毒とかに弱い?鉄の胃袋持っててそんなこと言う?
「え……」「や、やだ!何!?」「おいダチ公ぉぉおおお!!」「うわぁぁあ!!」
阿鼻叫喚が森の中を響かせた
黒々とした卵を持つ俺はあまりの硬さに自慢くらべしていたため、勇者の首から上が無くなったことに気づくのにワンテンポ遅れた
「な、何?うわぁぁあ!!首から上がない!!」
「狼狽えるな荷物持ち!『魔防壁展開』を!」
撃たれた瞬間を見ていた回復者は魔術者に命じたが、急な人様の死に体を見て精神が揺らぎ、上手く防壁を貼れなかった
「安く請け負ったバチが当たったとでもいうかっ!?皆!退避しながっ────」
回復者の胸に空洞が開き、傷口を燃やした姿を見た平均的に顔の整った魔術者は絶叫した
「イヤァァァアアア!!」「に、逃げるぞ!もう回収したんだろ!?」「急げ急げ!!」「荷物持ち!!卵を俺に渡せ!!」
渡せと言ってきた【盾役者】は昔見たクソ女と同じ、ギラついた目でこちらを見てきた
”自分は生き残っていい、価値のある存在”
”俺が良ければ全てよし”
”てめえが死ね”
思い出せば同じ目をしていたクソ女は、そんなことを言っていた
俺は弱い。身体が固くても、心は硝子で記憶が宿る。逃げ動く脚を前に出しながらも恐怖によって身体が、黒の卵を【盾役者】に渡す
「へ、へへっ!おらっ!」
「……っ!」
【盾役者】は俺を蹴飛ばして駆ける脚を早めた
「ぐあっ!」
俺が荷物を背負う背中から地面に倒れる頃には、もう周りに人がいなかった
「なんだよ、なんだってんだよ……!」
人がいないことで愚痴をこぼせた俺は、爆発音を聞いた
「な、何?」
無知な俺はそれがガンタイガーの『砲爆』によるものだと分からなかったので、少し歩いて爆発の跡を見た
「う、ぐっ!おぇぇええ!!」
焦げた7人の死体と黒い卵
さっきまで喋っていた【魔術者】の女の子
素っ気ない態度をしていた【
俺を蹴り飛ばした【盾役者】の男
俺と同じ無口かと思ったら下心のあった【暗殺者】のエルフ男
魔術者ちゃんの上に倒れ込んでいる、最後に男気を見せた【殲滅者】の男
あと2人は話してないから職は知らないが、その7人が巨大なクレーターの中心で死んでいた
俺は朝から何も食べてないので胃液だけを盛大に吐き出して、口元を拭う
「誰かがやったのか……?【大導師】とか、かな?」
【魔術者】の最高位にあたる【大導師】ならこのくらいやりそうだなと見当違いな考えに、正解が現れた
”グルル……”
「ひっ!」
俺はその存在を見て心臓が止まりかけた
ガンタイガー
噂程度の知識だが、火炎属性系統全ての魔法を使える大陸最強と謳われる獣が、俺の前に現れた
体長1.7メートルの黒地には黄色の横縞が入っており、黒い骨が皮膚を貫いて鋭く尖っていた
オッドアイの黄色と水色の左右共に違う猫目は希少種を表し、大陸最強のさらに上へと登り詰める
勝てない、勝てるわけが無い
蛇のような黄色の横縞の入る黒い尻尾をこちらに向けた瞬間、恐怖に震え息をすることすら不完全な俺の体が吹き飛ばされた
何をされたのかもわからずに痛い痛いと叫ぼうにも、肺の空気を全て抜かれた様な感覚が声を潰すと、吹っ飛ばされた先にある全ての木を排除していった
止まったのは2つの山を破壊した後だった
「ヒュー……ヒュー……」
俺自身硬いのは自負している
だけど、痛いのは別だ
クソ女からの張り手は痛かったし
クソ女が連れてきた男の拳も痛かった
痛がる俺を見て悦ぶクソ女は、身体中に刺青を彫られていた俺の目の前で笑ってた
心から、笑っていた
1番、痛みに敏感だったのは舌と歯
神経の塊なのだから、魔術麻酔なしで施されたソーセージとキャンディーは痛みで泣き叫びながら、胃液を吐き、うがいして、飲み込んでの繰り返しだった
忌々しい記憶が、ガンタイガーの訳の分からない魔法で思い出させる
けど、もう大丈夫だ。これだけ離れていればガンタイガーも死んだと思って帰るだろうなんて、生易しいことをガンタイガーが
するわけが無い
ゴウッ!と音がした方向を見ると、手のひらサイズの炎の塊が目の前に来ていた
「あ────……
借金を返すことに専念していた日々は、ひたすら穴掘りだけだった
モンスターの討伐なんて大して大きくもない小物を殴ったりして殺すだけで、こんなめちゃくちゃな魔法なんて良けれるわけが無い
顔面に『砲爆』を受けた俺はまた吹っ飛びそうになるが耐えた
と思えば、目の前に黒の塊が落ちてきて、喉を鳴らす
”グルルルル……?”
「ケホッ、ゴホッ……痛いぃ……熱いよぉ」
俺はこの状況を打破できる訳では無いし、依頼なんてやってる場合じゃない、何とかして目の前にいるガンタイガーに許しを乞いたいが、獣風情に人の言葉が通じるわけ────
”人の子よ、何故生きる”
喋りだしたんだけど、なにこいつ
「モンスターが喋るわけ……あるな」
世界の拮抗、平和の維持にドラゴンやリヴァイアサンとの情報共有すると聞いたことがあった。それは何かしら意思疎通ができるわけであって、今の俺みたいに話しかけてくることもあるのでは無いだろうか
「話、通じるなら……みんな殺さなくても」
”殺すぞ?”
背筋がゾクリと這い、脳みそが危機感を覚え涙を流し、歯がガチガチと鳴る
”つまらぬ返答を寄越すな、応えよ。貴様はなんだ?”
「お、おおおお、俺はっ!知らない!分からないんだ!硬いっ、硬いだけでっ!」
”……”
「本当なんだっ、し、信じてくれ!ステータス確認に金が掛かるから、局から受けてないけど!」
”……それで、我が納得するか?”
「し、しし、知らないよっ!死なないんだったら!分からないよ!」
自分で何を言ってるかわからなくなっていくうちに、ガンタイガーは尻尾を俺の左胸に当てる
”人とは不可解だ、我を彫ってなんになる”
「……の、望んだことじゃ、な、ないし」
”黙れ”
左胸に衝撃が走り、吹っ飛んだ先から声が掛かる
”【黒・爆焦】”
背中に爆発的な衝撃が走り、俺は空へと舞う
”……バケモノめ、【隕・爆刀】”
舞う俺を狙い済ましたかのように、火の岩が腹に入る
もはや熱と痛みで痛覚が鈍ってきた所で、ガンタイガーは攻撃を止めた
”む……?ふむ、ここまでだな。貴様らが卵を盗むことは有り得んが、忠告はしておく。次はないぞ”
いつの間にか黒い卵を持っていたガンタイガーは、黒い脚に力を入れて地面にヒビを走らせながら跳躍して消えた
俺は、去っていくガンタイガーを見た後痛みと熱で気絶した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます