第11話 三人での交合 舞衣

 食事が終了し、片付けを終え、祥子に導かれて交合の儀を行った部屋、通称「交合の」に来た。

祥子の手によって、すっかり綺麗にされている。血や吐瀉物としゃぶつの臭気は…少し残っているが…。


「まだ、ちょっと臭いが抜けきらぬか…。まあ、じき消える。我慢せい」


 祥子も気になっているようで、自分から、この点について触れた。

 それに対して、舞衣が申し訳なさそうな顔をする。何といっても、これは舞衣由来の臭いなのだ。

 しかし、舞衣に責任があるわけでは無く、彼女は被害者だ。慎也も祥子も、舞衣を責めるつもりは更々無い。


「さて、これから次の満月までに、何人かの女が送られてくる。祝部が帰るのは、満月の日の朝じゃからな。それまでに、送られてくる女をはらませねばならぬ。そうしなければ、女たちは戻れなくなってしまう」


「何人かって言って、実際、どの程度の人数ですか?」


「たいてい五人くらいが来ると思う。いつ来るか、一度に来るか、ばらばらに来るか、その都度違うので分からぬ」


「五人…。そんなに相手しないといけないのか……」


「おいおい、ここにも二人居るぞ。忘れないでもらいたいのじゃがな…」


「あ、も、もちろん!」


 慎也は大きくうなずく。


「取り敢えずじゃ。今のところは、ワラワも含めて女は二人のみ。ワラワは見込み薄いかもしれぬが、六十年に一度の貴重な機会。早速、御なさけを頂戴したいのじゃがのう~」


 祥子が慎也の右肩に、しなだれかかってくる。そして、そのまま舞衣の肩に右手をかけて引き寄せた。


其方そなた身籠みごもれば帰れるはずじゃ。

他の女が来る前に、共に十分に可愛がってもらおうではないか」


 祥子の柔らかい胸が、慎也にムニュッと押し付けられる。

 舞衣の胸も小さくは無いが、明らかにその上をゆく豊かな祥子の胸。物凄い色香で、慎也の心臓の鼓動が速くなる。


「で、どちらから致すかの?ワラワが先だと、すべての精を吸い尽くしてしまうかもしれぬから、其方そなたから致してもらうかえ?」


「す、吸い尽くすって…」


 慎也は、不安な一言にドキッとした。祥子はニヤッと笑った。


「一人で、やることも何もないからな。宝珠ほうじゅで色々な『まぐわい』を研究しておるからのお」


「「宝珠?」」


 慎也と舞衣は声を揃え、それぞれ、真ん中にいる祥子を見る。


「うむ、ワラワの部屋にある宝の玉で、ワラワが念ずれば遠くのモノを映し出すことができる。元の世のことも映るのでな、色々見て楽しんで居る」


「も、もしかして、それで俺たちの儀式の様子を見ていたんですか?」


「そういうことじゃ。さあ、後の方が急かされずに楽しめるので、ワラワは後が良い。舞衣というたか? 先にしてもらってこい」


 祥子ののぞき見の方法が判明したところで、慎也と舞衣は、祥子の手によってスッと帯を解かれ、裸にさせられた。

 そして背中を押され、あの、つたのベッドへ乗せられた。


 儀式のときは必死で気にしなかったが、このベッドは、どういう構造になっているのか?

 外側はからまったつたつる。中のくぼみに干し草のような物が詰められて、白いシーツがかけてあるのか?柔らかくて心地良い。


 舞衣はベッド中央に横臥する。

 その隣に横になって片肘かたひじを着いた慎也。


「舞衣さん。良い?」


「はい、お願いします」


 恥ずかしそうに顔を赤めながら答える舞衣。


 慎也も緊張で少し震えながら、舞衣の唇に自分の唇をそっと重ねた。


 良い香りが鼻腔に拡がる。乙女の香り……。

 張りがあり、それでいて柔らかい唇の感触……。


 慎也が舞衣の口の中に舌を入れると、舞衣も慎也へ舌を入れてくる。

 舌をからませ合う。


 ゆっくり離れ、慎也は舞衣の上に馬乗りになり、その豊かな胸を……。




 舞衣を妊娠させるのが慎也の役目。『神子』を妊娠しないと、彼女は元の世界に戻れない。

 絶対に戻りたいと、舞衣は言う。であるなら、それを叶えてやりたいし、叶えてやらなければならない。

 なんとしても、舞衣を妊娠させなければならないのだ。


 その、妊娠させるためにするのが、これから行う行為…。

 交合。…性交・性行為とも、まぐわいとも言う。まあ早い話が、セックスだ。


 することは、一口で言ってしまえば、「男性の生殖器を女性の生殖器内に差し込んで、精液を放出する」という、それだけのこと。

 その後は、精液内の精子が自分で泳いで卵子にたどり着き、受精・妊娠する。だから、精液さへ女性の生殖器内へ注入できれば良い。


 …が、単に、「精液を入れる」という、それだけで良いのか?



 神代の昔、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冉尊いざなみのみことの男女二神が互いの性器を結合させて国を生んだと『古事記』『日本書紀』の神話に記されている。


 性交は、世の始まりに神が行った神聖なる行為であった。


 その際、二神は事前に話し合い、互いを褒め合い、互いの合意のもとに一つに繋がって生殖を果たした。

 この神話の話は、男女が体だけでなく、心も一つにするという過程も重要なのだということを表す。


 今回は特に『神子』という特別な存在を産むための行為。であるならば尚更、神聖な行為として、「心も一つに」ということが重要になってくるであろう。

 だからこそ、『選択の巫女』を最も感じさせたものが『龍の祝部』に選ばれるという、一見、余分にも思える工程が入っていたに違いない。


 欲するまま身勝手に女性を犯したりせず、相手と心を通わせ合って交わることが出来るかどうか。この聖なる行為を穢すことのない男かどうかを見極めて、祝部にする為に。

 龍の力を分け与えられるのであるから、これくらいの試練は止むを得まい。

ついでに、龍も生贄を得て力をつけるということであるのかもしれないが……。



 あの「選択の儀」の際、黒龍は、まず石井を喰った。怪我している舞衣に無理やり挿入して瀕死状態にさせたのだから、当然だ。


 次の白龍は最初、慎也を金縛りにした。つまり、慎也を喰うつもりでいた。

 生殖器と生殖器の結合という、子を生す為の根源の行為を果たさなかったのだから、これも当然の判断だろう。子が出来ないと話にならないのだから…。


 しかし、『選択の巫女』舞衣の取った思い掛けない行動。更には生殖器同士の結合をしたとはいえ、最初から最後まで苦痛と嫌悪しか感じさせなかった田上…。

 再考の結果、お情けのような判断で慎也が『龍の祝部』に選ばれたのだ。

本来なら即失格だが、まあ、実際にシテいれば、多分、相手を尊重した交わりをするだろうと…。


 そして、今、その白龍の判断は正しかったことが証明されている。

慎也が実行中の、舞衣との交わりによって…。


 今、慎也がしているのは、女性の受け入れ準備を整えさせるための行為だった。


 交合に際しての男の生殖器は、比較的簡単に準備完了する。…勃起。女性に挿入できるよう、大きく硬くなればOKなのだから。

 慎也の相手になっているのは元トップアイドルの究極美女、舞衣だ。当然のこととして、慎也の方の準備は、もうとっくに完了、準備万端いつでもOKなのだ。

 あとは、結合と射精で終了。


 だが、男の方が良いからと言って、受け入れる女性の方の準備が出来ていなければ、女性は痛いだけだ。硬く太い異物を腹部に挿入されるのだから…。


 互いにふれあい、入れられる女性の気持ちを高めてゆく。結合しても痛くないように女性の生殖器を潤わせさせる…。それと共に、繋がるという気持ちを一つにしてゆく……。


 慎也は、これを念入りに行っていた。

 初めてであっても、どうすれば良いのか、なんとなくわかる。これは、本能の様なモノか…。


 ………。


 十分に舞衣の受け入れ準備が調ったのをしっかり視認し、指でも再確認し、更には言葉でも、繋がる最終合意を得た。


 その上で、彼は…、


 舞衣と繋がった。


 そして、舞衣は…、

 慎也と身も心も一つになった快感を存分に味わう…。


 更に、彼女の生殖器は、慎也の聖なる生殖液で潤し満たされた。


 ………。


 事を為し終えた後も少しの間、二人は動きを止め、抱き合ったままでいた。


 ……汗ばんでいる。


 互いの荒い呼吸音が聞こえる…。

 ドック、ドック…という、心臓の鼓動音も…。


 生きている、生命の音……。


 そして、今、二人が為し終えたのは、新たな生命を作り出さんとする行為であった。

 慎也は舞衣からゆっくり体を起こし、繋がりを解いた。



「終わったようじゃの。舞衣よ、初めての気持ち良いマグワイであったのではないか? よかったの」


「い、嫌だ、恥ずかしい…」


 舞衣は、小さい声で言って、そっぽを向いた。

 だが、確かに祥子の言う通り…。


 選択の儀のは、強姦と言ってよかったし、完全に痛いだけであったのだ。

 慎也とも一応シタことはシタが、生殖器同士の正しい交わりでなかったし、あの時はもう必死だった。

 今回が初めて望む形での正しい交合であり、そして、男性と繋がる快感を存分に味わえたのだ。


 舞衣にとっての、本当の意味での「初体験」と言って良かった。

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