第45話 流れた神子2
慎也たちが自宅に戻ると、心配そうな顔をした沙織が出迎えた。
「美月さんは、どう?」
……。
皆、悲壮な顔をする。
「そう。元気なはず無いよね。ごめんなさい…。
父の話では、あの三人は隅田川乙女組の元メンバーの指示で動いていたみたいです。
そっちも手を打つって言ってました」
「やっぱりね~。 ……あ、また地震」
少し揺れる。今朝から変だ。
富士山の噴煙はどうなったのだろう…。
スマートフォンの着信音が鳴る。恵美の物だ。
「母様。どうしました? えっ? ……。」
恵美によって、皆に集合号令がかかった。
恵美はシリアスモードになっている。
「今、母から連絡がありましたが、今朝からの地震は、美月さんの
このまま放置しますと、大変なことになります。
私の祖母の指示で、神事の準備が進められています。
その神事を、今日の午後、結界中央の奈来早神社で行って頂きます。
必要な物は、私の母が持って参ります。すぐ
拝殿では準備が進められている。
舞衣以下、美月以外の『
挨拶もそこそこに準備している恵美の母親=尾賀真奈美は、白衣に緋袴姿である。
準備が整い、神事が始められた。
慎也の読み上げる祝詞が朗々と響き渡る。
続いて真奈美による、神事舞。
この舞は、尾賀家に代々伝わるものだ。
尾賀家の女は、小さい頃から、この舞をしっかりと叩きこまれる。
実は真奈美は、これが苦手。
よって恵美は、母からでなく祖母に舞を習っていた。
真奈美は宝珠を使う能力も弱く、そのために年老いた恵美の祖母がいつまでも現役でいるのである。
対して恵美は能力が高く、真奈美は自分を飛ばして恵美に次を継がせたがっていたのだ。
今回の舞も恵美がした方が完璧に出来るのだろうが、恵美は『
祖母は足を悪くしていて、もう舞えない。
仕方なく、真奈美が舞の役を受け持ったのである。
(あ、母様、違う!)
舞の途中、恵美は、真奈美が足運びを間違えたのに気が付いた。
間違えたといっても、些細なこと。左右の順番が、数歩入れ替わってしまっただけ。
すぐに帳尻が合わされた。
(
神事が上手くゆけば、流れた胎児は仙界に送られて消えるという。
途中で指摘して神事を止めるのもどうかと思い、恵美はスルーした。
舞が終わり、玉串を奉っての拝礼。
慎也に続いて、
そして、昇神の儀。
胎児の入った箱の前で慎也が昇神詞を微音奏上し、
「オー…」
響き渡る警蹕に合わせ、箱が白い光に包まれた。
そして、消えた。
胎児は異界に送られていった…。
皆、無事終わったと安堵したところで、
「母様~。舞を間違えたでしょ~」
恵美は、神事中に出来なかった指摘をした。
「そう? でも上手く仙界へ送ることができたから、良いじゃない」
「そーですけど~。全く、へっぽこなんだから~」
非難された真奈美は、膨れっ面を見せる。が、特に反論はしない。
自分が「へっぽこ」という自覚は十分にあるのだ。
ここにいる皆、神事は上手くいったと思っていた。
胎児の箱が消えたから…。
しかし、神事舞の足運びは、非常に重要だった。
胎児の箱は、仙界には送られていなかった…。
別のところへ行ってしまっていたことを、ここにいる誰も知らなかった。
富士山の噴煙が収まったとのニュース速報。
地震も落ち着いてきたようだ。
美月は心配だが、取り敢えずは、皆、ホッとした。
この日は、真奈美も泊まっていくことになった。
真奈美は、祥子の料理に大層驚く。
毎日、こんな美味しいものを食べているのかと、散々恵美を
夜の生活のことに関しては、真奈美は特に指摘してこない。
娘たちがどういう立場になっているのか十分理解して、その上で、それを許しているのだ。
といっても、恵美の母親がいるのに、いつものような交合をするわけにはゆかない。
おまけに、美月の件があったばかりだ。
今日の交合は、休止である。
恵美と真奈美は奥の水屋一階で、他の女性陣はいつもの座敷で、慎也は離れで、それぞれ就寝した。
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