第3話 天国の国王よりの迎え
トンタは深い眠りの中で、ベッドから起き上がっていた。
何気なく頬に手をやると、ガーゼもなく、擦り傷も治っていた。
「あれっ」
つぶやくと、まだハッキリとしない目で、ゆっくりと肘、膝を見ると、頬と同じように、ガーゼもなく、擦り傷も治っていた。
「どうしたのだろう?」
不思議に思い、部屋の中を見回すと、いつもの自分の部屋と変わりなかった。
開けてあった、バルコニー側の窓に目をやると、急に風が吹いてきて庭の木が大きく揺れていた。
「ピユー」
「ゴオー、ゴオー」
窓から突風が入ってきた。
「バタ、バタ、バタ、バタ」
窓にかけられたカーテンが大きく揺れ、音をたてていた。
「パラ」
「パラ、パラ、パラ、パラ」
トンタの机の上に置いてあった、本の厚い表紙を開いたかと思うと、中の薄い紙のページが破れるかと思うほどの音をたてめくり始めていた。
「凄い風だな」
トンタは呟くと、ベッドから飛び出し、窓をしめようとした。
「カラ、カラ、カラ」
今度は、屋根を叩くような音を出し始めた。
バルコニーに出てみると、大きなヒョウが降っており、トンタの頭に当たった。
「痛い」
素早く、頭を手で覆ったとき。
「ゴロ、ゴロ、ゴロー」
「ピカ、ピカッー」
「バリ、バリ、バリー」
「ドッカーン」
突然、雷鳴がとどろき、目もくらむ凄まじい稲光が走ると、臓器に響く落雷音。 近くに雷が落ちたようだ。
トンタは突然の落雷に驚き、部屋に飛び込み雨戸とガラス戸を閉め、ベッドに入ると指を耳の穴に差し込んだ。
まだ鳴りやまない雷鳴の音は小さく聞こえていたが、振動は臓器に強く響いてた。
数分経っただろうか、身体への響きが止んだので耳から指を抜くと、風も雷も止んで、もとの静かな夜に変えっていた。
窓を閉めていたので部屋の中は蒸し暑くなっており、窓を開けようと、ベッドから立ち上がった時、開けようとした窓の雨戸を叩く音がした。
「トン、トン」
「トン、トン、トン、」
今度は、何の音だろう?
怖くなったトンタはベッドに座り込み、じっとしていた。
「俊太、俊太」
誰かが、声をころしてトンタを呼んでいる。
「俊太、居るのじゃろう」
「誰だろう? どこかで聞いたことのある声だなあ」
トンタはつぶやきながら、聞き覚えのある声が誰か考えた。
その声は、爺ちゃんだと思ったが、爺ちゃんは二年前に天国に行っているので、居るはずが無いと思った。
誰だろう? 怖くて、トンタの心臓は壊れるのではないかと思うほど高鳴っていた。
その時、
「俊太、爺ちゃんじゃよ」
「実は、おまえに話しがあって、天国から降りてきたのじゃ」
トンタは震える手でガラス戸を開け、次に雨戸を少し開けて外を覗いて見た。
バルコニーには腰の曲がった爺ちゃんが、白い服を着て、曲がりくねった杖を持って立っていた。
爺ちゃんは二年前と少しも変っていなかった。
白くて長い髭を生やしており、頭には毛が一本も無く、月の光で輝いていた。
腰が痛いのか、しきりに腰をさすっていた。
「本当に爺ちゃんだー」
トンタは雨戸を素早く開けると、爺ちゃんがしきりにさすっている腰を見て心配そうな顔をして言った。
「爺ちゃん、腰、大丈夫?」
「大丈夫じゃよ、」
「天国から空飛ぶ円盤に乗って来たのじゃが、着陸の態勢に入り、安心して円盤に掛けたバリアを外した途端に、運の悪いことに雷のバカたれが爺ちゃんの円盤に落ちやがってのー、その時の衝撃で腰を打ってしまったのじゃ」 と言って、爺ちゃんは腰をさすっていた。
トンタは爺ちゃんの後ろに、空飛ぶ円盤が着陸しているのを見た。
空飛ぶ円盤は、直径四メートル位の小さな円盤で、運転席は透明な半球状のカバーで覆われており、そのカバーは斜めに開いていた。
「じつは、天国の国王様から頼まれて俊太に話にきたのじゃ」
と言って、腰をさすりながら部屋に入ってくるとベッドに腰かけた。
トンタは、天国の国王と聞いて、何が何だか分からなかった。
「爺ちゃん、僕、爺ちゃんが言っていることが分からないよ」
「そうじゃったのー、最初から分かるように話をしょう」
爺ちゃんは、微笑むと話し始めた。
「地球に住む人間が良いことをして死ぬと、月よりもずっと遠い所にある天国の国に行き、楽しく暮らすことができるのじゃ、爺ちゃんも天国に行くことができ、今は国王様のそばで仕えているのじゃ」
「その天国の国王様が地球を見ていて、大雨、洪水、山火事、大地震などの天変地異が多く発生しており、地球は何かおかしい? このままでは地球に人が住めなくなってしまうのではないかと、心配してのう、原因を調査したのじゃ」
トンタは地球に人が住めなくなってしまうと聞いて驚いた。
「爺ちゃん、地球は大変なの? どうするの、どうしたら良いの?」
爺ちゃんは興奮するトンタをなだめると、話を続けた。
「国王様が地球の状況を調べたところ、地球の地下深くに異星人が入り込んでおり、その異星人が欲の深い指導者をお金で操り、地球の環境を破壊させ、地球を乗っ取ろうとしていることが分かったのじゃ、本当に大変なことじゃのう…」
爺ちゃんは大きく深呼吸し、首に巻いてあった白い布で額の汗をぬぐった。
「そこでじゃ、国王様がどうしたら良いか、いろいろと検討されたのじゃ」
「その結果、地球を救出できるのは、正義感があり、意志が強く、行動力のある地球の人間が必要ということになったのじゃ」
「爺ちゃん、地球を救出できる人間って誰なの?」
トンタはなりたかったスーパーマンと重ね合わせ興味がわいた。
爺ちゃんは笑顔になり、大きな声でゆっくりと言った。
「俊太! お前じゃよ、お前が国王様から選ばれたのじゃ、それで爺ちゃんが国王様の使いで迎えにきたのじゃよ」
思いもよらなかった回答に驚くと同時に、なぜ弱い自分が選ばれたのか疑問に思った。
「えっ! 爺ちゃん、なぜ僕が選ばれたの? 僕はデブでのろまで、学校では、のろまのトンタと皆にからかわれているよ、いじめられている人をたすけようとしても僕が弱いから負けてしまい助けることもできない駄目な人間だよ」
「いや、お前は駄目な人間ではない,立派な人間じゃ、国王様もお前をすごく褒めていて、それでお前が選ばれたのじゃ」
立派だと今まで一度も言われたこともないトンタは爺ちゃんの言っている事が理解できず、頭の中が混乱していた。
「僕の、いったい何が立派なの? 僕、全然わからないよ」
爺ちゃんはトンタの目を見て、微笑むと、声を大きくして言った。
「俊太、お前の心が立派なのじゃ、お前は力もなく弱いがのう、いつも弱い者の味方になり、悪い者に毅然として立ち向かう、その心が立派なのじゃ」
トンタは爺ちゃんの言っていることが少し分かってきたようで、頷いていた。
突然、爺ちゃんが泣き声となった。
「だがのー、お前は弱い者いじめするやつらに立ち向かうが、いつも負けてしまってのー、怪我をしたり、鼻血を出したりしてもへこたれず、助けられなかった事に対して悔しくて泣きながら、自分の弱さを悲しんでいるのを、爺ちゃんは知っているのじゃ、爺ちゃんもすごく悔しかったのじゃ」
と言って、爺ちゃんは涙を流し、トンタの肩をつよく掴んでいたが、すぐに笑顔になって肩をなでながら言った。
「だがのー、爺ちゃんはそんな俊太を見て、悲しいと思ったことは一度もなかったのじゃ、負けても、負けても、くじけずに弱い者に味方する、お前のその立派な心が、爺ちゃんの一番の誇りであったからなのじゃ」
そして、満面の笑顔になると、力強い声で言った。
「天国では、お前はヒーローなのじゃ、爺ちゃんも鼻が高かったぞ、ありがとうのー」
トンタは友達から弱いと馬鹿にされ自分でも弱い自分を卑下していたが、爺ちゃんの言葉を聞き、うれしくなって満面の笑顔となった。
「よかったー 僕は弱いから、天国で爺ちゃんが僕のことを見て悲しんでいるのかと思っていたよ」
「実はなあ、天国では科学の力によりスーパーマンすることは簡単なのじゃ」
「だがのー、人の心は変えることができないのじゃ。そこで心の立派なお前を育成して、地球を救出することになったのじゃ」
「国王様は期待しており、お前に早く会いたいと言って、首を長くして待っておられるのじゃ」
「えっ、本当に国王様が僕のことを期待して待っておられるの?うれしいなあー」
トンタはうれしかったが、天国にはいつ、どうやって行くのか分からなかった。
爺ちゃんはキョトンとしているトンタを見て言った。
「俊太、それじゃあ天国に出発じゃ!」
トンタは急に天国に行くことを言われて頭の中が混乱し、どうしていいかわからなくなってしまった。
「爺ちゃん、天国に行くことを家族に言わないと駄目だよ、それに学校はどうするの、それに、ぼくひとりじゃ寂しいよ」
トンタの次から次の質問に、爺ちゃんはうなずくと、一つ一つ説明した。
「俊太、良く聞くのじゃ、天国に行く時も、帰る時も、タイムマシンで行くのじゃ、だから、帰ってくるのは今の時間にすることができるのじゃ」
「それに地球を救出することは秘密じゃ、これからのことは地球にいる人には絶対秘密なのじゃ、だから秘密に出発し、秘密に帰ってくるのじゃ」
「それと、お前がさみしくならないよう、仲間のゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコ全員つれて行く。わかったな」
トンタが心配していたことが、すべてクリアとなり、笑顔になった。
「爺ちゃん、良くわかったよ」
「それじゃー、僕の仲間たちをつれてくるよ」
トンタは、急いで仲間を呼びに階段を降りていくと、母がちょうどトイレから出てきたところで、階段の下でぶっかりそうになり、母はトンタをにらみつけた。
「俊太! 危ないでしょ、そんなに急いでどこへ行くの? 早く寝なさいよ」
「あっ! そうそう、二階で誰かと話している声が聞こえたけど、誰かいるのかい?」
トンタは一瞬、心臓が止まりそうになり、返事をためらって、黙っていた。
「夜遅いのだから、静かに寝るのよ! わかったわねー」
と怒鳴るように言うと、母はあくびをしながら寝床に戻っていった。
トンタは仲間を引き連れて忍び足で階段を上がり、部屋に戻ってくると、爺ちゃんが声をころして言った。
「あぶない、あぶなかったのう、もう少しでお母さんに見つかるところじゃったな、出発するまで絶対に静かにしているのじゃ!」
仲間たちは、天国に行ったはずの爺ちゃんが目の前にいるのを見て、びっくりするとともに、爺ちゃんの言っていることが分からず首をかしげていた。
トンタは仲間たちに、これから天国の国王様のところに行くことを簡単に説明したが、首をかしげており、ほとんど理解していないようであった。
トンタは心配することが無くなり、早く天国に行きたくなり、こぶしを突き上げると爺ちゃんに声を殺して言った。
「爺ちゃん、そろそろ出発することにしようよ」
爺ちゃんも、こぶしを突き上げると声を殺して言った
「そうじゃな、それじゃー、出発じゃー」
ゴン、ラン、ジョイ、チョロ、ピイコも真似をしてこぶしを突き上げていた。
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