硬いだけで攻撃が出来ないってさ

魔物の死骸を見つけ、銅貨一枚支払って手に入れた火種で夕飯にしその日の一日を過ごした俺は、翌朝『魔物討伐局』といわれる建物に入った


受付嬢の人間の女の子やエルフの女性は、朝っぱらから【勇者】や【拳闘者】の下ネタに付き合わされていたり、ナンパされていた


ナンパ成功率が低かろうと、当たる時は当たるので男たちは挫けない。本能で生き残る奴らはやはり強いなと思えた

俺にだって性欲はあるし、毎晩1人で発散はしている

だが着る服も満足に買えず、常に上半身裸の俺には刺青が痛々しく入っているのだ


男は敬遠するか貶し

女は近寄らない


だから受付嬢が困った顔でこちらを見てきても、俺はその席からさっさと退いて男の受付を出せと念じるしか無かった



背中を壁にして立ち縋り、外から複数の足音に俺は目を開く

重々な鎧がガチャリガチャリと響き、両開きの大きな扉を開け放ったのは鎧兜で隠しきれないロングの金髪を揺らす【聖騎士】の女とその他の【聖職者】だった


神に仕える【聖職者】や【聖騎士】は職人気は高いものの倍率が激しく、さらに優しい心と邪な感情がないと成れない貴族御用達の【紳士】・【淑女】に派生できる職でもある


「この中に!殺人を犯した者がいる!今なら軽めに済ませるが後から報告すれば罪は重くなるぞ!!」


金髪の女【聖騎士】は局内を見渡し、怪しいヤツが居ないか探すと俺と目が合った


「貴様!ついてこい!!」

「……っ!、!」


俺は怪しいと思われたようで、聖騎士は俺の腕を掴み引きずろうとする


「なんだこいつ……硬い?」


俺だって男だし、聖騎士だからって女に負けたくはないから立ち止まったままだ


「く、う!動け!それとも魔封刺繍された刺青を発動して私の足を止めたのか!?」


見当ハズレな答えを推理する女がぐるりと回り込むと、俺の背中を見た


「背中から押し……貴様ァ!!我ら聖職を侮辱するかァ!!」


天使と悪魔の翼が絡み合う刺青なんて、こんな辺鄙な局内では面白おかしく笑い者にされるオチだが、聖職だけは違う

彼らは神を崇め、天使を尊び、自ら人の肉体が浄化され使徒になれることを誉れとしている

対する悪魔には、サタンを思わせる象徴を見れば嘔吐し、蠅を見れば半径100メートル範囲内を聖域に施し、サキュバス・インキュバスを見れば無意識に消滅させるほど面倒くさい


天使の6枚の翼が、悪魔の6枚の羽と絡み合う刺青なんて、俺の皮膚を削ぎたいくらいだろう

痛いのは嫌なので願ってもない事だが


「……『聖域天界』『浄化滅殺』『崇高なる神よ、この地を────』」

「ま、待ってくだされ聖騎士殿!その禁術はマズイですぞ!!」


聖職者のひとりが意識を失い無意識に禁術を発動させる聖騎士を止めると、当たりが爛々と光り輝き、神々しく変化し始めた頃に女聖騎士は我に返る


「わ、私は何を……確か、6枚の天使の翼が……くっ、思い出せない!」

「一旦引きあげましょう!」

「聖騎士殿!立てますかな!?」


俺は立ち去っていく聖職者の背中を見送っただけに済んだ


──────────


「どう思う?爺さん」

「急に喋るでない。お主の声は腹の奥底から変に響いて気持ち悪いんじゃ」


局から出て、さっきの出来事を路地裏にいたイゾウの爺さんに話す


「昨日の貴様の掘った穴は掘り返されてはおらんし、腐乱不死化の予防も済ませておる。死者が穴からはい出て聖職者達にバレたとしても、早すぎるしの」

「俺のことじゃないと?」

「可能性の話じゃ、神を崇める聖職者達の中には予知能力を持つ【万里眼】も居るからのう」

「てことは視られたか」

「可能性の話じゃ。今貴様に牢獄にはいられてはこちらも困るしの」

「爺さん……」


俺はうるっときた。長い付き合いなだけあって情が移ったのだろうか


「貴様の借金は体では支払えんからの、硬すぎて」

「俺の感動を返せ」

「落ちる涙がダイヤの宝石なら良かったんだがの」


イゾウの爺さんは煙管を咥え、ふかす


「今日は予定ないのか?」

「お前さんも言っておったが、聖騎士が彷徨いておるなら下手には動けん。痴情の縺れや浮気したから殺してくれだの、あとは絶えんがほとぼり冷めるまで局で金でも稼いでおれ」

「戻ったら聖騎士居るかも」

「齢20も過ぎて何をビビっとるか……待っとれ」


イゾウの爺さんは手を耳元に当て、無言で遠隔会話魔術を発動させる


「儂だ……そうか、切るぞ。おらんようじゃ」

「いつも思うけど誰と話してんだ?」

「企業秘密じゃ、さっさと消えんか」


路地裏から大通りに出ると、局をめざして歩いた


────────

「ん……チッ、来たなノットマウス」

「……」


俺は局内の受付男と面を合わせる


「【殲滅者】、ランクEで受けれるのは……ふむ、ノットマウス。お前時間あるか?」


こくりと頷く


「お前さんいつも午後から消えるからな、ランクB相当の依頼が来てるがやってみるか?」

「……?」


ランクEの俺には受けれない依頼を、この受付男は推薦してきた


「自由枠にランク指定がないんだ。ただの荷物持ちだろうがやってみねぇかって言ってんだ」

「……?」


それなら他の力自慢に相談すればいいものを、なぜ俺に?


「困惑……してんだよな?まぁ無理もねぇがランクBが9名のパーティだ、自ずと対象の魔物が理解できるだろ?」

「……?」

「知らねぇって顔してんな、てめぇみたいな刺青だらけの顔見て判断できる俺もどうかと思うけどよ」


早く魔物の名前を聞きたい。そう願ったら早々に答えを出した受付男


「その左胸が対象だよ。内容は『ガンタイガーの卵の回収』」


────────


現地集合、必要なものがあれば各自持参、報酬は道中遭遇した討伐モンスターの素材と1人につき銀貨10枚

10人パーティなので、銀貨100枚の依頼だがこれでも安い方だ

依頼人が出し渋ったのか、ランクBの【殲滅者】や【勇者】は少々性格の荒い奴が選出されていた


「ねね、魔術者ちゃんはどこ出身?」

「終わったら俺と遊ばない?いい宿屋知ってるよ」

「いえ、あの、遠慮します……」

「お堅いとこも可愛ーねぇ!」


比較的顔の整った魔術者をターゲットに、殲滅者と勇者は言いよっていく

助けを求めようにも他は素っ気なく、俺と目を合わせたところで背負う大量の荷物を持つランクEに何か出来るわけが無いし、気味の悪い刺青が嫌悪感を加速させている


「みんな仲良くするのはいいけど、今回の卵回収は命の危険があるから、気をつけていこうね!」


まとめ役になるつもりだろう回復者の男が地図を持ってそう言うと、ウーイと生半可な返事をした殲滅者と勇者、ほか8名は深い森の中、獣道を歩いて進めること10分で目的の物を見つける


「地図のとおりに来たけど……い、意外と早かったね」

「楽できて良いじゃないですかぁ回復者さんよぉ、回収してさっさと帰りましょうよ」


大量の荷物が無駄になったなと俺が思った瞬間、勇者の頭が火の魔法系の何かに撃たれ、吹っ飛んだ


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