防御MAX/不幸MAX

黒煙草

使い道に悩む子が生まれた

その力に気づいたのは早かった


クソ女が俺を売春宿の裏路地で産み落としてくれて、赤ちゃんだった俺の口を塞ぎ、首を絞めようと力を強めた


が、俺は死ななかったらしい

女が非力なのか?否、俺が硬かったのだ


例えるなら皮膚は鉄、血管はクオーツ、筋肉はダイヤ、骨はロンズデーライト、内蔵はウルツァイトの赤ん坊だ

渾身の力で抑えられた首は跡すら残らず、クソ女はその場を去ったが罪悪感で俺の元に戻り、拾い育てる決心が着いたとか


物心着いた時に、サンドバッグにされながら聞いた時は子供故に理解せず、納得した


理解しようにも、迫る拳が思考を遮るから


そんなクソ女から捨てられて乞食になった頃には、空腹で腹が痛かったのを鮮明に思い出せる

当時、乞食だった俺の横を過ぎていく人は良心を持って近付こうにも俺の姿を見て早々と立ち去っていく

なんせ顔から体全体、手指の先から足指に至るまで刺青が彫られているからで、着ている服もハーフパンツ一枚なので肌を露出しているのだ


クソ女は捨てる前、何とかして傷つけてやろうと借金してまで俺の体を傷つけ、返す当てもなく『世界の果て』に流されたとか


この世界に棲む鋭利な刃を持つカタギリスが右肩まで登っていくように右手首から彫られ、毒の鱗粉を振り撒くマッドチョウが左肩から指先にまで彫られている


左胸から左脇腹にかけては地上最強のガンタイガー

右胸から右脇腹にかけては海中最強のリヴァイアサン


右臀から太もも、膝に脛、ふくらはぎから踵にかけては空域最強ドラゴンがとぐろを巻き

左臀から太もも、膝に脛、ふくらはぎから踵にかけては溶岩地帯最強サラマンダーが這っている


背中には、柔らかな天使の羽が6枚と悪魔の羽が6枚重なり合って絡まっている


顔から首に敷きつめられた刺青には植物の蔦や葉や華が描かれているが、そのほとんどが指定危険魔薬物で、カラフルな彩りが近寄り難さを加速させる


歩くキャンバス、それが俺の乞食時代の名前だ


「……」

「おら、今日の報酬だ」


依頼達成に証として受付の男から報酬金を銅貨一枚を貰う


銅貨一枚、こんなものではパンすら買えない

しかし火種は買える。森に入って魔物の死骸でも食えば、腹の足しにはなるか


「相変わらず無口だな、ノットマウスとは言い得て妙だな」

「……」


口が利けない訳では無い、舌にあるソーセージと前歯全てに彫られたキャンディーの刺青を見せたくないだけだ


俺は魔物を討伐する仕事【殲滅者】に就き、辺境の魔物を討伐したりトレーニングを積んで年に1度か2度訪れる『魔物の大移動』に備えるている

【殲滅者】やほかの職にも言えることだがランクが別れており、下から

G、F、E、D、C、B、A、S

と順に挙がっていく

S以上の【殲滅者】のレジェンドは、この世界に二人しか存在しておらず、他の【勇者】や【魔術者】といった職業と連携して危険度の高い魔物が暴れないか、警戒しているらしい

暇そうな任務に見えそうだがプライドの高さで有名なドラゴンや、順を追った儀式をしないと逢えないリヴァイアサンと情報共有する必要があるので、何か一つミスをすればモンスターと人間の全面戦争が勃発してもおかしくはないのが今の世界の現状だ


俺は【殲滅者】としてのランクはEで、依頼達成率の高さの割に安く雇えるのが利点の人間と、評されている


「金欠ノットマウス!」


道行く子供に言われて振り向く

ちなみに無口ノットマウスとは俺のあだ名だ


「……」

「うわ、こっち向いた!逃げろー!」


俺のような連中がランクEの理由は金欠のためだ

Dに上がるには手数料の銀貨5枚が必要なため、報酬の銅貨1枚では食いつなぐのに精一杯だ

Dの殆どは一般家庭か没落貴族が大半で身内からの支援によってのし上がれるが、俺みたいな金欠達は筆記試験のみで上がれるE止まりが現状だ


文字すら分からなければそいつらは【殲滅者】すらならない、畑でも耕している


「……」

「ん?おぉ、ノットマウス。何か買ってくかい?」


刺青だけを見てこちらにすり寄ってくる爺はイゾウと呼び、東洋から来た【侍】と自慢げに話しているが今では無断で荷車を引いて商売をしている

昔は【侍】をしていたと自称していたが、【侍】の特徴でもある刀が無ければ服装も西洋かぶれだ。東洋らしさが1ミリも見当たらない

イゾウは荷車の中から野菜を取り出す


「今朝盗れた根野菜じゃ」

「……」


盗むなと突っ込みたいが、口を閉ざす


「1つ銅貨1枚でどうじゃ?」


足元を見るのがお好きなようで、俺は首を横に振る


「そうか、残念じゃ」

「……」

「何か言いたげな顔じゃが、喋らぬとわからぬぞ?」


俺はイゾウの爺さんの耳元に顔を近づける


「依頼はなんだ?」

「討伐じゃ」


野菜の売買はイゾウの爺さんが使う隠語だ、覚えるのに半年は掛かった


「数」

「1」

「種類」

「ゴブリンキング」

「……笑えるな」


イゾウはにこやかな顔をすると俺から離れる


「街への進行を企てておる、仲間はこちらが用意した」

「……」

「不満かのぅ?今の、お主の立場で文句言えるのなら大したものじゃ」


俺を産んだ親をクソ女と呼ぶ理由

勝手に彫った刺青料金、その借金を残して俺に回してきたことが原因だ


イゾウの爺さんは表向きでは野菜を盗む放浪者だが、裏の顔は街の闇に潜む金貸し屋の1人なのだ


「あと金貨100枚と銀貨50、銅貨が38枚……いや?これで37枚かのぅ」

「……」


握る銅貨1枚を奪われ、1文無しの俺は途方に暮れる。昨日まで99枚だった金貨が100枚を記念したのだ、このじじいを殺したい


「利子がまた増えてしまったのう……何をしておる、さっさと行かんか」


面倒くさそうな顔をして煙管に火を灯すと、白煙を燻らせるイゾウ

俺はパンツ1枚に腰に巻かれた布で汗を拭き取り、歩き出した


───────


「お、肉壁が来たぞー」

「やっと楽できるぜ……頼むぜノットマウス」

「待ちくたびれたけど、やっと行けるわー」


俺はパンツ1枚に腰に布を巻いただけの姿で、ブルーシートを抱えてゴブリンキングのいる森にたどり着き顔を上げる


数は3人

1人は【勇者】、軽装な鎧と両刃の剣を背負っている

1人は【回復者】、白いローブに短い杖と本を手に持っており

1人は【魔術者】、茶黒のローブで長杖を両手でしっかり掴んでいた


「おいてめぇ、俺の女に顔むけんなよノットマウス!あとなんだそのブルーシート!?」

「……」


【勇者】は【魔術者】と彼女らしい

【回復者】は肩身狭いだろうなと思ったが、彼の目を見た瞬間違ったことに気づく


「勇者、あんま自分のもんだって言わねえほうがいいぜ」

「あん?なんだ回復野郎?事実だろ」

「うーん……」

「なんだよ……昨日はあんなによがってただろ!?血も流して初めては俺が奪ってやったのによォ!」

「そんな小細工に気づけないバカなんて、ダッセェ」

「ご、ごめんね勇者」

「勇者ァ、中古の抱き心地どうだった?アッハッハッハッハッ!!」

「て、てめぇ!!回復野郎!!」


イゾウの爺さんが、このパーティを俺に押し付ける理由はこれだ


依頼内容の『ゴブリンキング』

”ゴブリン”の言葉の裏にはアホを意味するが、【勇者】を揶揄する言葉でもある。Sランクの【勇者】のひとりがゴブリンからの攻撃でケツに致命傷を負って死んだことから始まった言葉だ


”キング”は性格を表している。俺の住む国の王様が、強欲で傲慢で私利私欲のために国民の金に手をつけるなどの悪の塊を”キング”と称している


『ゴブリンキング』とは『間抜けな【勇者】』と言うことでそれの討伐ということは、死体埋めでもやれってことだろう


「回復野郎!ぶっ殺してやらぁーっ!『スラッシュ』!!」


勇者の怒気迫る両刃剣に、短杖で防ぐ回復者


「あっぶね!」

「防いでんじゃねーっ!」

「うっさいバカーッ!」


背後から魔術者のフルスイングした長杖が勇者の項靭帯を粉砕させると、息を詰まらせた勇者。そのまま地面に倒れ込むと意識を失った


「大丈夫!?」

「ありがとう魔術者ちゃん、助かったよ」

「あ、あなたに頼られて嬉しいな……ん、ちゅ」

「んむ、れろ……」


二人の世界に入ったのを俺は見て、2人の近くにシートを敷くと穴を掘り始める


どうせこの森の中で情事を始めるだろう、回復者にシートを敷いたことを目配せすると気絶した勇者を引きずっていく俺

魔術者と回復者だ、モンスターに襲われてはと2人の行為が見えるとこで穴を掘り始める


「ぐ、ぁ……」


勇者は生きてたが、掘り終わった穴にぶち込んで土を被せる


「イク、ぐ、んんっ!」

「んぁっ、は、あぁっ♡」


回復者の達した声と魔術者の嬌声が響いたのを耳にした



────────


「お疲れじゃ、ノットマウス」

「……」

「言いたいことは分かるが、まずは埋めた場所を教えんか」


イゾウの爺さんは帰ってきた俺にお疲れと言い放ち、手を前に出す


「……」


俺は地図を差し出す


「ほっほ、よくやったわい。また頼むぞい」


ほくそ笑んだイゾウの爺さんの顔を見て、俺は森に入って野宿した

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