第44話 流れた神子1

 六月二日。早朝。


 慎也たちは、地震で目を覚ました。

 結構大きい。

揺れが収まってすぐ、テレビを付けた。


 地震速報。震度四。震源地は岐阜県美濃地方西部。

 この近辺だ。


 祥子と沙織が、火の元を確認しに行った。


 慎也たちは引き続きテレビから情報を得る。

 すると、この地震の前に福井で震度三、徳島で震度五の地震があったことが分かった。


「こ、これマズくないですかね~。

あと、富士山にも何かあれば、異界の結界に関係しているかもしれませんよ~」


 恵美が顔をけわしくしながらつぶやいた。


 これは杞憂に終わらなかった。

 明るくなってきて、富士山宝永火口から煙が上がっているという速報が流れたのだ。

小さな地震も頻発ひんぱつしているようである。


 舞衣のスマートフォンが鳴る。

 まだ早い時間だというのに…。

 美月からだ。


 舞衣はいぶかしみながら、電話に出た。


「美月? どうしたの? こんな早くに。そっちは、地震大丈夫?」


『……』


「美月? どうしたの? 泣いてるの?」


 緊張が走る。

 スマホで通話中の舞衣を、皆が注視した。


『私、皆さんの仲間になれなくなっちゃいました……』




 美月からの電話は、強姦され、流産してしまったことの報告だった。

泣きながらの…。


 今日は神社社務所を閉めることにし、慎也・舞衣・祥子・恵美で病院に駆けつける。

向かう車の中では、誰も、何も話さなかった。


 病院に到着し、舞衣が真っ先に病室に駆け込む。

 大泣きする美月を、しっかりと抱き締める舞衣。

 慎也たちは、二人を見守るしかない。


 しばらくして、少し落ち着いた美月の患部を出させた。

 何度も下腹部を踏まれ、蹴られている。

 内臓にもダメージを受け、まだ相当痛いらしい。


 慎也が手を当て、治癒させる。

 心の傷は別として、体の傷は、これで完治した。

すぐにも退院できるはずだ。


 妊娠のことは両親に知られたくない為、実家には連絡していないという。

 「退院の時に迎えに来るから必ず連絡するように」と念を押して、慎也たちは退出した。



 帰りの車の中。

 慎也は、後部座席の二人に訊いた。


「恵美さんの千里眼で、犯人分からない?」


「過去のことは分かりませんから無理です~。

私には、今の状況が見えるだけです~」


「祥子さんは?」


「宝珠を仙界に置いてきてしまったからのう。

ワラワには、千里眼の力も探索の力も無い」


「あ!」


 いきなりの恵美の声に反応して、助手席の舞衣が振り返ろうとした。

 が、すぐに恵美がそれを止めた。


「みんな、後ろ見ちゃダメよ。後ろの車、怪しい…」


 慎也は、ミラーで確認した。


 少し車間をとって、つけてくる。

 体格の良い男が運転していて、後部座席にも二人の男。


「たぶん、犯人、こいつらよ~。舞衣さんを狙っているのかも…」


「えっ、わ、私?」


 舞衣が驚く。


「美月さんが襲われて、今、舞衣さんが乗ってる車を付けてるのよ~。

隅田川乙女組関係じゃないですか~。

暴露された仕返しでしょう~」


「ひどい! ひど過ぎる……」


 舞衣は、怒りに震えている。


「舞衣さ~ん。捕まえちゃいましょうよ~」


「うん。絶対捕まえる!」


 作戦は恵美が立案、すぐに実行に移した。


 千里眼の力で付近の良い場所を探し、舞衣を降ろす。

 無人駅の近くで、倉庫のような建物が並んだ、人通りが無い寂しいところ。

これから舞衣だけ一人、電車に乗るという設定だ。


 この状況で舞衣を一人にするというのは、あまりにあからさまで、警戒して接触してこないのではないかとも思った。

 が、敵は単純な奴ららしい。上手うまく引っかかったようだ。


 敵の動きは、恵美の千里眼で完全に補足している。

 慎也たちは離れたところで車を停め、後を付けてきた男たちに気付かれないように周りを固めた。


 いざとなったら、祥子が、念力でねじ伏せられるよう準備。

 恵美はどこで拾ったのか、一メートル程の硬そうな木の棒を持って、物陰に隠れながら距離を詰めていた。


 男の一人が舞衣に接近する。


「舞衣ちゃん。こんにちは~」


 舞衣は、キッと男をにらみつけた。

 あとの二人も、続いて舞衣の前に現れる。


「あなたたちね。美月をおそったのは!」


「そうだよ~。よく分かったね~。

次は舞衣ちゃんの番だよ~。俺とキモチイイことしようよ~」


 下卑た笑顔だ。


 男が美月を襲ったことを肯定したのを見計らって、恵美が飛び出した。

 風のように速い!

 男たちと舞衣の間に飛び込み、しゃがんだかと思ったら、すぐに方向転換して男たちに向かって跳びかかる。


 細くしなやかな恵美の体が宙を舞う。


「ぎゃう! があ! うぐ!」


「ご! うが! うげ!」


「ぐえ! が! うご!」


 恵美の手にある木の棒で、それぞれ三発ずつ打ち据えられる。体格の良い三人の男たちが、あっという間に叩き伏せられていた。

 祥子の出る間も無く、数秒で…。


「す、すごい恵美さん……」


 舞衣は、すぐ目の前の出来事に唖然あぜんとして立ちつくしていた。


 いつものノンビリした口調の恵美からは、全く想像もつかない。

 彼女の母親が剣術道場の師範で、恵美は師範代という話は聞いていた。

しかし、まさか、ここまでの腕前とは……。


「あばら骨、折れてるかもね~。大人しくしてね~」


 この場面でこの口調は、バカにしているようにしか聞こえない。

が、男たちは抵抗できず、恵美にしばり上げられてしまった。

 縛ったロープは、恵美が自分のカバンから出した物。

いつも持ち歩いているのだ。用意周到である。


 すぐに沙織に電話し、公安に連絡してもらった。

直接警察に通報すると、事情聴取等、色々面倒だったからだ。


 警察が到着すると、三人を引き渡した。

 簡単な事情説明だけで、慎也たちは直ぐ解放された。


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