広場の中央に目をやると直径五十メートル程の円形の穴があり、その穴の中に鬼たちが気味悪い声で歌を歌いながら、丸太の山から丸太を担ぎ出しては、投げ込み地獄火を燃やしていた。
「グォーーーー」
「ゴゴゴォーー」
「パチパチパチ、ブォーー」
地獄火は轟音を出し数百メートルの高さまで火柱が噴き上げていた。 火柱は怒り狂ったように無数の炎が縦横無尽に交錯し、渦を巻き、赤,朱、橙、灰、黒などの色が入り混じり色を変え、身も心も燃え尽くされるかのように暴れまくって燃えていた。
じっと見ていると炎に吸い寄せられ、炎となって怒り狂い空高く舞い上がりたい、そんな不思議で恐ろしい気持ちにさせる魔物が火の中に潜んでいた。
「みんな、落ち着け、炎に吸い寄せられるな」
トンタは地獄火の炎を受け全身をオレンジ色に染めながら叫んだ。
地獄火を見た時から馬のクロとアカは興奮し落ち着かなかった。
「ヒヒヒーン、バオ、バオ、バオ」
「ヒヒヒーン、ヒヒヒーン」
クロが急に暴れ出し、前足を上げ、トンタに覆いかぶさってきた。 咄嗟に手綱を引き、クロをなだめながら地獄火が見える方の目を手で覆うと、徐々に興奮から覚め、暴れるのを止め、静かになった。
トンタは馬のクロとアカに目隠しを付け、なだめながら、先導するリーダの赤鬼の指示に従ってついて行くと、いつの間にか閻魔大王のいる宮殿の前に着いていた。
中央の階段を登って行くと、宮殿の入り口の大きな扉は開いていた。 中に入ると、別の入り口から地獄に選別された人や動物達が一列に並び、閻魔大王が睨みを利かせながら座っている部屋に絶え間なく入っていった。 トンタと仲間たちも案内されて部屋に入って行くとリーダの赤鬼が急に駆け出し、閻魔大王の前の祭壇に歩み寄ると、閻魔大王と何か話をしていた。
その時、「トンタ、トンタは居るのか?」
突然、身体が震えるような、低く、太い凄みのある声が上の方から聞こえた。
「ご主人、上を見てください」 ゴンの声で、見上げると、部屋の中央にある祭壇の上部の席に、真っ赤な顔で口を大きく開き、怖い顔をした鬼が大きな目で睨んでいた。 王冠を被り黒色の生地に金色の糸で縁取りされた豪華な服を着ていた。 王冠の中央には黒色の楕円形の厚い生地に金色の糸で大王という文字が刺繍されていた。
「あっ、閻魔大王様だ!」と呟くと、急いで祭壇の前に駆けよった。
「閻魔大王様、私がトンタです」 大声で答えた。
「お前がトンタか!」 トンタの目をじっと見つめ、話し始めた。
「お前の事は天国の国王からよく聞いている。 お前も天国の国王から聞いていると思うが、地獄は無法地帯である。 極悪人が多くおり、何をされるか分からぬぞ、
隙を見せるな。 お前の持っている通行証を奪いに来るであろう、奪われれば一生地獄にいることになるぞ、分かったな。 お前には特別に、道に迷わぬよう地獄の国の地図あげよう、その地図に書かれた試練の道を行くのだ。 そして、この地獄での実践訓練を成功させ、是非地球を救出してくれ。 成功を祈っておるぞ」
閻魔大王はニコリと笑うと大きな声で言った
「トンタ、特別に通行を許可する」
閻魔大王は地獄に送られてきた悪人を更生させ、新しい生命にして地球に送り返している。
地獄は悪人の更生施設であり、極悪人は地獄で悪事が出来ないよう舌を引き抜き言葉を話せないようにしたり、地獄で悪事をした者は血の池や針の山に投げ込み、苦しみを与え反省させ、更生させている。
悪事を働く者に対しては冷酷であるが、更生しようと努力している者に対しては優しい大王であった。
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