第5話 天国の国王との出会い
飛行続けている車の前方に小高い山が見えてきた、その山頂には緑に囲まれた白色の建物が建っていた。
さらに近づいて行くと、その建物がはっきりと見えてきた。 それは、まるでギリシャのパルテノン神殿のような荘厳な建物であった。
周囲の木々の緑と建物の白色とが調和し、荘厳さのなかに心なごます緑とのハーモニーが醸し出されていた。
トンタは前方の山を指でさし、興奮して叫んだ。
「爺ちゃん、あの山の上に建っている白くて綺麗な建物は、もしかして、国王様の住んでおられる宮殿なの?」
「そうじゃよ、あれが国王様のいらっしゃる宮殿じゃよ」
「僕、なんだか国王様にあうのが怖くて、心臓がドキドキしてきたよ」
「トンタ、大丈夫じゃよ、国王様は心の優しい方じゃ」
トンタは安心したのか笑顔になった。
「本当! 本当に優しいのだよね」
「本当じゃ、本当じゃ」
車は
宮殿の表門を
トンタと仲間達は車のスピードにも慣れ、恐怖心で引きつっていた顔も笑顔になり、和やかに車を降りた。
目の前に大理石でできた幅が十メートル程あり、二十段程の階段が壁のように立っていた。 その階段を上がりきると目の前が一面、空中庭園になっており、ほぼ中央には大きな丸い池があった。 その池には噴水が空高く噴き上っており、風向きによってしぶきが霧状になり心地よくトンタの頬を撫でていった。
その時、ピイコが水浴びをしようと喜び勇んで、池に飛んでいったが宮廷服を着ていることに気づいたのか、恥ずかしそうに戻ってきた。
池の周りに沿って赤茶色のレンガを敷き詰めた歩道が続いており、その脇には歩道と同色のレンガを積み上げた花壇があり、色とりどりの草花が咲き誇っていた。
花壇の外側は緑の葉をつけた木々が植えられており、その木々の空間を極楽鳥に似た眩いばかりの鳥が華麗に飛んでいた。
トンタは現実の天国は、夢の中で見たり、本を読み空想した天国より、ずっと綺麗で言葉に表すことができないほど素晴らしい所だった。
トンタは天国に来てからずっと疑問に思っていた。
それは、宇宙より見た地球は青く光り輝き綺麗だと思ったが、実際に自分が住んでいる地球は歩きながらゴミを捨て道路を汚し、自動車の排気ガスや工場の煙突より出す煤煙により空気を汚している等、天国の環境と比べるとあまりにも悪すぎており、それは何故だろうと不思議に思っていた。
「爺ちゃん、天国は素晴らしい所だね、ゴミ屑は落ちていないし、空気は美味しいし、排気ガスもなくて目や喉も痛くないよ! 地球の環境とはあまりにも違うね!」
「俊太、良いところに気が付いたな! そこがお前の良い所なのじゃ」
「じつは、天国には人に迷惑をかけるような事をする人がいないからなのじゃ、天国の人々は天国が綺麗で素晴らしい所になるようにしようと考え、それをいつも実行しているからなのじゃ、分かったかな?」
「良く分かったよ、悪いことをする人がいないからだね!」
「そうじゃよ、地球の人のようにお金で操られ悪い事をする人がいないのじゃ」
ゴンがトンタの脇でうつろな目で、顔を空に向け身体をブルブルと震わせていた。
「ゴン、どうしたの? 身体を震わせて、どこか具合が悪いの?」
ゴンはもじもじと恥ずかしそうに前足を路面に着き、後ろ足あしを上げた。
ゴンはオシッコがしたかったのだ。 地球では建物の隅に行き用を済ませていたが、天国はあまりに綺麗な所なのでオシッコができず我慢していたが、極限に近づいていた。
「爺ちゃん、ゴンがオシッコ漏れそうなんだって」
「ここでしてはだめじゃ、すぐ先にトイレがあるからそこでするのじゃ」
爺ちゃんはトイレの方に指をさして、先導して駆けていった。
ゴンは頭をかきかき爺ちゃんの後について駆けていった。その姿が滑稽だったので、皆で大笑いしていた。
空中庭園を通り抜けると、幅二十メートル程の広い階段があり、十段程上がると、宮殿の正面に出た。 宮殿の入口は五か所あり、その入り口の前にはトンタの腕では半分程しか抱えきれない程の太さで、高さが十数メートルあるかと思われる大理石の柱が立ち並ぶ、回廊になっていた。
その回廊に宮殿の係りの人が立っており、中央の入口に案内された。
中央の入口には、自分の背丈の倍以上の高さで、全面に彫刻され、白色の大きな扉が、両側にすでに開かれていた。 中に入ると、そこは天井の高い広いホールで、中央に大きくて豪華なシャンデリアが天井から吊るされ、ホールの左右の壁に沿って幅広い階段が設置されてあった。
左側の階段を上がり、二階の廊下を少し歩いた右側のちょうど正面入り口の真上に当たる国王の部屋に案内された。
正面の大きな窓にはカーテンが降ろされ、部屋の中は薄暗かった。
左右の壁は巨大スクリーンとなっていて、地球のあらゆる地域で起こっている気候変動による天変地異等の映像が写し出されていた。 その映像の中でレポーターが真剣な顔で叫んでいた。
「これは人災です、我々が起こした過ちにより起こった被害です」
トンタは、気候変動による、巨大ハリケーン、山火事等の被害の状況や被害に遭い泣き叫ぶ子供達の映像をじっと見つめ、目に涙を溜めていた。
「何故、何もしていない子供達までが犠牲になるのだろう?」
トンタは悲しくて肩を落とし映像を見ていると、その肩が、優しく引き寄せられるのを感じ、何気なく横を見た。
そこには、大きな人がトンタの肩を優しく抱いていた。
「誰だろう?」
見上げると、優しい目が微笑んでいた。鼻の下と
もしかして国王様? と思うと急に心臓が痛いくらいに高鳴っていた。
その時、優しい声がした。
「トンタ、待っていたぞ、お前は全ての者に対して優しくて、公平な心を持っておる、その立派な心を無くすのではないぞ」
と言って、トンタの肩を優しく抱いていた手に力をいれ、さらにトンタを引き寄せた。
やはり、国王様であった。
国王は、この部屋の巨大スクリーンに地球の状況をつぶさに映し出して見ており、地球のことをよく知っていた。
そして、近年、地球の状況が急激に悪くなってきており心配していること、地球を救出するためにトンタに期待していること等いろいろと話してくれた。
その後、国王自らの案内で宮殿内の主要な箇所を回ると、これから地球救出会議を開くと言ってある部屋に通された。
その部屋は会議室で、正面の一段高い所に国王の席があり、その左右に長いテーブルと椅子が整然と並べられてあった。 三十人程入れる会議室で宮殿のなかでは最も小さな会議室であるが極秘の重要な要件を決める場所であった。
会議室の右側の席には天国の大臣十名程がすでに席に着いていた。 トンタたちは、左側の席に前から順にトンタ、爺ちゃん、艦長、ゴン、ラン、ジョイと席に着いた。チョロとピイコはトンタの肩に乘っていた。
国王が中央の席に着くと、右側の一番前に座っていた国防大臣が立ち上がり、自分の紹介および他の大臣を紹介すると、国王の正面の大きなスクリーンの前に立った。
「これから、地球を救出する方策の会議を始めます」
と言って、スクリーンに地球の状況を映し出し、映像に基づき説明を始めた。
「国王様が、近年、地球の状況がおかしい、徹底的に調査しなさいと指示がありまして、調査しました結果、 地球の指導者を始めとした人々の中には私利私欲に走る者がおり、自分達さえ良ければ良いと、地球の環境のことを考えずに物づくりを行って金儲けをしている。 その結果、地球の環境が悪化し、それにより気候変動が起こり、大雨、強風、山火事、地震などの天変地異が発生している。 このような状態が続けば近い将来、地球は確実に破滅することが分かりました」
「エ、エッ、地球が破滅する?」
トンタは咄嗟に大声を出してしまい、慌てて手で口をふさいだ。
脇にいた、爺ちゃん、ゴン、ランは突然のトンタの大声に何か悪いことが起こったのかと驚き席を立ちあがると当たりをキョロキョロと見回していた。ビイコはトンタの頭上を飛び回っていた。
大臣たちはその様子を見て笑っており、爺ちゃんは恥ずかしくなり、頭に手をのせ頭をペコリと下げ席に座った。
国防大臣は何も無かったかのように説明を続けた。
「以上の調査の結果、国王様は地球の状況を憂慮しておられましたが、首を傾げ、何かがおかしいと感じられ、さらに調査を続けるように指示を出され再度調査を行いました。 その結果、どうも地球の奥深くに異星人が入り込み、地球の欲の深い指導者をお金で操り環境を破壊させ、地球を乗っ取ろうとしていることが判明しました」
国防大臣の説明が終わると、国王が席を立ち、トンタの隣に来た。
「紹介しよう、この子がトンタ君だ、皆も知っているように、地球を救出するのは地球の人間しかできない、天国の我々はサポートしかできないのだ。 このルールを守るため、この子が必要である。 これから皆の知恵と力を得てこの子を育成して、地球救出マンにするのでよろしくお願いする」
国王は続けて、トンタをサポートする、艦長とゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコを紹介した。
トンタとサポートする仲間達は深々と頭を下げた。
国王はトンタの右手を掴み、高々と上げると大きな声で言った。
「トンタ君はこれから教育、訓練を実施し完了すると地球救出マンとなる。その時はその救出マンの名をトンターマンと命名する」
全員の盛大な拍手が会議室に響きわたった。
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