第4話 天国への出発
トンタはピイコを肩にのせ、チョロを胸のポケットに入れ、ゴン、ラン、ジョイを引き連れてバルコニーに出ると、着陸している空飛ぶ円盤の翼の上部に乗り、開いているカバーをくぐり助手席に乗った。
ゴン、ラン、ジョイは後部座席に座り、不思議そうな顔でキョロキョロしていた。
爺ちゃんは操縦席に乗りこむと、機器を操作していたが、急に頭をかきはじめた。
「まいったな! 空飛ぶ円盤のバリアを解除したとき、雷のバカたれが、落ちやがって動力装置の電気系統がおかしくなっちまったみたいじゃ」
「これでは飛べそうもないなー」
トンタは飛べないと聞いて、驚いて爺ちゃんの顔を見た。
「だいしょうぶじゃ、俊太、すぐに母艦を呼ぶことにしょう」
爺ちゃんは運転席のマイクを握ると、母艦に連絡していた。
しばらくして、トンタが空を見上げると、上空に覆いつくすような大きな円盤状の母艦が止まっていた。
母艦の下部の中央部分の開口部がゆっくりと開くと、トンタたちの乗った空飛ぶ円盤が、静かに吸い上げられるように上昇して行った
どんどん、トンタの家が小さくなっていった。
近所の仲間たちが、トンタと仲間たちの出発を祝い祝福して見送ってくれた。
「ワン、キャン、ニャーオン、コケコッコー」
間もなく、空飛ぶ円盤は母艦に吸い込まれていった。
グレー、一色の飾り気のない大きな部屋に空飛ぶ円盤は着陸していた。
空飛ぶ円盤の透明のカバーを開き母艦に降りたが、誰一人迎えに来ていなかった。
トンタは部屋の中を見回していると、天井から霧のようなものが噴射され、回りが曇って見えなくなってきた。
ゴンとランは異変に気づきトンタを守るため素早く両脇に身構え、見えぬ敵? に歯をむき出しにして威嚇した。
「ウー、ワン、ワン、ワン」
ジョイ、チョロ、ピイコはゴンとランの威嚇に異変と気づきトンタの廻りを駆け回り、ピイコは飛び回っていた。
爺ちゃんは、その光景を見て笑いながらなだめるように言った
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ、心配するな」
仲間たちは興奮しており、爺ちゃんの声に気づかず、まだ騒いでいたので、今度は大きな声で言った。
「みんな、静かにするのじゃ!」
「この霧は消毒じゃ、心配するな」
「お前たちが地球から持ってきた、病気などの細菌を天国に持ち込まないように殺菌しているのじゃ、お前たちの身体には無害じゃ、心配せずに辛抱するのじゃ」
仲間たち安心して、静かになり笑顔になった。
「なーんだ、爺ちゃん、早く言ってくれればいいのに、僕、心配しちゃったよ」
「そうじゃったのうー、悪かったのう」
そうしているうちに、消毒の噴射がとまり、換気扇が回り始め、十分ほどで霧が消えていった。
突然、部屋の中央のドアが左右に開き母艦の艦長を先頭に五人の人が入ってきた。
艦長は背が高く、鼻の下に象牙のような形の白い髭が左右に伸び、左目に眼帯付けており、トンタの目には怖そうに見え、身震いがした。
服装を見ると、白色の艦長服を着て、艦長帽を被り、服と帽子には金のモールで飾り付けられて輝いていた。
怖そうな艦長はにこやかに微笑みながら、爺ちゃんとトンタの少し前に来ると止まって敬礼した。
「ようこそ、当母艦に」
さらに近付きながら右手を前に差し出しトンタと爺ちゃんに固く握手をかわした。
「わたくし、当母艦の艦長のヘルパーです、どうぞよろしく」
挨拶をすると、艦長はトンタの脇に来た。
「俊太殿、いや、当母艦ではニックネームで名前を言いますので、失礼ではありますが、これからはトンタ殿と言わせていただきます。」
「トンタ殿、当母艦は国王様の指示により、地球を救出するために、特別に建造されたばかりの最新鋭の母艦で、地球救出号と言います。 トンタ殿が国王様の教育を受け、地球救出マンになられた時からは、当母艦と連携を取り地球を救出するために共に活動することになりますのでよろしく」
と言って、再度トンタと固い握手を交わした。
艦長の手は温かく、湿り気を帯び地球を守る強い意志が感じられた。
トンタは笑顔で答えた。
「ヘルパー艦長殿よろしくお願いします。私と共に行動する、仲間を紹介します」
と言って、ゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコの順に紹介した。
ゴン、ラン、ジョイは恥ずかしそうに直立すると、右前足を顔の脇に持っていき、敬礼の真似をし、チョロはトンタの胸のポケットから顔を出し、ピイコは肩にとまっていた。
艦長は三歩程下がり、敬礼した。
「それでは、当母艦は、これから天国に直行します」
艦長は爺ちゃんとトンタたちを貴賓室に案内すると、操縦室に戻って行った。
貴賓室は広くて豪華に装飾されていた。
丸い窓がいくつもあり、その窓のひとつに小さくなった地球が見えていた。
「爺ちゃん、あれは地球かな?」
「そうじゃ、あれが、お前たちが住んでいる地球じゃ」
トンタは窓に近寄ってじっと見つめていた。 地球は丸く表面には曲線を描くように白い雲が浮かんでおり、地球を優しく包んでいるように見えた。 そして、その雲の間に、青く光り輝いている地球があった。
よく見ると、大陸部と思われるところは黄土色と緑色に、海はあざやかな青色に輝いていた。
トンタは目を輝かし、大きく息を吸い込み一瞬息を止めると、一気に息を吐き出しながら大声で叫んだ。
「わあっ! 爺ちゃん、すごーいよー、地球はなんて綺麗なのだろー」
仲間達もあまりにも綺麗な地球に目を大きく開き、驚きの声を上げた。
「ワワーン、キャーン、キィー、ピッピー」
「どうじゃ、地球はとてもきれいじゃろう、以前はもっときれいじゃったのじゃ、このきれいな地球をいつまでも、いや、永遠に守るためにのー、皆で協力し、これからの天国での苦しい訓練にたえるのじゃ」
「爺ちゃん、このきれいな地球を守るために、どんな訓練でも耐えてみせるよ」
「俊太、頼むぞ!」
トンタは更に小さくなっていく、地球を見ているうちに、疲れが出てきて豪華な布団に入り深い眠りに入ってしまった。
母艦は、深い眠りについたトンタと仲間達を乗せ、宇宙の空間を全速力で天国に向かって消えていった。
トンタは肩をたたかれて、目をさました。
目の前に、母艦のかかりの女性が立っていた。
「当母艦は、天国に到着しました」
「えっ、もう天国に到着したの?」
トンタは不思議そうに、眠い目をこすりながらベッドから出ると、大きなあくびをしながら、貴賓室の窓のカーテンを引いた。
眩しい程の光が入ってきた。 目を細めて窓の外を見ると、辺り一帯は緑の木々で覆われており、 その、木々の間からは、青く澄んだ空を背景に青色の水を満々と湛えた湖が望め、木々の空間を図鑑で見たことのある、極楽鳥のような色彩豊かな、まばゆい鳥が飛んでいた。
トンタたちは、時間を忘れ、外の景色に見とれていたら、ゴンのお腹が急に「グーッ」と鳴り響き、ゴンがソワソワし始めた。
トンタとランとジョイは顔を見合わせて笑うと、ゴンに向かって言った。
「ゴン、腹すいたの? 僕たちもお腹がペコペコだよ!」
ゴンは頭をかきかき、大きくうなずいていた。
その行動を見ていた、係りの女性は微笑むとトンタ達を食堂に案内した。
食堂には大きなテーブルがあり、その上には豪華な朝食が用意されてあった。
皆は朝食を我が先と貪り食べ、見る見るうちに朝食が無くなり、満腹となったお腹をさすっているところに、艦長が入ってくると笑いながら言った。
「トンタ殿と皆さん、朝食は十分ですか? これから天国宮殿へ行きますので、隣の着替え室に置いてあります宮廷服を、お召しになってください」
トンタと仲間達は着替え室に行き、宮廷服に着替えた。
宮廷服は歴史の本で見たことがあった。 それは、たしか古代ローマ帝国のシーザが着ていたトゥニカのような服で、現代の服で言うと、腰の部分はゆるみが多く取ってあるワンピースの半袖で、襟がなく、着丈はひざ下10センチメートル程の服であった。
生地は白地の絹で襟首、袖、裾および胸元部には金糸で凝った刺繡がされており、シンプルなデザインの服であったが、豪華に仕上げられていた。
その服を、金色の糸で両端が房になっている豪華な紐で腰の部分を縛った。
靴は白鳥の羽根で作った軽くて通気性の良いものであった。
トンタは宮廷服を着ると、中世の賢者になったような気分になり、胸を張り、手を後ろに回し、お尻の上で手を組み、ゆっくりと仲間の回りをまわりながら言った。
「余は、ローマ帝国の、あの有名なシーザーじゃ、皆の者、頭が高いぞ!」
仲間達はトンタを真似て、ゴンを先頭に一列になるとトンタの後について立って歩き回り、お互いに顔を見合わせると、腹を抱えて大笑いをしていた。
しばらくすると、ゴンは前足を上げて立っているのが辛いのか前足を床に降ろし、くたびれたと言って寝転んでしまった。
宮廷服を着ての四つん這い姿は格好の良いものではなかった。
それを見ていたトンタは皆に言った。
「お前たちは宮廷服を着ているのだから、四つん這いは格好悪いよ、これからは後ろ足で立って歩くことにしようよ」
すると、ゴン、ラン、ジョイは国王様の前では頑張って立っているが、それ以外は苦しいから嫌だと首を振っていた。
「そんな考えでは駄目だよ、頑張って努力しようよ」
「お前達は地球を救出する使命を持った、動物界の数少ない特別な代表だよ」
動物界の代表と聞くと、仲間達は急に真剣な顔になり、後ろ足で立ち上がると胸を張って前足を頭上に上げ、V字を作り、努力することを誓った。
宮廷服に着替え終えたトンタと仲間達を艦長が急ぎ足で迎えに来た。
「トンタ殿および皆さん、宮廷服が大変お似合いなので私も安心いたしました」
「国王様が皆さんをお待ちしていますので、車にご案内いたしましょう」
トンタと仲間達は宮廷服がよく似合うと言われ、得意になり背筋を伸ばし、胸を張り、腕を伸ばし前後に大きく振り、艦長の後について行ったが、仲間達の立ち姿はまだぎこちなかった。
地球救出号となる母艦の正面出入口に車は横付けにされていた。
車はオープンカーで、3列シートの9人乗りで、色は若葉色をしていて自然に溶け込んでおり、優しさにあふれていた。
不思議なことにタイヤは付いていなかった。
爺ちゃんが助手席に座っており、トンタの方に首を曲げると右手を上げた。
「さあ、早く乗って! 国王様は、朝から早く会いたいと言って首を長くして待っておられるのじゃ」
トンタとゴンは2列目の席に、ランとジョイは3列目の席に座り、チョロはトンタの膝の上に、ピイコはトンタの肩にのっていた。 最後に艦長が運転席に乗った。
トンタは車に乗り込むとすぐに爺ちゃんに尋ねた。
「爺ちゃん、この車はタイヤが無いよ? どうやって走るのだろうー?」
爺ちゃんもタイヤの無いことは知っていたが、説明できず、頭をかしげ運転席の艦長の顔を見た。 艦長はトンタの方を向いて説明を始めた。
「トンタ殿には、説明してもまだ難しいかもなあー?」
「簡単に説明すると、この車は磁気浮上式リニアモーターカーと言って、車を磁力で浮上させ、磁力で走行させるからタイヤもエンジンも不要なんだ、そのため排気ガスも出ないから空気も綺麗で環境にやさしいのだよ」
「しかも、スピードは時速五百キロメートルで走行することかできるスーパーカーなんだよ」
トンタは艦長を見つめ、目と口を大きく開き、驚いた顔をしていた。
「ワーッ! 本当に凄い車だね、早く走ろうよ!」
「それじゃー、出発しますので、シートベルトをして下さい」
ゴンとランとジョイは慌ててシートベルトを掛け、頭をかいていた。
車は静かに浮上すると、音もなく水平飛行し、高速道路に入ると時速二百キロメートルで飛行した。
不思議なことにオープンカーなのに、車の中に風が入らず、対抗車線に車が猛スピードで近付き、目も止まらぬ速さで通過したが、風圧が感じられなかった。
「艦長、不思議だよ、オープンカーなのに風圧が感じないよ」
「この車は窓の代わりにバリアーで保護されているのだよ、それに対抗車線との間にもバリアーが張られており対向車との衝突を防いでいるのだよ」
トンタは安全な車、安全な高速道路に驚くと共に関心をしていた。
艦長はアクセルペダルさらに踏み込み、五百キロメートルで走行した。
トンタと仲間達はあまりのスピードに恐怖で顔を引きつらせていた。
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